更新日: 2020.04.30 その他

2020年4月に改正された法律、企業実務で注意すべき点って?

2020年4月に改正された法律、企業実務で注意すべき点って?
新型コロナウイルス騒動が連日報道され、毎日感染者が増え続ける現状では、不安ばかりが増大し、日常生活を送ることが難しくなっていると感じる方は多いかもしれません。
 
ただ、4月は年度替わりで法律が改正されることが多い時期です。通常この時期には、勉強会や研修など法改正を勉強する機会は何度もあるでしょうが、今年の年度末は、私たち専門家の研修も軒並み中止となっています。
 
一部、所得税の確定申告の延長などもされていますが、通常業務は特例が適用されるものばかりではありません。例年どおりの取り扱いが変わっているものもあります。4月以降、企業が注意すべき法改正について見ておきましょう。
 
當舎緑

執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)

社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
 

見逃せない労働基準法の改正事項とは

例年であれば3月中、もしくは年度替わりの4月に、時間外労働や休日労働を社員にさせることのできる労使協定、いわゆる36協定を提出する企業があるでしょう。2020年は、中小企業では、3月中に提出するのか、それとも4月以降に提出するのかで様式が異なっています。
 
この労使協定の提出をこれまでしていない中小企業もあるかもしれませんが、社員に過労死につながるような長時間労働をさせないための、周知というのも大きなポイントですが、もう一点は企業が損をしないようというポイントからも、この労使協定の締結と届出が必要だと感じています。
 
実は民法改正に合わせて、賃金請求権の消滅事項、そして企業が保存すべき書類の保存期間が延長されます(令和2年4月1日施行)。
 
賃金台帳、労働者名簿、雇い入れ、解雇、災害補償、賃金その他、労働関係に関する重要な書類については、保存義務が5年間に延長されるのです。
 
賃金請求権の消滅事項が5年に延びる(当分の間3年)ということは、しっかりと管理をしておかないと、もし、すでに退職した社員から未払い賃金を請求されたときに、反論すべき証拠が見当たらず、結局請求された賃金債権をそのまま支払わざるを得ない事態も想定されます。

雇用保険関係の改正。微々たる改正に思えるものの

雇用保険料は、毎月給料から天引きされているのですが、社会保険料に比べれば少額なために、あまり意識しない人も多いでしょう。ただ失業したとき、教育訓練を受けたいとき、再就職したとき、育児休業をしたとき、そして介護をしたときなど、意外と利用される場面が多い保険といえるでしょう。
 
雇用保険については、4月1日の改正事項と8月1日の改正事項が大きな改正点です。
 
まずは4月1日の改正点です。高年齢者の雇用保険料が徴収されることになります。これまで保険年度の初日、4月1日時点で64歳以上であれば、雇用保険に加入はしていても、保険料は「免除」という取り扱いでした。この免除期間が終了します。
 
64歳以上の労働者について、これまで0円で設定していた給料計算ソフトの設定変更を忘れないようにしましょう。
 
また、64歳以上の方にも説明の機会を設けるか、説明文書を作成するというひと手間をかけると、その都度質問に答えることなく、一度にすることで説明の手間が省けるでしょう。
 
もう一点は8月1日施行の改正です。パートや短時間労働者を雇用する企業にとっては、注意すべき内容です。雇用保険の被保険者は、通常、週20時間以上、雇用見込み期間が31日以上であると適用されます。ただ、退職したときに失業の給付を受け取るためには、賃金支払いの基礎となる日数が11日以上ある月が、12ヶ月以上あることが必須となっていました。
 
労働時間の短い労働者の場合、週2回勤務や週3回勤務が混在すると、11日以上という日数の要件を満たせなかった、ということが生じていたはずです。
 
この要件に、時間数が80時間以上であるものを1ヶ月として計算する、という要件が追加されます。これは、日数は少ないものの、1日あたりの時間が多い労働者がいる場合など、今後雇用保険への加入を検討する準備を始めるべきでしょう。

これからは苦手とはいっていられない電子申請

政府が、令和2年度以降、中小企業が国や地方の補助金を簡単に申請できるシステムを導入します。厚生労働省関係の、国、地方の行政手続のうち、インターネット申請を実施しているものは10~20%にとどまっています(※)。
 
令和元年12月20日のデジタルガバメント閣僚会議では、令和6年度までに国の行政手続の9割をオンライン化する、という計画が立てられたそうです。
 
これまでの行政手続については、それぞれ個別のIDやパスワードが必要だったりと、管理が煩雑でした。私たち社会保険労務士が電子申請する場合にも、有料で電子証明書を取得し、依頼を受けた企業から委任状を受け取り、パソコンにスキャンしたものを添付するという、電子申請に至るまでには、多くのハードルがありました。
 
それが、法人番号を活用したGビズIDで社会保険や雇用保険、補助金が申請できるようになる予定だそうです。今後、実際に役所に行くより電子申請をしたほうが、企業にとっても楽ができるという事例はどんどん増えるのでしょう。
 
一例でいうと、ハローワークの窓口では、4月は例年大変混雑しています。私も電子申請を導入する前には、ハローワークでの届出数枚に半日以上を待ち時間に費やしたことがあります。
 
社員に給料を支払っている企業からすると、働き方改革を進め、効率よく社員を働かせるためにも、役所への往復の時間と待ち時間が削減されるというメリットは見逃せないでしょう。これまでは、面倒だといっていた電子申請にチャレンジする意義はあるのではないでしょうか。
 
いつ、新型コロナウイルス問題が収束するかわかりません。自粛といわれてもどこまで何をしてもいいのか、いつまで自粛すればいいのか、悩む場面は多いでしょう。
 
通常の生活が難しくなっている現状では、新しい法改正をしっかりと勉強する暇もないでしょう。どれが自社にとって重要なのかを判別しにくいのもわかるのですが、ただ4月はさまざまな法改正が行われる時期でもあり、忙しさに紛れて情報を見逃し、損をすることのないようにしたいものです。

※2020/04/30 執筆者名に誤りがございましたので修正させていただきました。

(※)参考:厚生労働省 厚生労働省における行政手続等のオンライン化等の状況(平成29年度)
 
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。


 

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