更新日: 2020.05.12 その他年金

【FP解説】年金の「知らないと損!」 繰り下げ請求で気を付けること

【FP解説】年金の「知らないと損!」 繰り下げ請求で気を付けること
全員が加入しているにもかかわらず、学校でも習わないし、周りに知っている人も少ない年金制度。
 
そのような理由からか、「さあ、もらおう」とすると、すでに手遅れになっている場合も。「しまった!」と、ほぞをかむ思いをしなくてもすむように、あらかじめ知っておきたい知識の数々をお伝えします。
 
第15回は「繰り下げ請求で気を付けること」です。
 
和田隆

執筆者:和田隆(わだ たかし)

ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士

新聞社を定年退職後、社会保険労務士事務所「かもめ社労士事務所」を開業しました。障害年金の請求支援を中心に取り組んでいます。NPO法人障害年金支援ネットワーク会員です。

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受給額を増やすのが狙い

前回は老齢年金の繰り上げ請求について説明しました。今回は、繰り下げ請求です。
 
老齢年金には、国民年金に加入していたことで支給される老齢基礎年金と、厚生年金保険に加入していたことで支給される老齢厚生年金があり、自営業や専業主婦だった人は老齢基礎年金のみ、厚生年金保険に加入していた人は老齢基礎年金と老齢厚生年金が支給されるのは、前回説明したとおりです。
 
老齢年金は納付要件などを満たしていれば、65歳になると請求できますが、請求を遅らせて受給額を増やそうというのが繰り下げ請求です。

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大きな増額率が魅力

繰り下げ請求は、66歳の誕生月以降にできます。請求月(日本年金機構の文書では「繰下げ申出月」と表現されます)を1ヶ月単位で選ぶことができ、請求月の翌月分から支給されます。
 
年金額の増額率は、「0.7%」×「65歳到達月から繰り下げ請求月の前月までの月数」です。つまり、66歳の誕生月に繰り下げ請求をすると、増額率は0.7%×12=8.4%となります。
 
同様に、67歳の誕生月なら16.8%、68歳の誕生月なら25.2%、69歳の誕生月なら33.6%、70歳の誕生月なら42%です。かなり大きな増額率ですね。
 
もっとも、繰り下げ請求は、65歳からの受給と比べて受給開始が後になりますので、早くに亡くなればそれだけ損をすることになります。何歳まで生きると損をしないのかという損益分岐点を計算してみたのが次の表です。
 
この年齢以降は、繰り下げ請求をした場合のほうが受給総額が多くなり、その差は広がる一方です。ただし、物価の変動や社会保険料、税金などは考慮していません。
 

受給開始月を別々にするのも可能

繰り下げ請求は、繰り上げ請求と違って、老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時にする必要はありません。どちらか一方だけを繰り下げることが可能です。また、受給開始月を別々に、例えば、老齢基礎年金は67歳6ヶ月、老齢厚生年金は68歳9ヶ月というようにずらすことも可能です。
 
ところで、繰り上げ請求にリスクがあったように、繰り下げ請求には次のようなデメリットがありますので注意が必要です。

加給年金がもらえない

老齢厚生年金を繰り下げると加給年金がもらえません
加給年金というのは、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある人が、65歳未満で厚生年金保険加入が20年未満の配偶者、または子(18歳に達する日以後の最初の3月31日まで、または20歳未満で障害等級1、2級に該当する場合)を生計維持している場合に、老齢厚生年金に加算されるものです。
 
年金額は、令和2年度の場合、配偶者と1人目、2人目の子が22万4900円、3人目以下の子が7万5000円です。
 
さらに、配偶者の加給年金には特別加算があります。老齢厚生年金を繰り下げている間、つまり受給していない間は、この加給年金や特別加算が支給されません。
 
しかも、繰り下げをやめて老齢厚生年金を受給し始めても、増額はされません。したがって、こうした加給年金を受給できる人は、繰り下げるのは老齢基礎年金だけにして、老齢厚生年金の繰り下げはやめておいたほうがよいでしょう。

増額対象は調整後の年金額のみ

在職老齢年金の繰り下げ受給では、調整後の年金額のみが増額の対象になります
在職老齢年金は、老齢厚生年金の全部または一部が支給停止になっています。この場合、在職老齢年金として受給できる部分だけが増額の対象になります。
 
したがって、繰り下げをしても実際に増額される額は、あまり多くならない可能性があります。年金事務所で試算してもらってから、繰り下げを検討することが大切です。

振替加算がもらえない

老齢基礎年金を繰り下げ受給すると、振替加算を受給できません
加給年金を受給していた人の配偶者が65歳になると、加給年金は停止され、配偶者に振替加算が支給されます。
 
このとき、配偶者が老齢基礎年金を受給していないと、振替加算が支給されません。振替加算を受給できる人は、その額しだいですが、老齢基礎年金の繰り下げをやめておいたほうがよい場合があります。
 
執筆者:和田隆
ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士


 

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