「月々の支払額を考えると戸建がおトク!」それって本当なの?
配信日: 2020.03.24
官公庁や多くの学校も4月から新年度となります。3月期決算の会社にとっても、3月は売上などの営業成績を固めるための“最終コーナー”なのです。戸建やマンションなどの分譲住宅業界でも、手持ちの在庫を3月末までに契約・引き渡しをするためにいろいろな策が活発化します。
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
「月々の支払額を考えると戸建がおトク!」の中身とは?
こうした状況などにおいて見られることがあるのが、次のようなセールストークです。一体、どういうことなのでしょうか。
(あ)「同じ価格の物件ならば、マンションより戸建の方が月々の支払額が楽ですよ」
(い)「月々の支払額が同じならば、マンションよりも戸建の方がより高価格の物件を手に入れることができますよ」
少し単純化したものですが、次のようなモデルケースで比較してみましょう。
※(A)~(C)は、マンションと戸建で共通
(A)販売価格
4500万円(税込)
(B)自己資金
500万円(諸費用は別に自己資金を充当する)
(C)借入金
4000万円
・借入期間 30年
・返済方法 元利均等毎月返済(ボーナス返済分なし)
・金利 1.4%(30年間固定金利)
・毎月返済額 13万6135円 ・・・(1)
(D)マンションでの月々支払費用
・管理費 1万5000円 ・・・(2)
・修繕積立金 1万円 ・・・(3)
・駐車場代 1万5000円 ・・・(4)
(あ)のセールストークは、次のように戸建の方が月々の支払額が4万円も少なくて済むとアピールしているのです。
◇戸建
毎月の支払額 13万6135円 ・・・(1)
◇マンション
毎月の支払額 17万6135円 ・・・(1)+(2)+(3)+(4)
そして、この差額4万円/月を、上記の借入金の借入期間と金利をもとに単純に借入元本に割り戻すと【1175万円】になります。つまり(い)は、次のようなセールストークなのです。
◇戸建
毎月の支払額17万6135円ならば 5675万円 の物件が買えます
◇マンション
毎月の支払額17万6135円ならば 4500万円 の物件が買えます
どう見てもこじつけた表現なのですが、戸建分譲物件ではチラシ類などでいまだに見かけることがあります。
費用面で違うように見えて、実は本質的には同じ
マンションと戸建は、それぞれが特徴を持つ住居形態です。マンションでは「管理費」として居室内部以外の共用部(エントランス、廊下、庭・外構などの外まわりなど)の日常の維持管理清掃費、そして「修繕積立金」として建物の外壁・屋根や、エレベーター・受水槽など設備の長期的な改修や更新の費用が予算化されて住民(区分所有者)から月々徴収されています。
では、戸建ならばこのような費用がかからないのか。そんなことはありません。
屋根や外壁の塗り替えは10~15年くらいごとに必要で、バルコニー床の防水や1階床下のシロアリ対策なども定期的な処置を続けなければなりません。家の大きさや実施頻度にもよりますが、1回に数十万円とか100万円を超える費用がかかることも決して珍しくないのです。
先ほどのセールストークは、こうした費用などを最初から計画的に「積み立て」するマンションと、対策が必要になったときに「一時金」でその都度対処する戸建の違いにはあえて触れずに、当面目先の表面的なキャッシュフローの差をアピールしているだけなのです。
さらに、室内の内装(床、壁・天井クロス)、キッチン・浴室・洗面・給湯器・冷暖房機・照明などの各設備などの改修や更新の費用、そして固定資産税・都市計画税なども別に負担しなければなりません。これらは、マンションでも戸建でも同じです。
まとめ
住宅を購入して住み続けていくための費用全体は、「氷山」や「根菜類」に例えられることがあります。つまり、目に見えている箇所を「当初の価格や諸費用」とすると、実はその下にある「住み始めた後の維持・管理・改修費用」もとても大きいのです。
マンションと戸建は形態が異なり、そして住まい方のハード・ソフト両面でもいろいろな違いがあります。どちらを選ぶかは、実際に住まう人(家族)の価値観、通勤通学事情、そのほかさまざまなライフスタイルなどによって変わってくるでしょう。
それでも、月々の支払額といった当面目先の負担金額の違いだけを基準に家選びをするようなことだけは、避けることが賢明だと思われます。
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士