更新日: 2019.12.06 その他
派遣社員で病気になり、働けない…。そんな場合に頼れる社会保険制度って?
執筆者:馬場愛梨(ばばえり)
ばばえりFP事務所 代表
自身が過去に「貧困女子」状態でつらい思いをしたことから、お金について猛勉強。銀行・保険・不動産などお金にまつわる業界での勤務を経て、独立。
過去の自分のような、お金や仕事で悩みを抱えつつ毎日がんばる人の良き相談相手となれるよう日々邁進中。むずかしいと思われて避けられがち、でも大切なお金の話を、ゆるくほぐしてお伝えする仕事をしています。平成元年生まれの大阪人。
節約しつくしているのにお金の不安が……。深刻なケース
B子さんは地方から都会に出てきて派遣社員として働きながら、一人暮らしをしています。もともとまじめで几帳面な性格の方で、きちんと家計簿をつけて家計の管理をしたり、節約のために自炊に励んだり、いろいろな節約術をネットで検索して実践してみたりされていました。
手取り収入は14万円ほどと多くはありませんが、日々の努力のおかげでなんとか少しずつ貯金はできていたそうです。ただ、それは最初のころだけでした。
B子さんは小さな会社で経理の仕事をしていましたが、少人数で多くの仕事を担当しているため負担が重く、仕事に慣れれば慣れるほど、より多くの仕事が回ってくるようになり、残業が増えていきました。
過密なスケジュールで、ミスの許されない仕事を大量にこなす必要のある職場のため、常にピリピリした空気が流れていて、部署内の人間関係もうまくいきません。
責任感が強く優しい性格だったB子さんは、とうとう職場に近づいただけで胃痛や吐き気、手の震えなどに襲われるようになり、精神疾患と診断されました。医師からはしばらく仕事を休むよう提案されます。
でも、誰も有給休暇を取らないような職場で、体調不良を理由になんとか数日休みをもらうのが精いっぱいなのに、休職なんてできるのか。休職したら、次は契約期間を更新してもらえないかもしれない。辞めてもすぐには働けないかもしれない。次の仕事を見つけるのは難しいかもしれない。仕事を辞めれば貯金は減る一方で、1ヶ月持つかもわからない。しかも医療費もかかる。実家の親は不仲で頼れない。頼れる友達もいない。どうすれば……。
考えれば考えるほど不安なことが出てきて、余計につらくなり体調に影響してしまうような状態でした。
まずは自分の体調を最優先に
お金のこと、仕事のこと、身体のこと、心のこと、大きな悩みを抱えたB子さんですが、まずは病院で診断書をもらって会社にお休みの希望を出し、ゆっくり体調を整えましょうとアドバイスしました。
法律上、「明日から来なくていい」とはならないはずです。次の契約を更新してもらえるかは、派遣先の状況やB子さんの働きぶりにもよるでしょうから、派遣元を含めての話し合いになるかと思います。でも、お金より仕事より、自分の心身の健康の方が大切ではないでしょうか。
さらに、今後の金銭的な不安が大きいB子さんに、FP(ファイナンシャルプランナー)として、もし本当にお金に困ったときに利用できる国の制度について、説明しました。
困ったときに頼れる社会保障制度を覚えておこう
・傷病手当金
時給で働く派遣社員の場合、有給休暇以外で仕事を休んだら、会社からもらえるお給料はゼロになると不安かもしれません。でも、病気やけがで休んでお給料がもらえないときは、「傷病手当金」という制度があります。休業中も1年半の間は、お給料の3分の2程度がもらえます。
会社での業務が原因だと証明できれば、労災としてもっと手厚く補償されたり、慰謝料の請求ができたりすることもあります。
・障害年金
1年半以上たっても回復しない場合は、障害年金の対象になるかもしれません。これは身体が不自由な方のためのものと思われがちですが、うつ病などの精神疾患や発達障害、がんなどの大きな病気でも対象になることがあります。
・高額療養費制度
医療費の負担が重いなら、それをサポートしてくれる制度もあります。
一定以上の自己負担が発生しないようにしてくれる「高額療養費制度」、確定申告をすることで税金が安くなる「医療費控除」、精神疾患等の通院負担を軽減してくれる「自立支援医療制度」、重い障害があるときに使える「障害者医療費助成制度」など。あまり知られていませんが、実はいくつも救済策が用意されています。
・雇用保険
仕事を失ってしまったときにお金がもらえる、基本手当(失業手当)が有名です。派遣社員の方の契約期間満了での離職や解雇のほか、体調の問題で医師に退職を勧められた場合なども、単に自己都合で退職したときよりも手厚い補償を受けられることがあります。
ただ基本手当は、次の仕事が見つかればすぐに働ける状態の人のためのもので、病気で働けず療養が必要な場合は対象外です。でも、雇用保険は基本手当だけではありません。病気で求職できない間は、「傷病手当」という別の制度の対象になります(名前がややこしいですが、前述の「傷病手当金」とは違います)。
雇用保険では、そのほかにも「再就職手当」、「技能習得手当」、「求職活動支援費」、引っ越し費用をサポートしてくれる「移転費」など、さまざまな支援が受けられます。あきらめずにハローワークで聞いてみましょう。
・生活困窮者自立支援制度
本当にお金がなくなってしまい、どうしようもない状態になったら、「生活保護」という方法もあります。が、まだその基準に満たない場合でも生活が苦しく、支援があればなんとかなる可能性があるということであれば、「生活困窮者自立支援制度」の対象になるかもしれません。
お住まいの地域によって内容に多少差があるものの、専門職員が支援プランをいっしょに練ってくれたり、家賃相当額を支給してもらえたり、生活福祉資金の貸し付けを受けられたり、FPが無料で家計改善相談に乗ってくれたり、社会復帰してまた働けるようにサポートをしてくれたり、その人に合った必要な支援を受けることができます。
実際に利用する機会はなかったとしても、いざとなったら頼れる制度がたくさんあると知っておくだけでも、安心につながります。
困ったときに頼れる人を見つけておこう
休職期間を経て、仕事に復帰するなり転職するなりして、うまくやっていければいいのですが、そうできるとも限りません。親族や友人に頼れなくても、つらいときに自分の味方になってくれる人を、誰か一人でもいいので見つけておけると安心です。
精神疾患の専門家の医師、福祉を専門とする市や社会福祉協議会やNPOの職員、過重労働やパワハラなど会社とのもめ事の専門家である弁護士や社労士、お金の専門家のFPなどもいます。
SNSで、似たような状況の中で頑張っている同志や、克服してきた先輩を見つけることもできるでしょう。一人で悩みを抱えこみすぎず、必要なときはサポートしてもらうことも大切ですよ。
(参照)
全国健康保険協会 「病気やけがで会社を休んだとき」
厚生労働省職業安定局 「雇用保険制度の概要」
厚生労働省 「生活困窮者自立支援制度の紹介」
執筆者:馬場愛梨
ばばえりFP事務所 代表