更新日: 2024.10.13 その他相続

「相続放棄」したはずなのに故人の借金の請求が届きました! 相続放棄をしたので借金の請求は払わなくてよいですよね?

「相続放棄」したはずなのに故人の借金の請求が届きました! 相続放棄をしたので借金の請求は払わなくてよいですよね?
人が亡くなると、悲しみのなかでも、お世話になった方へのあいさつや自治体への届け出、そして故人の財産に関する手続き等、やらなければいけないことが多くあります。
 
とくに、相続財産(故人の財産)については、現預金や不動産など「プラスの財産」だけでなく、借金(負債)など「マイナスの財産」も含まれるため、慎重に手続きを進める必要があります。誤解や思い込みがあった場合は、相続人の今後の人生に思わぬ影響も与えかねません。
 
今回は、相続手続きにおいて注意すべき「相続放棄」について事例をもとに解説します。
大竹麻佐子

執筆者:大竹麻佐子(おおたけまさこ)

CFP🄬認定者・相続診断士

 
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での業務を経て現在に至る。家計管理に役立つのでは、との思いからAFP取得(2000年)、日本FP協会東京支部主催地域イベントへの参加をきっかけにFP活動開始(2011年)、日本FP協会 「くらしとお金のFP相談室」相談員(2016年)。
 
「目の前にいるその人が、より豊かに、よりよくなるために、今できること」を考え、サポートし続ける。
 
従業員向け「50代からのライフデザイン」セミナーや個人相談、生活するの観点から学ぶ「お金の基礎知識」講座など開催。
 
2人の男子(高3と小6)の母。品川区在住
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表 https://fp-yumeplan.com/

「相続放棄したはずなのに故人の借金の請求がきた」

まずは、相談者(50代既婚女性)からの質問を事例として挙げます。
 
「夫は『相続放棄した』と言っていたのに亡くなった義父の借金の請求がウチに来ました。夫は借金を負担しなくてはならないのでしょうか。」
 
亡くなられたのは相談者の夫の父であり、相談者は相続人ではないため、基本的に相続手続きには関与しません。とはいえ、ある日突然、故人の借金の請求が夫宛てにきた場合には、夫だけの問題でなく、家族をも巻き込む一大事となり得ます。
 
ここで問題となるのは、夫がしたはずの「相続放棄」についてです。
 

「相続放棄」という選択肢

「相続」とは、亡くなった方の財産を引き継ぐことをいいます。財産には、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含まれます。現預金等の資産(プラス財産)よりも借金額(マイナス財産)が上回るといったような場合には、すべてを引き継がない「相続放棄」を選択することもできます。
 
相続放棄した人は、初めから相続人ではなかったものとして扱われます。そのため、被相続人(故人)に多額の借金があっても払う必要はありません。注意点としては、後になって借金を上回るプラスの資産があることが判明しても受け取ることができないことです。
 

「相続放棄」のながれ~家庭裁判所への申し立て~

相続放棄をする場合、相続人は家庭裁判所に対して、被相続人の戸籍謄本、除票および相続放棄する人の戸籍謄本などの必要書類とともに、相続放棄をしたい旨の「申し立て」を行います。
 
相続人は相続があったことを知ったときから3ヶ月以内であれば、1人でも申し立てを行うことができます。家庭裁判所では、提出した書類に矛盾点がないかといった審査をしたうえで、問題がなければ相続放棄が認められます。
 

「相続放棄」をしたのに借金の督促が来た場合

家庭裁判所への申し立てにより相続放棄が認められたとしても、わざわざ債権者に知らせる必要はありません。また、家庭裁判所から債権者に通知されることもありません。
 
そういった理由から、「相続放棄」をしたのに借金の督促がくることは想定内と考えましょう。
 
債権者から借金の支払督促があった場合には、「相続放棄」の旨を伝え、家庭裁判所が発行する「相続放棄申述受理通知書」の存在を示せば問題ありません。以降の督促はなくなるはずです。
 

相続財産は受け取らない意思表示である「財産放棄」と法的な「相続放棄」の違い

注意すべきは、「財産放棄」と「相続放棄」の違いを誤解しているケースです。
 
前述の通り、「相続放棄」には家庭裁判所に申し立て、認められたという法的効果があります。一方で、「財産放棄(もしくは遺産放棄)」は、「故人の財産は受け取らない」という他の相続人に対する意思表示に過ぎず、相続放棄ではありません。
 
初めから相続人ではなかったとされる「相続放棄」とは、まったく異なります。
 
つまり、「財産を受け取らない」という意思表示に対して相続人全員が合意したとしても、それは「相続放棄」にはならず、債権者に対しては対抗できないため、借金を支払う必要があるのです。
 

「相続放棄」が無効にならぬよう注意すべきこと

家庭裁判所に対する「相続放棄」の申し立てが認められていても、場合によっては、債権者が「相続放棄の無効を主張した訴え」を起こすこともあります。この場合には、くれぐれも訴えを放置せず、早急に弁護士へ相談することをおすすめします。
 
また、相続放棄をする前に、故人の預金口座からの支払いや財産を売却した場合には、「単純承認(プラスの財産もマイナス財産も引き継ぐ)」とみなされ、「相続放棄」はできません。
 
なお、法律(民法)で、相続人となる人とその順位が定められています。配偶者は常に法定相続人となり、第1順位は子、第2順位は直系尊属(親や祖父母など)、第3順位は兄弟姉妹となります。
 
配偶者と子全員が相続放棄した場合には、後順位の親へ、親がすでにいない場合には、兄弟姉妹に相続権が移ります。相続放棄は、意思表示であるため尊重されますが、マイナス財産があった場合などは後順位の相続人に迷惑がかかることも想定したうえで、事前に伝えるなど配慮とトラブル回避策を検討しておきたいものです。
 

まとめ

相続が発生し、さまざまな手続きを行うなかで、故人の財産をすべて把握するのは難しいのが現状かもしれません。故人に負債があった場合には、相続人間での「財産放棄」の意思表示だけでは、債権者からの借金支払い督促に応じなければならないため、自分たちの生活を守るためにも、家庭裁判所への申し立てによる「相続放棄」が選択肢となります。
 
今回の相談事例において、夫が家庭裁判所への申し立てによる「相続放棄」をしたのであれば、借金を負担する必要はありません。ただ、夫がしたのが「財産放棄」であったならば、借金を負担することになります。
 
なお、この記事では、相続財産について、資産も負債もすべて引き継ぐ「単純承認」と一切を引き継がない「相続放棄」についてお伝えしましたが、借金など負債はプラスの資産の範囲内で引き継ぐ「限定承認」という選択肢もあります。
 
いずれにしても、相続が発生した場合には、何をどのように手続きを進めるのか、まずは専門家へ相談してみることをおすすめします。
 
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士

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