更新日: 2019.08.28 相続税
相続のキホン(7)うちは相続税かかる?
今回は相続税がかかるかどうかを判断する手順をお伝えします。
執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役
「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。
西山ライフデザイン株式会社 HP
http://www.nishiyama-ld.com/
目次
相続税の計算の前に
ここでご紹介する相続税の計算方法は簡易的なものです。相続対策を検討するための初期段階として「うちには相続税がかかるのか?」を知るために「ざっくり」計算するのであれば、ご紹介する方法が役立ちます。
ここでは、細かい資産評価方法などはご紹介しません。不動産や未上場株式などの詳細な評価は、資産評価を得意とする税理士などに相談されることをお勧めします。
相続税の計算(1)総遺産額を把握する
まず、相続財産の全容を把握することが必要です。
相続税は亡くなられた方(被相続人)が持っていた金銭的な価値のある全ての資産が課税対象です。以前に書いたコラム「相続のキホン(2)相続財産と財産リスト作り」(※1)でもお伝えしたとおり、まず初めに相続財産を把握することが必要です。
几帳面な方ほど、正確にすべての金額を把握しようとされます。しかし、それではいつまでたっても数字は確定しません。生前の相続対策として相続税がかかりそうかを知るためならば、ボリュームの大きな資産を把握し、そのほかにあとどのくらいありそうかをざっくり見込めばよいでしょう。
預貯金、有価証券
預貯金や生命保険、株式などの有価証券については通帳や保険証券、取引口座などがわかれば把握できます。
ここでは、これらの金額は額面どおりに評価します(相続発生時には預貯金は発生時の残高、有価証券は決められた評価方法がありますが、ここでは生前に「相続税がかかるかどうか」を判断するのが目的なので、額面どおりの評価で進めます)。
不動産
特に不動産については、評価額も大きくなりがちなのでしっかり抑えておきたいところです。自宅のみならば物件を特定するのはそう困難なことではありません。しかし、不動産の相続税評価についてはちょっと厄介です。
不動産の情報は「権利書(登記識別情報通知書)」などが保管されているはずです。法務局で不動産の登記を確認し、土地、建物の情報を整理しておきましょう。
不動産は住居表示ではなく地番で登記されおり、法務局で確認できます。地番がわからない場合は法務局に「地番照会」をすればすぐに教えてくれます。
相続税を計算する際の不動産は、建物は固定資産税評価額、土地は相続税評価額で評価します。
土地の相続税評価額は、一般的に路線価は実勢価格の8割程度といわれています。既存の住宅街などであれば、国税庁の路線価図・評価倍率表で確認できます。ここでいう路線価とは、正式には「相続税路線価」。土地評価の際に税務署、税理士も使用する土地評価額のベースです。
路線価図には1平方メートル当たりの金額が千円単位で示されています。登記簿記載の面積に路線価を掛ければ大まかに評価額を把握できます。
簡易的な評価はこれでよいのですが、土地にはそれぞれ個性があり、正確な評価は簡単ではありません。整形で、段差もなく接道条件なども良い場合は大きくはずれることはないと思いますが、土地の評価はさまざまな周辺環境にも影響されます。
特に都心部などでは、価格も高く、少しの違いが大きな金額差になることもあるので、慎重に進める必要があります。借地権や借家権、賃貸建物やその敷地(貸家建付地)もそれぞれに評価方法があります(ここでは割愛します)。
建物の評価は固定資産税評価額で行います。毎年送られてくる固定資産税の納付書に評価額の記載がありますし、都道府県税事務所では固定資産税の評価証明書を発行してもらうこともできます。
そのほかの財産
金銭的価値があるものは相続税の課税対象になることは前述のとおりです。自動車、電話の加入権なども含まれます。
また、ゴルフ会員権、美術品や骨とう品、切手やコインなどのコレクションも該当しますが、評価は難しいところです。評価が高額になりそうなものがある場合、専門家の査定などを行うほうが良さそうです。
生命保険、死亡退職金
受取人が指定された生命保険金や死亡退職金などは「みなし相続財産」として、相続財産に加算します。「みなし」とつくのは、民法では「相続財産」とは扱われないためです。ただし、生命保険で相続税の対象となるのは被相続人が保険料を負担していたもののみです。
生命保険金と死亡退職金は、後にお伝えする基礎控除とは別に下記により算出された分を上限として控除があります。これらの控除は別々に控除が可能です。
生命保険金の控除額=500万円×法定相続人の数
死亡保険金の控除額=500万円×法定相続人の数
生命保険は計画的に利用することで総遺産額を圧縮する効果があるため、相続税対策に活用できるほか、生命保険金は受取人固有の財産となり、被相続人がお亡くなりになられた後、申請によって速やかに受取人に払い込まれ、葬儀費用や納税資金としても使えます。
これらの金銭的な価値があるものすべての評価額を合計した金額が「総遺産額」となります。
相続税の計算(2)課税価格(=正味の遺産額)の算出
下記の項目に該当する金額がある場合には(1)で算出した総遺産総額に増減します。
(-)非課税財産を減額
生命保険の死亡保険金や死亡退職金は生活を保障するために必要な資金であることを考慮し非課税枠があります。非課税枠は500万円×法定相続人の数となります。
死亡保険金、死亡退職金それぞれ同額が適用でき、該当分を差し引きます。また、墓地や仏壇などは非課税です。
(+)相続時精算課税による贈与分を加算
被相続人が相続時精算課税制度を利用して贈与した財産がある場合には、その贈与財産分を加算します。
(-)被相続人から相続人に引き継がれる債務分を減額
被相続人に債務がある場合にはその金額を差し引きます。金融機関等への債務のほか、未払いの税金や医療費などがある場合もここに含まれます。
(-)葬儀費用を差し引く
葬儀費用は保相続人の死後に発生するものですが、控除することが可能です。
控除できるのは通夜・告別式等のために葬儀会社や寺、神社等に支払った費用、通夜告別式等に関わる飲食費用、葬儀で手伝ってくれた人などに支払う心付けなどです。告別式の後、日をあらためて行う四十九日の法要などは含みません。
(+)相続開始前3年以内に贈与した財産を加算
相続、遺贈などにより財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)に贈与を受けた財産があるときには、贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算します。
これらの増減の結果残った金額が「課税価格(正味の遺産額)」となります。
相続税の計算(3)基礎控除
(2)で算出した「課税価格(正味の遺産額)」から「基礎控除」を引いた金額が「課税遺産総額」です。基礎控除は平成27年より減額され、現在の基礎控除額は下記のように算出します。
相続税の基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
この課税価格(正味の遺産額)から基礎控除を引いた金額が「課税遺産総額(相続税がかかる財産額)」となり、プラスならば相続税がかかるのが原則です(特例によって非課税になるケースについては次回のコラムでご紹介します)。
正味の遺産額が基礎控除以下ならば相続税はかかりません。
課税遺産総額=課税価格(正味の遺産額)-基礎控除
「相続税がかからなければ安心」ではない
家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割に関する事件の多くが、相続税のかからない事案だといわれています。相続税がかからないとわかっても安心せず、どのように分ければ引き継ぐ人が円満に納得して円滑に引き継げるかを考える必要があります。
まとめ
普通に生活していれば、生活費などの支出、仕事や年金による収入、有価証券や不動産は相場によって価格も変動し、財産額は増減します。相続税がかかるかどうかを考える際、あまり詳細に検討しようとするよりも大まかに現状を把握することのほうが重要です。
特に、不動産は不動産鑑定士や税理士でも10人が評価すれば10通りの評価が出るともいわれ、想定しだいで大きく差につくこともあります。相続税がかかるかどうか微妙な場合や、確実にかかることがわかっている場合は、専門家への相談を含め何らかの対策も併せて考えておくべきでしょう。
相続対策で重要なのは、
1.円満に相続するための分割対策
2.納税資金を確保すること
3.節税対策
の順です。
相続税がかからないからもめないということではありませんし、過剰な節税対策に走った結果、円満に相続できない、といったことのないように検討する必要があります。
(※1)「相続のキホン(2)相続財産と財産リスト作り」
<参照>
国税庁の路線価図・評価倍率表
国税庁タックスアンサー No.4152 相続税の計算
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役