更新日: 2020.01.15 働き方

残業代の未払いに気づいていますか? 知っておきたい給与計算の仕組み

執筆者 : 當舎緑

残業代の未払いに気づいていますか? 知っておきたい給与計算の仕組み
2019年12月。大手コンビニで働くパートやアルバイトなどの未払いの残業手当が大きく報道されました。しかもその未払いは1970年代から払っていなかった可能性もあり、2001年にも労働基準監督署から指摘を受けていたにもかかわらず、改善がされないままだったようです。
 
パートやアルバイトでは、労働契約も書面できっちりと交わさず、口頭で済ませているところや、給料明細を「もらったことがない」という方もいるようです。今回は「会社がやることに間違いはない」と思わず、自分でも確認できるように、給料計算の仕組みを知っておきましょう。
 
當舎緑

執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)

社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
 

残業代の定義、間違っていませんか?

パートやアルバイトの求人募集を見てみると、「時給1000円。深夜は1350円」などと書かれているケースが多いでしょう。本来の残業とは、所定労働時間を超えた場合を「残業」と言います。ただ、ややこしいのは、法律で決まっている25%という割増賃金は、必ずしも「所定労働時間を超えた場合ではない」ということなのです。
 
例えば、1日の労働時間が5時間のパートの場合、この5時間を「所定労働時間」と言います。ですからこの場合、5時間を超えて1日8時間労働したとしても、5時間を超えて8時間の間の残業には残業代は支払われません。法律で決められている残業手当の割増が支払われるのは、「1日8時間、1週間40時間を超えたとき」となります。
 
報道では、約4.9億円が未払いとされましたが、自分が所定労働時間を超えた残業をしていても、残念ですが、手当が割増されるとは限らないのです。
 

手当がついている場合は要注意

パートやアルバイトではあまりないかもしれませんが、手当が基本給に加算されている場合には、それも加味されて残業代の計算の基礎とされます。ただ、除外されるものがあります。
 
労働基準法によると、家族手当や通勤手当、住宅手当・臨時に支払われる手当・子女教育手当は含めないことと定義されています。もし、「主任手当」や「調整手当」「皆勤手当」「精勤手当」などが基本給に加算されているなら、その手当も25%増しの単価に算入されます。
 
例えば、ある月には皆勤手当がついており、ある月に皆勤手当がついていないこともあるかもしれません。その場合、毎月残業手当の単価が変わってくる可能性があります。以下の事例を参考にしてみましょう。
 

 

給料計算が間違っていた場合にさかのぼって請求できる?

今回の報道のように、未払いの賃金がある場合にはさかのぼって会社に請求できます。労働基準法第115条で、賃金の請求権の消滅時効というものが規定されています。賃金等(退職手当は5年さかのぼって請求できるので除外)は、2年間請求しないと時効により請求権が消滅します。
 
ですから、今回の事例のように、2001年に労働基準監督署から指摘を受けた書類が残されていて金額が確定しても、すでに時効により請求権が消滅しているのです。
 
一方、2年以内であれば会社に請求可能です。報道によると2012年3月以降に未払いの賃金は、1人当たり約1万6000円(平均)だそうです。記録のない2012年2月以前も含めて対象者には支払うようですが、賃金台帳などは、通常2012年2月以前の保存義務はありません。
 
賃金台帳等の書類は、原則として3年間の保存義務が規定されていますが、それ以前の書類を残しているかどうかは、会社しだいといえるでしょう。
 

今後もっとさかのぼって残業代が請求できる!?

民法が改正になっていることをご存じの方も多いでしょう。民法改正で注目されているのは、自筆証書遺言の様式緩和など、相続に関する内容が多いかもしれません。ところが、債権についても改正が予定されています。
 
現行の民法の規定は、「債権は、原則として10年間行使しない時には消滅する」と定められています。例外は、「月またはこれより短い時期によって定めた使用人の給料にかかる債権は、1年間行使しない時、消滅する」となっています。ただ、賃金等の消滅時効は労働基準法によって、特別に「2年」と定められているのです。
 
2020年4月にこの規定が改正されます。改正後は、債権を簡素化し、「使用人の給料などにかかる短期消滅時効は廃止」した上で、以下の場合に消滅します。
 
(1)債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しない時
(2)権利を行使できるときから10年間行使しない時の2つの場合

 
ただ、今回の民法改正は2020年4月施行となり、この民法改正を踏まえたうえで、労働基準法の取り扱いは検討される予定だそうです。今後、もし同じようなことがあったとすると、2年を超えて賃金等の請求が可能となるかもしれません。
 
今年の冬のボーナスは、全体として夏に引き続き減った企業が多いようです。会社側としては、できるだけ残業代を支払わなくても済むように、「変形労働時間制」や「固定残業代」などを採用したところもあるでしょう。複雑な制度を適用するからこそ、会社側も間違えることがあるのです。
 
給料計算はとても難しいものですが、今後、大幅な賃金引き上げも考えられない中、いかに確実に給料を受け取ることができるのか、労働者としてもしっかりと知識を持っておくべきでしょう。自分で時間をしっかりと把握し、記録し、明細など大事なものはしっかりと自分で保管するなどの対策をしたいものです。
 
<参考>監督指導による賃金不払い残業の是正結果の推移

(出所:厚生労働省労働基準局監督課発表資料より抜粋)
 
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。


 

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