4月開始の「育児時短就業給付金」、申請前に知っておきたい“制度の背景”と考えておくべきこと

配信日: 2025.05.20

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4月開始の「育児時短就業給付金」、申請前に知っておきたい“制度の背景”と考えておくべきこと
マネーリテラシーを身につけるのは、お金に関する知識や情報を人生設計(ライフプラン)にどう生かしていけばよいか、自分で考えることができるようにするためです。つまり、考える力を養うためにマネーリテラシーがあるわけですが、そこで重要になってくる視点が「社会的背景」です。
 
「ある社会課題を解決するために、この制度が創設された」、「そして、その制度を活用すると、家計や人生設計にこのように生かすことができる」
 
10年前と比べると、マネーリテラシーは確かに向上したといえますが、これからはその質が問われてくる時代です。
 
そこで今回は、簡単ですが、職場復帰後の時短勤務をテーマに、どのような思考力を育んでいけばよいかを考えてみたいと思います。
重定賢治

ファイナンシャル・プランナー(CFP)

明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。

子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。

2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai

私たちは、ある環境のなかで生きている

「社会環境が私たちの家庭に影響を与える」という視点を持ってもらうために、図表1を紹介します。
 
家庭環境が真ん中にあり、これを地域社会という「生活環境」が取り巻き、さらにその外側に国内の社会環境や社会情勢があるというイメージです。そして、国内の社会情勢は海外の情勢に影響を受けるというより大きな視座です。
 
今回は「育休(育児休業)が終わった後、職場復帰をする際の「時短勤務」の考え方が変わる」というお話です。
 
制度の位置づけとしては、働き方改革の部類に入ります。時短勤務は「仕事」と「家庭」、ここでは「仕事と育児の両立」に対する経済的なさらなる支援、ということになります。社会的な背景としては、共働き世帯の増加や人手不足といった社会課題が挙げられるでしょう。
 
図表1

図表1

※筆者作成
 

時短勤務を巡る社会的な課題

時短勤務はよく「じたん、じたん」と言われますが、私たちは短時間勤務のことを時短(じたん)と言っています。ここで使われている「短時間勤務」は、育児休業が終わり、職場復帰をした後の労働時間を指します。短時間勤務は原則6時間で、通常の8時間勤務と比べて短いので時短(じたん)と表現されます。
 
ここで浮かび上がってくる課題は、「短時間勤務を選択すると収入が減る」という家計での問題です。
 
相談内容としてはよくある話ですが、子育て世帯としては一時的に収入が減るため、この点を心配する声は珍しくありません。この社会課題を解決するために、2025年4月から「育児時短就業給付金」という制度が新たに創設されることになりました。
 

お金のことを知っただけではマネーリテラシーが身についたとはいえない理由

マネーリテラシーについて解説します。下記のような流れでマネーリテラシーを身につけ、成果が現れるとします。
 

(1)育児時短就業給付金が新設されるという話を聞きました
(2)どのような制度内容かを知りたいです
(3)制度の内容を知りました
(4)その結果、申請し、給付金の支給を受けました
(5)家計面で助かりました

 
これは、お金の知識や情報を身につけてから成果が現れるまでの典型的な流れといえます。
 
このような流れで成果を得ることは間違いではありませんが、「考える力が育つ」という点では足りないでしょう。つまり、「なぜ、育児時短就業給付金という制度が創設されたのか」という視座に立つからこそ、考える力が育つのです。
 
先ほど述べたように、短時間勤務による一時的な収入減の影響を和らげるために、育児時短就業給付金は創設されました。これが創設の直接的な目的です。
 
では、なぜ、短時間勤務による一時的な収入減が問題になるのでしょうか。
 
家計面で考えれば、職場復帰後、育児や子育てをしていく過程で、何かとお金がかかるからといった考えが浮かぶかもしれません。このような推論はわざわざ考えなくてもできる人が多いでしょう。このため、この段階では「考える力に結びついていない」ということができます。
 
それ以降が、「考える力を育む」という段階です。考える力を育むには、自分なりに問題提起をする必要があります。例えば、下記のようなものです。
 

・育児時短就業給付金を創設することで、果たして少子化を食い止めることができるのだろうか
・育児時短就業給付金を会社はどのように受け止め、働き方改革につなげるのだろうか
・育児時短就業給付金の財源はどこから出ているのだろうか
・育児時短就業給付金はよいが、子どもが2歳を過ぎた後のライフプランについて、どのように考えればよいのだろうか
・育児時短就業給付金を得たことで、自分の人生は本当に豊かで幸せなものになるのだろうか

 
そして、それらの問題提起や疑問などについて自分で調べ、考えることで、初めてマネーリテラシーが身についたということができます。
 
答えが出なくても、問題はありません。なぜならば、人生は流動的だからです。むしろ、流れゆく人生において、その都度さまざまな視点で物事を考え抜くことができる習慣を身につけることこそが、マネーリテラシーを身につける真の目的といえます。
 

まとめ

インターネットの発達により、誰もが情報を得やすい社会になっていますが、お金の知識や情報を得ることは誰でもできます。このような考え方に立つならば、お金の知識や情報を得ること自体にそれほど価値はなく、このような範囲においてマネーリテラシーは、いくら身につけても、期待するほどの意義は持ちえないでしょう。
 
むしろ大切なことは、身につけたマネーリテラシーをもとに、自分自身で世の中や人生について大局的に見て、物事を考えることです。マネーリテラシーを身につけた先に何を見るか。そのような視点で、お金に関する記事を読んでいくようにしましょう。
 
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)

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