更新日: 2024.04.21 働き方

固定残業制って「定額働かせ放題」なんですか? 定時で帰れば「得」のように思うのですが、ブラック企業なのでしょうか? 避けたほうが良いですか…?

固定残業制って「定額働かせ放題」なんですか? 定時で帰れば「得」のように思うのですが、ブラック企業なのでしょうか? 避けたほうが良いですか…?
固定残業代(みなし残業代・定額残業代)については、見かけの基本給を高く見せるなどの目的で、間違った使い方も横行しているようです。
 
固定残業代は、適切に用いれば会社にも従業員にもさまざまなメリットがあります。本記事ではどのようなメリットか説明した上で、具体例とともに適切な扱いかどうかを見分けるポイントを紹介します。

固定残業代とは何か

固定残業代というのは「一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対する割増賃金を定額で支払う制度」です。「時間外労働の有無に関わらず一定の手当を支給する制度」と考えれば分かりやすいでしょう。この制度を、「みなし残業制」とか「定額残業代」などと呼ぶ人もいます。
 
企業からすれば、求人の際に基本給に固定残業代を加えて提示することで「高賃金」とアピールすることもできます。毎月の残業代計算も効率化できるといったメリットがあります。従業員にとっても、残業を減らしても「固定残業代」はちゃんと払ってもらえるので手取りの賃金が安定します。生産性向上へのインセンティブにもなります。
 
一方では、基本給を高く見せかけるごまかしとか、「定額働かせ放題」などといった間違った運用をしている会社もあり、「固定残業代=ブラック企業」と考える人もいるようです。
 

固定残業代について厚生労働省の指針

このような誤った運用も受けて、厚生労働省は2018年1月の職業安定法指針で この制度の定義を明確にしました 。求職者向け、求人向けそれぞれのパンフレットで分かりやすく説明されています。この内容は直近のパンフレットでもそのまま受け継がれています。
 
「時間外労働の有無に関わらず一定の手当を支給する制度(いわゆる「固定残業代」)を適用する場合は、以下のような記載が必要です。
 

1.基本給 ××円(2の手当を除く額)
2.□□手当
(時間外労働の有無に関わらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給)
3.○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給

 
この内容を整理すると次のようになります。
 

・通常の労働時間の賃金の部分と割増賃金部分とが判別ができること(明確区分性)
・固定残業代が何時間分の時間外労働等の対価なのかを明確にすること。通常の時間外労働と同様に、労働基準法に定める割増率で計算されていること(対価性)
・固定残業時間を超える時間外労働については、割増賃金が追加で支払われること

 
この基準を守っている会社であれば、別に問題はありません。ホワイト企業といえます。
 

ブラックとホワイトを簡単に見分ける方法

就職希望先の会社が固定残業代を採用している場合ならば、上記の厚生労働省の指針に従った取り扱いかどうか確認すれば、ブラックかホワイトかは見分けがつくでしょう。
 
ブラックの例を挙げます。
 

(その1)基本給25万円(固定残業代含む)

25万円の中の通常の賃金部分と固定残業代部分が全く分かりません。しかも、固定残業代が何時間の時間外労働の対価なのかも分かりません。典型的なブラック企業です。
 

(その2)基本給25万円(固定残業代3万円含む)

「固定残業代の金額」は示されていますが、「何時間の残業に見合う金額なのか」が分かりません。それこそ3万円さえ払えば「定額働かせ放題」などと疑われても仕方がないでしょう。
 

(その3)基本給25万円(○時間分の固定残業代含む)

「○時間分の固定残業代」と記載されていても、その固定残業代の金額が分かりません。時間外の割増率(25%以上)によって適正に固定残業代が計算されているかどうかが分かりません。
 

(その4)基本給25万円(50時間分の固定残業代5万円を含む)

そもそも、「50時間分の固定残業代」というのが異様な長時間の数字です。
 
時間外労働について労働基準法の36協定で認められている限度時間は月45時間(年間では360時間)であり、臨時的に特別な場合のみ年6回に限って月45時間を超えることが認められています。この会社は毎月50時間の残業が恒常化しているのでしょうか。
 
さらに、50時間分の固定残業代が5万円なら1時間当たり1000円です。時間外労働の25%の割増率をかけて1000円になるというなら、基本給は1時間800円であり、各都道府県のどこの最低賃金よりも低い金額です。この会社の賃金は最低賃金を割っているのか、と疑われても仕方ありません。
 
ホワイト企業の表示はこうなります。
 

1.基本給 22万円(2の手当を除く額)
2 .固定残業代
(時間外労働の有無に関わらず、20時間分の時間外手当として3万円を支給)
3.20時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給

 
そのうえで、20時間分の時間外手当3万円というのが、基本給に基づいて25%以上の割増率で計算されているかどうかを、確認しましょう。面接のときに会社に質問して、ちゃんと回答してもらえればまず問題はないでしょう。
 

「固定残業代」というだけで即断しないこと

「固定残業代」というだけで、ブラック企業と即断しないでください。厚生労働省は明確な指針を出して、固定残業代の正しい取り扱いの周知を図っています。
 
まともな企業であれば、厚労省の指針をきちんと守って求職者に労働条件を分かりやすく表示し、求職者の質問にもちゃんと回答してくれるでしょう。その際には、自身で厚労省のパンフレットなどにもしっかり目を通し、企業の説明が理解できるものかどうか見極めてみてください。
 

出典

厚生労働省 求職者の皆様へ~ 求人票・募集要項等のチェックポイント ~<職業安定法が改正されます>施行日:2018(平成30)年1月1日
厚生労働省 労働者を募集する企業の皆様へ~労働者の募集や求人申込みの制度が変わります~<職業安定法の改正>施行日:2018(平成30)年1月1日
厚生労働省 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説
 
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

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