更新日: 2024.03.23 働き方
ファミレス勤務ですが、走り回る子どもに「危ない!」とつい怒鳴ってしまいました。子どもの母親に「お客に何を言うの!」と叱られ店長とともに謝罪したのですが、どうすれば良かったのでしょうか…?
一方で「危ない!」と怒鳴られた子どもの保護者が腹を立てることもあるかもしれません。このような緊急時の対応は正しかったのでしょうか。ポイントをまとめてみました。
店内で走り回る子どもには、さまざまな危険がある
店内で走り回る子どもには、さまざまな危険があります。転倒、什器など設備にぶつかってけがをする、他の客や店員とぶつかるなどのリスクがあります。
とりわけ飲食店の場合、熱い料理を運ぶ店員にぶつかったら、やけどをする可能性もあります。子ども本人だけでなく、ぶつかられた店員、さらにそばにいる別の客にも危険が生じかねません。ファミレスであればドリンクバーやスープバー付近で客とぶつかり、熱い飲み物などがこぼれてやけどをするような事故も考えられます。
国土交通省国土技術政策総合研究所が建物内で起きた事故をまとめた「建物事故予防ナレッジベース」によると、次のような事故も実際に起こっています。
・食堂内にいた子どもが食堂のガラス戸の外に立つ父親を見て、ガラス戸が開いていると思い込み、走って父のもとに向かいガラス戸に激突して死亡した。
走り回るだけではなく、ふざけて遊んでいて事故になったケースもあります。
・ファミレスで子どもがテーブルに手をつき足をブラブラさせてふざけていた。何度も注意したが手を滑らせて転び、テーブルの金具で耳を切り、血が止まらず救急搬送された。
事故発生時にはさまざまな法的責任が問われる
このような事故が起こったとき、店にはさまざまな法的責任が問われることになります 。
多くの顧客が出入りするのですから、安全性が確保された設備を用意し、管理しなければなりません。このような注意が不十分であれば安全配慮義務違反として、債務不履行責任、不法行為責任、あるいは工作物責任(建物の設置者・利用者としての責任)などに問われることになります。
安全配慮義務違反は、事故の予見可能性があったか、結果を回避できたか、その結果回避義務を怠っていたか、ということを考慮して判断されます。
子どもが走り回っていれば、店のスタッフとして事故が起こることは当然に予見できたはずで、注意して止めれば事故は防げたのです。事故が起こったら店が責任を逃れることは難しいでしょう。
もちろん、小さな子どもの場合には、親の監視監督義務が強く求められます。目を離した隙に事故に遭った、あるいは一人で行動する子どもを放置していたといった場合には、親の監視監督義務違反という重大な過失と見なされ、仮に裁判になった場合には、過失相殺などで考慮されることになります。
とはいえ、事故が起こってから「親が目を離していたのが悪い」などと言ったところで、取り返しはつかないのです。お店としては事故を防ぐための最善の努力をすべきでしょう。
緊急時の注意喚起は適切な行動
店内で子どもが走り回っていれば、いつ事故が起こるか分かりません。とっさの判断で「危ない!」と叫んで子どもを止めたのは、適切な行動であったと思われます。
その子の母親が「客に何を言うの!」と怒ったことを考えると、店員側の口調がきつく感じられる状況だったのかもしれません。本来であれば続けて保護者に「お子様が走り回るのは危険です。止めていただかないと困ります」とお願いすべき場面ですが、そんなことをすれば、この状況では火に油を注いでいた可能性もあります。
店長とともにひとまずおわびしその場を収めるのは、状況からみて適切な対応だったといえるでしょう。
緊急時の対応について話し合っておこう
客の安全を守るのは店の経営者、店長、スタッフの大切な責任です。実際には、緊急時にどのように対応するか判断に迷うこともあるでしょう。また、行動した後になって本当にこれでよかったのかと悩むものです。
実際にお店で起こった事例や、事故の事例なども参考に、店のみなさんで緊急時の対応についてぜひ一度話し合って、まとめてみることをおすすめします。
出典
建物事故防止ナレッジベース(国土技術政策総合研究所)
建物事故防止ナレッジベース(国土技術政策総合研究所) 事故事例検索
建物事故防止ナレッジベース(国土技術政策総合研究所) 建築空間内での事故をめぐる法的責任のあり方と裁判事例の傾向 佐藤貴美 弁護士
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー