更新日: 2024.03.03 働き方
【管理職の悩み】課長になったものの、「2万円」の手当が出るだけで残業代が支給されない…。これは普通ですか?
そこで、「課長になったものの、支給されるのは2万円の手当のみで、残業代が支給されなくなった」という場合を例に、それが違法であるかどうか考えていきます。
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。
広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
管理職になると残業代が生じなくなる理由
管理職になると、残業代が生じなくなることも珍しくありません。その理由は「管理監督者」に該当し、労働時間に関して例外的な取り扱いを受けることになるからです。
本来であれば、1日8時間、週40時間を超えた部分は残業扱いとなり、その時間は通常の1.25倍の賃金が生じることになります。例えば時給換算2000円の方が1時間残業した場合、1時間残業するごとに、通常の1.25倍である2500円の残業代を払わなければならない、ということです。
しかし、課長となって役職がつくと、管理職として一定額の管理職手当が支給される代わりに、残業代が出なくなることもあります。その理由の説明の仕方は企業によっても異なるのですが、多くの場合、単に「管理職だから残業代は出ない。その代わりに管理職手当を出している」といわれていると考えられます。
管理監督者の定義について考えていく
ここで「管理監督者」、いわゆる管理職の定義について考えていきましょう。
この管理監督者とは、ただ単に企業内で役職を付けて、取りあえず手当をつけていれば該当する、というわけではありません。単に「課長」と役職につけ、管理職手当を支給したとしても、法律上の「管理監督者」には該当せず、残業代を支給しなければなりません。
労働関係の法解釈における「管理監督者」とは、役職名ではなく、職務内容や責任と権限の度合い、勤務形態、待遇を踏まえて判断されます。簡単に説明すると、経営者に代わって同じ立場で仕事をする重要な立場にあり、出退勤について厳格な制限がなく、給与含む待遇がその重要な立場にふさわしいものであることが必要です。
そうでないにもかかわらず「管理職だから」と残業代が支給されないのは、いわゆる「名ばかり管理職」になってしまい、適法ではない状態といえるでしょう。そういった場合は、残業代を別途支給する必要があります。
課長に月2万円の管理職手当を付与して、残業代不支給とすることは、許されるのか
月2万円の管理職手当を付与して「課長」とし、管理職として扱ったとしても、残業代が支給されなくなる場合は、基本的に違法である可能性が高いでしょう。もちろん実際には、残業時間がどれくらいかなど、個別の事情によるところもあります。
しかし、一般的な企業において、課長という役職で経営へ参画できることはまれです。課長という役職で、出退勤について自己裁量に任されているケースも考えづらいです。そして何より、月2万円という手当を受け取っても、その額は一般従業員と比較して高い待遇とはいえないでしょう。
そういった点を考えると、今回のケースのような状態は課長とはいえ「管理監督者」とはいえず、名ばかり管理職ということになります。したがって、月2万円の役職手当の存在を理由に、残業代が不支給となることは許されないでしょう。
東京労働局労働基準部「しっかりマスター労働基準法-管理監督者編-」では、実際に起こった「管理監督者をめぐる民事裁判例」が記されています。
ほかにも、労働基準法上の「管理監督者」に該当しないにも関わらず、労働基準法で定める時間外割増賃金や深夜割増賃金の支払いを行っていなかったことについて、労働基準法第三十七条違反として罰金刑に処せられた刑事裁判例もあるようです。
まとめ
管理職となり管理職手当が支給されていれば、残業代が不支給でも仕方ないと思う方もいるかもしれません。しかし、月2万円程度の管理職手当を支給しただけでは、それが許されない可能性が高いです。
とはいえ、実際に判断するには、勤務実態や経営への参画状況などを総合的に考慮する必要があります。もし、自分の置かれた状況に悩んだときは、社労士など労務の専門家や、勤務地を管轄する労働基準監督署などに相談してみるといいかもしれません。
出典
東京労働局労働基準部 しっかりマスター労働基準法 管理監督者編
執筆者:柘植輝
行政書士