更新日: 2024.01.06 働き方
契約社員ですが「正社員でないから」と通勤手当が出ません。職場まで「往復1000円」かかるのに、そのような契約条件なら仕方ないのでしょうか?
働き方改革の「同一労働同一賃金」は正規非正規の不合理な待遇差を是正することを国の政策として進めています。不合理な待遇差があれば、国から是正を求められることもあり、また民法上の損害賠償の対象にもなりうる問題です。通勤手当を例として、社員の皆さんが不合理な待遇差だと思う場合の対応の仕方を説明します。
目次
正規・非正規の定義
まず、正規社員(正社員)と非正規社員の定義を確認しましょう。
正社員は、「フルタイム」「無期雇用」「直接雇用」の3要件を満たす人です。非正規社員はこの1つでも満たさない人です。「フルタイム」でないのが、パートタイム労働者などです。「無期雇用」でないのが「有期雇用労働者」です。「契約社員」、「嘱託」、「準社員」、「アルバイト」などさまざまな呼び方があります。「直接雇用」でないのが「派遣社員」です。
正規非正規には著しい賃金格差、一方で正社員は長時間労働などの問題がある
非正規雇用労働者(非正規社員)は、図表1のように2010年以降増加傾向にあり、雇用者全体の4割近くになっています。そして、図表2のように、時給ベースでも正規社員より相当に賃金が低いのが現状です。
しかし、正社員には長時間労働、転勤が当たり前、などの問題もあります。長時間労働は、女性のキャリア形成や男性の家庭参加を阻む原因にもなっています。
図表1
厚生労働省 「非正規雇用」の現状と課題
図表2
厚生労働省 「非正規雇用」の現状と課題
「働き方改革」の「同一労働同一賃金」で不合理な待遇差の是正が求められている
「働き方改革実行計画」(実行計画)の「同一労働同一賃金」は2021年4月に全面施行され、正規と非正規の労働者の間の不合理な待遇差の解消を目指しています。不合理な待遇差を解消することは、低賃金の解消のみならず、労働生産性向上、多様な働き方の自由な選択、さらに出生率向上にもつながるからです。
そして、不合理な待遇差は非正規社員の意欲を阻害します。不合理な差を埋めれば、働く意欲を高め労働生産性が向上するでしょう。
特に女性は結婚、子育てなどの理由から、30代半ば以降非正規を選択する人が多くいます。正規非正規の待遇差から生涯賃金に大きな差が出る一因になります。
非正規社員の待遇を改善し、女性や若者などの多様な働き方の選択を広げれば、希少となる人材を社会全体で育て、一人ひとりに自己実現の道を切り開くことができます。実行計画では「非正規」という言葉を一掃する、とまで述べられています。
不合理な待遇差の判断基準は「合理的な説明がつくかどうか」通勤手当は同一支給が原則
「同一労働同一賃金」は、「待遇差の禁止」ではなく、正規・非正規の間で不合理な待遇差を設けない、ということです。
不合理かどうかは、職務内容、異動の範囲、その他の事情から合理的な説明がつくかどうかで判断されます。「将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」といった主観的・抽象的説明では足りません。
基本給や賞与などは、これら諸要素を考慮し金額相違に合理的説明ができることも多いでしょう。
しかし、通勤手当は通勤に必要な費用を支給するもので、労働時間の長短など関係ありません。差を設けること自体が原則として不当な差別になります。
さまざまな手当や、福利厚生施設、教育訓練、休暇なども合理的な説明がつくかどうかという観点で判断されます。
例えば食事手当は労働時間の途中で食事休憩があるなら、正規・非正規とも同額を支給すべきです。福利厚生施設(給食施設、休憩室および更衣室など)は正規・非正規とも同様の利用を認めるべきものです。
社員として対応すべきこと・会社に求めるべきこと
正規・非正規の不合理な待遇差の是正は、多様な働き方を可能にし、労働生産性の向上を図る国家の重要施策です。「契約条件だから仕方がない」と考えるのではなく、待遇の差に疑問があれば、会社に説明を求めましょう。会社は説明を拒むことはできません。会社の説明に納得がいかないなら、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に相談しましょう。
労働局は、会社の対応に問題があれば報告を求めたり、助言や指導、勧告したりできます。このような援助で解決できる場合も多いでしょう。なお、社員が労働局に相談したことを理由に、会社が解雇その他の不利益な処分をするのは禁止されています。
そして、最終的には民事上の損害賠償請求も可能であることも明確にされています。このような点も含めて、あきらめずに行動しましょう。
出典
厚生労働省「非正規雇用」の現状と課題
厚生労働省 厚生労働省告示第430号
厚生労働省 パートタイム・有期雇用労働法の概要
首相官邸 働き方改革実行計画
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー