更新日: 2023.11.30 働き方

上司が「今夜2人で打ち合わせしよう」と言ったり、身体を触ってきたりとセクハラがひどいです。退職を考えているのですが、労災に認定されますか? このまま泣き寝入りするしかないでしょうか…?

上司が「今夜2人で打ち合わせしよう」と言ったり、身体を触ってきたりとセクハラがひどいです。退職を考えているのですが、労災に認定されますか? このまま泣き寝入りするしかないでしょうか…?
セクハラ、パワハラなどで退職を考えるなら、注意点はいくつもあります。労災保険の請求、上司・会社への民事訴訟、失業保険の給付に関するものなどがあり、公的機関や専門家への相談が有効です。本記事では、労災認定や訴訟に関することなどを説明します。

ハラスメント退職による労災認定のハードルは高い

ハラスメントによる退職というと、労働基準監督署に相談して労災認定を受けることをまず考えるかもしれません。
 
ハラスメントで精神障害などになり労災保険の認定があれば、治療費全額補償、休業補償などの手厚い補償が受けられます。しかし精神障害の労災補償の認定率は、図表1のように厳しいものです。令和4年度の労災請求は2683件ですが、決定件数1986件のうち業務上災害と認められて支給決定に至ったのは710件、認定率35.8%にとどまります。
 
図表1


厚生労働省 精神障害の労災認定
 
全国の労基署で統一的な扱いをするため、厳格な基準で審査されます 。
 

・認定基準の対象となる精神障害を発病していること
・認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
・業務以外で心理的負荷が発生していない、個体要因による発病でないこと

 
例えば、職場のセクハラで体調を崩した程度では不十分であり、うつ病などの認定対象の病気を発症しているかどうかがまず問われます。
 
さらに、うつ病を発症したとしても、「業務による強い心理的負荷」に本当に該当するのか、業務以外の個人的な事情(家族の不和・不幸など)や個体要因(アルコール依存、過去の精神疾患の既往歴など)が影響したのではないか、などさまざまな要素が考慮されます。
 

民事訴訟は時間も費用もかかる

会社や上司に対し、民事訴訟で損害賠償請求することも1つの方法です。
 
裁判所は労災保険の基準によらずに個別事情を判断してくれることもあり、また、精神的損害への慰謝料まで認めてくれることもあります。しかし、年単位の時間がかかり弁護士費用の負担も大きく、かつ会社も真剣に争います。勝訴は容易ではないでしょう。
 

失業保険でも考慮される

会社を退職するなら、雇用保険の「基本手当」(失業手当)がもらえます。自己都合退職でなく、セクハラなどでやむなく退職に追い込まれた(会社の都合で退職に至った)とハローワークで認定してもらえれば、給付で有利に扱われます。
 
失業手当の額は「基本手当日額」(離職以前6ヶ月賃金の平均日額×50~80%)を何日分もらえるか、という計算をします。
 
被保険者期間(勤務期間)が10年未満なら、自己都合退職は一律90日分です。会社都合退職なら、被保険者期間5年から10年未満で離職時年齢が30歳未満なら120日分、30歳から35歳未満なら180日分など、大きな違いになります。
 
さらに、自己都合退職なら給付まで2~3ヶ月の「給付制限期間」がありますが、会社都合退職ならすぐに給付を受けられます 。
 
ただし、注意点が2つあります。会社は「会社都合退職」を認めたがりません。会社都合退職があると厚生労働省の助成金がもらえなくなるなどの事情があるためです。「自己都合退職にしてくれれば退職金を上乗せする」という甘言を持ちかけることもあります。うかつに応じないで、ハローワークと対応を相談しましょう。
 
また、ハラスメントによる退職なら、ハローワークが「同僚2人以上の証言書」などハラスメントの事実の証明を求めることがあるようです 。できれば退職前に準備することが望ましいでしょう。
 

1人で悩まず公的機関や弁護士など専門家と相談しよう

セクハラ、パワハラなどでの退職については、さまざまな考慮すべきことがあります。1人で悩まずに、厚生労働省の総合労働相談コーナーや、労働問題を扱う弁護士、社会保険労務士等の専門家に相談してみてください 。具体的事情に応じたアドバイスをもらえるでしょう。
 
上記の証拠集めも含めさまざまな助言指導のほか、場合により会社への紛争解決のあっせんもしてくれるので、早期解決につながるかもしれません。労基署やハローワークも、総合労働相談コーナーから紹介してもらう方が丁寧に対応してくれるでしょう。
 

出典

厚生労働省 令和4年度「過労死等の労災補償状況」を公表します
厚生労働省ハローワーク 離職された皆様へ
 
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

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