更新日: 2022.09.10 働き方
「ホテル大蔵」は健在? どうして財務省は残業時間が大きいのか
執筆者:辻本剛士()
国家公務員の残業時間
中央省庁で働く国家公務員は、財務省を始めとして多くの省庁で超過勤務していることで問題になっています。伊藤孝恵(たかえ)参議院議員は2021年3月19日に政府に対して「官僚の働き方に関する質問主意書」を出しています。その答弁書によると、2020年12月から2021年2月の3ヶ月間で月80時間超の職員が約6500人、月100時間超の職員は約3000人いる状況です。
財務省の「月80時間から100時間未満の超過勤務職員の人数」や「月100時間以上の超過勤務職員の人数」は図表1のとおりです。
図表1
出典:参議院 第204回国会(常会) 官僚の働き方に関する質問主意書 答弁書 より筆者作成
財務省職員の3ヶ月間の延べ人数は799人です。最も多いのは厚生労働省の1092人で、新型コロナウイルス感染症の対応によるものから人数が多くなっています。
財務省の残業
財務省の残業は、特に予算編成期間である9月から12月の期間の残業が休日返上で作業を行うことが多く、ノイローゼ気味になる職員も現れる程です。予算原案が提示される12月中旬頃は、財務省にある仮眠室に連日寝泊まりし、平均3、4時間睡眠で、山積みされた資料や数字と向き合うことになります。大蔵省時代は、「ホテルオークラ」にかけて「ホテル大蔵」と呼ばれていました。
予算編成を行う財務省主計局は、軍隊風に「主計軍団」と呼ばれたことがあり、主計局次長を「師団長」、主計官は「連隊長」、主査は「小隊長」として、次長は3名、主計官は9名いることから「三個師団九個連隊」とたとえられます。軍隊風で表すように、予算編成期間はいわば体力と根性で切り抜けているといえるでしょう。
12月中に財務省主計局で予算原案を作成し、翌年の通常国会が始まる前に閣議決定されます。通常国会において予算案が提出され2月から3月にかけて審議が行われ、3月末には予算案が成立します。
財務省の残業時間を減らすには
財務省に限らず中央省庁全体で超過勤務が起きていますが、残業代を払っているから問題ないわけではありません。かつての財務省では、体育会系を超える軍隊ばりに体力と根性で予算編成期間などを切り抜けていたと考えられます。
長時間労働を前提として仕事をすることで、国家公務員総合職試験に合格して入省したいわゆるキャリア官僚は、上司から引き上げてもらって出世への道が開かれるでしょう。
また国家公務員一般職試験に合格して入省したいわゆるノンキャリア官僚については、退職した時に「七夕会」というOB会において「死ぬまで」面倒を見てくれるといわれています。七夕会は、戦前に大蔵次官や大蔵大臣を務めた賀屋興宣(かやおきのり)氏が予算編成で苦労しているのは主計官や主査よりも地道に働いているノンキャリア官僚と発言したことで組織されました。
財務省はかつて「大蔵一家」と呼ばれたように長時間労働はあるものの強い団結力によって結束しています。もし財務省の残業時間を減らすとすれば、働き方だけではなく財務省にある慣習が残っていればその慣習も変える必要があるでしょう。
出典
参議院 第204回国会(常会) 官僚の働き方に関する質問主意書 答弁書
神一行 大蔵官僚 超エリート集団の人脈と野望(講談社、Kindle版、1986)
栗林良光 大蔵省権力人脈(講談社文庫、1994)
執筆者:古田靖昭
二級ファイナンシャルプランニング技能士