更新日: 2019.06.14 遺言書

【相談】家族構成によっては遺言を残した方がいいと聞きましたが本当ですか?

執筆者 : 橋本秋人

【相談】家族構成によっては遺言を残した方がいいと聞きましたが本当ですか?
2018年の民法改正により、遺言の扱いが大きく変わります。遺言書の中で、多く作成されているのが公正証書遺言と自筆証書遺言ですが、今回は自筆証書遺言の改正が行われ、改正前と比べて作成しやすくなりました。
 
実際に遺言書を作成する人はまだ少数ですが、遺言の必要性を確認し、今後、特にどのようなケースで特に遺言が必要かについて考えます。
 
橋本秋人

執筆者:橋本秋人(はしもと あきと)

FP、不動産コンサルタント

早稲田大学商学部卒業後、大手住宅メーカーに入社。30年以上顧客の相続対策や不動産活用を担当。
 
現在はFP、不動産コンサルタントとして相談、実行支援、講師、執筆等を行っている。平成30年度日本FP協会広報センタースタッフ、メダリストクラブFP技能士受験講座講師、NPO法人ら・し・さ理事、埼玉県定期借地借家権推進機構理事

自筆証書遺言の改正内容と目的は?

今回の自筆証書遺言の改正内容は、次の2点です。
 
1.自筆証書遺言の作成方法の緩和(2019年1月13日施行)
改正前は、自筆証書遺言は全文自筆でないと認められていませんでしたが、今回の改正により、財産目録についてはパソコンでの作成や、不動産の登記簿謄本や通帳の添付(ただし、それぞれに署名押印が必要)が認められました。
 
2.自筆証書遺言の保管制度の開始(2020年7月10日施行)
今まで自筆証書遺言は、本人が自己責任で保管していたため、紛失や偽造などの心配がありました。しかし、施行後は、自筆証書遺言を法務局で保管できるようになり、この保管制度を利用すればそれらの心配もなくなります。あわせて従前は必要だった家庭裁判所による検認手続きも不要になります。
 
今回の改正の目的は、遺言書の作成をしやすくするとともに、安心して保管できるようにして、遺言作成件数の増加を促し、相続における財産分割のトラブルの発生を防止しようということです。
 

遺言書の必要性が高まった背景は?

財産が少なければ相続トラブルも少ないということにはなりません。実際に、遺産分割が調停で争われた件数の内、財産額1000万円以下が32.0%、1000万円超5000万円以下が43.4%と全体の4分の3以上が5000万円以下の財産での争いとなっています(※1)。
 
財産の多寡よりも相続トラブルの原因となりやすいのが、家族構成によるものです。少子高齢化社会の進行の中で、日本人の生き方も多様化するのにともない、家族構成も変化しています。
 
高齢夫婦、生涯独身の人、離婚する人の増加などにより、単身世帯が増え、いわゆる標準世帯(夫婦と子ども)の割合が減少しています(※2)。このような変化にともない、相続における人間関係も複雑になってきました。
 
遺言は、ほとんどの相続に役立ちますが、その中でも次にご紹介するケースでは、特に遺言書を作成しておかないと相続トラブルに発展する可能性が高くなると考えられます。
 

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遺言がないとトラブルになりやすいケースは?

1.子がいない夫婦
子がいない夫婦の場合、特に注意しなければなりません。夫婦に子がいる場合は、被相続人(亡くなった人)の配偶者と子が相続人となります。
 
しかし、夫婦に子がいない場合は、父母がいれば配偶者と父母が相続人となり、父母がいなくても兄弟姉妹がいる場合は兄弟姉妹が繰り上がり相続人となります。
 
また、民法では法定相続分が定められており、配偶者と父母が相続人の場合は、配偶者が3分の2、父母が3分の1となります。一方、相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合は、配偶者が4分の3となり、兄弟姉妹にも4分の1の法定相続分が認められています。
 
例えば、夫の相続で、妻に全財産を相続させるという遺言がない場合、妻は夫の両親、または夫の兄弟姉妹と夫の遺産について話し合いをしなければいけません。そうなると妻が全ての財産を相続できるとは限らず、争いになれば父母や兄弟姉妹の法定相続分が認められてしまいます。
 
ここで、妻に全財産を相続させるという遺言があれば、相続のトラブルも抑えられます。その際に注意したいのが、父母には遺留分という最低限守られるべき相続分があるということです。
 
妻と夫の父母が相続人となる場合、父母には法定相続分の2分の1の遺留分があり、妻に全財産を相続させるという遺言書があっても、父母から遺留分の請求があれば6分の1の遺留分は認められてしまいますが、それでも遺言書がなく争いになった場合に比べ父母の相続分は半分に抑えられます。
 
また、兄弟姉妹には遺留分はありませんので、遺言書があれば争うことなく全財産を妻に相続させることができます。
 
2.前妻の子がいる場合
亡くなった被相続人に、離婚した配偶者との間に子がいて、かつその子を離婚した配偶者が引き取っている場合も注意です。離婚した配偶者は相続人にはなりませんが、その間に生まれた子は当然相続人になります。
 
そこで相続が起こると、今の配偶者やその子と、前配偶者との子の間で遺産分割協議をしなければなりません。今の家族が前の配偶者の子と親しく交流していることは少ないと思いますので、いざ分割協議の際にもめるケースが出てきます。
 
被相続人が、今の配偶者や子に多く財産を残してあげたいという考えを持っているのであれば、前配偶者との子には遺留分を残し、現在の配偶者と子に多く財産を相続させることも可能です。
 
反対に被相続人が前配偶者との子にも愛情があり今の子と同じだけ財産を渡したい場合には、それも遺言によって実現することができます。その場合はトラブルを避けるために今の家族にもきちんとその気持ちを伝えておくことが大切です。
 

まとめ

他にも遺言書を作成したほうが良いケースとして、家業を継ぐ人に多くの事業用財産を残したい場合、相続人以外に財産を渡したい場合、財産が分けにくい場合、などもあげられます。
 
今一度、自分に万が一のことが起こったら、残された家族が財産分割でもめないかどうかを考えてみて、特にトラブルの心配がある場合は遺言書の作成をお勧めします。
 
※1 裁判所「平成30年司法統計(家事事件編)」
※2 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」2018年1月2日
 
執筆者:橋本秋人(はしもと あきと)
FP、不動産コンサルタント
 

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