更新日: 2020.04.05 控除

災害や盗難の被害にあったときに使える「雑損控除」ってどんな制度?

災害や盗難の被害にあったときに使える「雑損控除」ってどんな制度?
所得控除のひとつに「医療費控除」があります。これは、医療費を多く支払った翌年の確定申告で控除を受けられる制度ですが、多くの方がご存じでしょう。
 
ところが、災害や盗難などにあった場合、翌年の確定申告で「雑損控除」という所得控除を受けることができることを知っている方は少ないのではないでしょうか。そこで、あまり知られていないこの制度について解説します。
 
秋口千佳

執筆者:秋口千佳(あきぐちちか)

CFP@・1級ファイナンシャル・プランニング技能士・証券外務員2種・相続診断士

雑損控除とは?

雑損控除は、自身の資産が災害や盗難にあったときに、その被害額の一部について、所得控除を受けることができる制度です(※1)。
 
●対象となる資産が決まっています
対象となる資産の持ち主は、納税者本人か、その納税者と生計を一にしている配偶者や親族で、総所得金額が38万円以下(2020年分以降は48万円以下)の人と決められています。また、対象となる資産は「通常の生活に必要不可欠な資産」とされています。
 
つまり、通常の生活に必要でない資産については対象外となります。対象外の資産は、具体的には次の通りです。
 
(1)棚卸資産(事業所得の計算で損害を組み込みます)
(2)事業用の固定資産(事業所得の計算で損害を組み込みます)
(3)生活に通常必要でない資産(別荘、貴金属、骨董品など)
 
●損害の原因も決まっています
対象となる資産が損害を受けた場合、何でも控除を受けられるわけではありません。損害の原因にも決まりがあります。具体的には次の通りです。
 
(1)震災、風水害、冷害、雪害、落雷などの自然現象の異変による災害
(2)火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
(3)害虫などの生物による異常な災害
(4)盗難
(5)横領
 
ここで注意が必要なのは、「詐欺や恐喝」に起因する損害については、雑損控除を受けることができないということです。そのため、「振り込め詐欺」も控除の対象とはなりません。

雑損控除でどれくらいの金額が戻ってくるの?

皆さんが一番に気になるのは、どれほどの損害を受けると、どれくらいの税金が戻ってくるのか、ということでしょう。計算方法は次の通り2つのステップのみです。
 
●ステップ1 「差引損失額」を求める
差引損失額は次のように計算します。
 
「損害金額」+「災害等に関連したやむを得ない支出の金額」-「保険金などにより補填された金額」
 
「損害金額」とは、損害を受けたときの時価です。購入価額ではないので注意が必要です(※2)。「災害等に関連したやむを得ない支出の金額」とは、取り壊し費や撤去費用、原状回復のための修理費が含まれます。
 
●ステップ2 控除額を求める
控除額は次の2つを比較して多い方です。
 
・差引損失額-総所得金額×10%
・差引損失額のうち災害関連支出の金額-5万円
 
「災害関連支出の金額」とは、ステップ1の「災害等に関連したやむを得ない支出の金額」とほぼ同じです。異なるのは、盗難や横領による損害で発生した費用は含まれないという点です。
 
文章の説明では分かりにくいこともありますので、以下の通り3つのケースについて、具体的に数字を当てはめて見ていきましょう。
 
【具体例1】
(条件)
原因 台風(風水害)
総所得金額 250万円
損害金額 100万円
災害関連支出(やむを得ない支出) 15万円
保険金 20万円
 
(計算)
差引損失額=100万円+15万円−20万円=95万円
控除額
・95万円−250万円×10%=70万円
・15万円−5万円=10万円
・70万円>10万円→70万円
 
【具体例2】
(条件)
原因 詐欺
総所得金額 250万円
損害金額 100万円
災害関連支出(やむを得ない支出) 15万円
保険金 20万円
 
(計算)
差引損失額=100万円+15万円−20万円=95万円
控除額
・95万円−250万円×10%=70万円
・0円−5万円<0円→0円
・70万円>0円→70万円
 
【具体例3】
(条件)
原因 落雷
総所得金額 500万円
損害金額 100万円
災害関連支出(やむを得ない支出) 15万円
保険金 20万円
 
(計算)
差引損失額=100万円+15万円−20万円=95万円
控除額
・95万円−500万円×10%=45万円
・15万円−5万円=10万円
・45万円>10万円→45万円
 
上記の具体例の通り、所得が多い人は、自身で損失を補うことができることから、同じ損害を受けても、所得が少ない人に比べて控除額が少なくなります。

雑損控除を受けるための手順

雑損控除を受けるためには、災害などを受けた翌年に確定申告をする必要があります。(申告期間は通常、2月16日から3月15日となります。)確定申告書では、雑損控除について記入し、災害等に関連したやむを得ない支出の金額の領収書を添付して、住所地を管轄する税務署に提出します。
 
大きな損害を受けて総所得金額から引き切れない控除額については、翌年以降3年間は繰り越せるので、申告は正しくしておきましょう。
 
また、事業用資産や棚卸資産に損害を受けた場合は、事業所得の計算上、必要経費となります。必要経費に入れて他の所得とも通算して、なお赤字になった場合は、その赤字も翌年以降3年間繰り越せます。
 
この災害による赤字についてのみ、青色申告者だけではなく白色申告者でも適用できるので、白色申告者の方は正しい知識をもっておきましょう。

知っておきたい! 災害減免法による所得税の軽減免除

災害にあった場合に、雑損控除と同様に「災害減免法による所得税の軽減免除」という制度があります(※3)。これは、雑損控除と一緒には使えないのでどちらかを選択することになります。
 
ただし、雑損控除より「災害減免法による所得税の軽減免除」を使う方がお得になることが多いです。
 
●適用要件
(1)災害にあった年の所得金額の合計額が1000万円以下であること
(2)住宅や家財の損害金額(保険金で補填される金額は除く)がその時価の2分の1以上であること
 
●災害減免法により軽減または減免される所得税の額


(※3より筆者が作成)
 
※所得控除ではなく税額控除です。

Q&A

雑損控除についてよくある質問にお答えします。
 
Q1)落雷で別荘が全壊しました。雑損控除を受けられますか?
A1)別荘に関わる損害は雑損控除の対象となりません。なぜならば、別荘は「生活に通常必要な資産」ではないからです。
 
Q2)豪雨で自宅が損害を受けました。夫が全額、雑損控除の適用を受けられますか?(前提条件:自宅の持ち分:夫2分の1、妻4分の1、夫の母4分の1)
A2)妻・夫の母の2人ともが夫の扶養であれば全額、雑損控除を受けられます。ただし、妻や夫の母も所得があり扶養者でないのであれば、控除額のうち持ち分である2分の1しか受けられません。

災害を受けたときは助けてくれる

災害大国である日本では、近年、災害が多く起きています。そのため、いつ自分が災害にあうかも分かりません。そのときのために、こうした制度があることを知っておくことも大切です。
 
[出典]
※1 国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」
※2 国税庁「災害により被害を受けられた方へ(雑損控除における「損失額の合理的な計算方法」)」
※3 国税庁「No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除」
 
執筆者:秋口千佳
CFP@・1級ファイナンシャル・プランニング技能士・証券外務員2種・相続診断士


 

PR
FF_お金にまつわる悩み・疑問 ライターさん募集