災害、盗難、横領などにあってしまったら…万一の際の税金のしくみ「雑損控除」とは
配信日: 2018.09.18 更新日: 2019.01.10
所得控除の考え方については、以前の記事「生活に必要な経費。所得控除で節税ってどういう意味?」をご参考ください。
Text:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
災害、盗難、横領時に役立つ「雑損控除」とは
まずは「雑損控除」からです。
雑損控除は、(1)災害(2)盗難(3)横領によって資産が損害を受けた場合などに、一定の金額がその年の収入から控除されるというものです。
たとえば、近年でいうと自然災害が目立ちますよね。ゲリラ豪雨や、台風、高潮、地震などです。火事や爆発、害虫の被害なども含まれます。こう見ると火災保険のような感じですが、これらを原因に所有している資産に損害が生じた場合に、次のいずれか多い方の金額がその年の収入から控除されます。
(1)「差引損失額」-「総所得金額等」×10%
(2)「差引損失額のうち災害関連支出の金額」-5万円
ちなみに、対象になる資産は、あくまでも「生活に通常必要な資産」です。別荘やゴルフ会員権、貴金属や書画・骨董などで、1個または1組の金額が30万円を超えるものなどは、贅沢品であるため適用されません。つまり、生活に通常必要とは認められないということです。
また、雑損控除は「所得控除」という「生活面での税制補助」であるため、棚卸資産や事業用資産などはもちろん対象にはなりません。
「差引損失額」の計算方法
雑損控除は事故に対する税の優遇という印象があるため、損失がまるごと収入から引かれると勘違いしてしまいがちです。しかし、必ずしもそうではないため、「差引損失額」を確定させたうえで上記の計算式のいずれか多い方の金額で適用を受けることになります。
「差引損失額」は次のように計算します。
「差引損失額」=「損害金」+「災害等に関連したやむを得ない支出の金額」-「保険金などにより補てんされる金額」
雑損控除の適用を受けない場合「災害減免法」で所得税が軽減・免除される
繰り返しになりますが、雑損控除は災害や盗難、横領によって、資産に損害を被った場合の「所得控除」です。
雑損控除自体、罹災者に対する税制上の救済措置ですが、私たちが併せて覚えておきたいのが、「災害被災者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律」。いわゆる、「災害減免法」による「所得税の軽減・免除制度」です。
「災害減免法」では、雑損控除の適用を受けない場合、一定の条件をもとに所得税が軽減・免除されます。
災害によって受けた住宅や家財の損害金額が、(1)その時価の2分の1以上で、(2)災害にあった年の所得金額の合計額が1000万円以下のとき、次のように所得税が軽減、または免除されます。
○所得金額の合計:500万円以下の場合、所得税の全額を免除
○所得金額の合計:500万円超750万円以下の場合、所得税を1/2に軽減
○所得金額の合計:750万円超1000万円以下の場合、所得税を1/4に軽減
「災害減免法」による所得税の軽減・免除制度は所得控除ではありませんが、被災した場合の税制上の救済措置としては、私たちの生活収入の低下を抑制してくれるありがたい制度といえます。
Text:重定 賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)