少子化対策の所得税の課税方式「N分N乗方式」って何? その2

配信日: 2023.06.19

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少子化対策の所得税の課税方式「N分N乗方式」って何? その2
「その1」では、世帯年収1000万円の夫、妻、子ども3人の世帯で、片働きと共働きの場合について、現行の税制とN分N乗方式の所得税額の比較をしました。「その2」では、もっと年収が低いケースでの比較をしてみたいと思います。
浦上登

サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
 
早稲田大学卒業後、大手メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超える。その後、保険代理店に勤め、ファイナンシャル・プランナーの資格を取得。
 
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表、駒沢女子大学特別招聘講師。CFP資格認定者。証券外務員第一種。FPとして種々の相談業務を行うとともに、いくつかのセミナー、講演を行う。
 
趣味は、映画鑑賞、サッカー、旅行。映画鑑賞のジャンルは何でもありで、最近はアクションもの、推理ものに熱中している。

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世帯年収800万円の片働きで夫、妻、子ども3人の世帯での比較

まずは、世帯年収800万円の片働き世帯を例に、現行の税制での課税方式とN分N乗方式での所得税計算を比較します。条件は、以下のとおりです。


家族構成 夫、妻、子(15歳以下)3人
家族の人数に応じた数字:N 1+1+0.5+0.5+1=4
※大人1、子(2人目まで)0.5、子(3人目以降)1で計算

N分N乗方式は、世帯課税所得をNで割って所得税額を計算し、その所得税額にNをかけて世帯所得税額を求めます。
 
図表1 単位:万円

現行の税制 N分N乗方式 差額
収入 800 800
課税所得金額調整 416.6÷4
課税所得金額 416.6 104.2
所得税計算 416.6×20%-42.75 104.2×5%
所得税 40.6 5.2
所得税調整 5.2×4
所得税 40.6 20.8 △19.8

注)所得控除として基礎控除・社会保険料控除・配偶者控除のみを反映
※筆者作成
 
世帯年収800万円の片働きで夫、妻、子ども3人の世帯では、現行の税制とN分N乗方式では、所得税がN分N乗方式の方が19万8000円安くなります。
 

世帯年収500万円の片働きで夫、妻、子ども3人の世帯での比較

次に、世帯年収500万円のケースで比較します。条件は前述の世帯年収800万円の場合と同じです。
 
図表2 単位:万円

現行の税制 N分N乗方式 差額
収入 500 500
課税所得金額調整 202.5÷4
課税所得金額 202.5 50.6
所得税計算 202.5×5% 50.6×5%
所得税 10.1 2.5
所得税調整 2.5×4
所得税 10.1 10.0 △0.1

注)所得控除として基礎控除・社会保険料控除・配偶者控除のみを反映
※筆者作成
 
世帯年収500万円の片働き、夫、妻、子ども3人の世帯では、現行の税制とN分N乗方式での所得税はほぼ同額となります。
 

世帯年収別の所得税額の比較

「その1」で例にした世帯年収1000万円の片働き・共働き世帯と合わせて、所得税額の比較をまとめると図表3のとおりです。
 
図表3

1 2 3 4
世帯年収 1000万円 1000万円
(夫600万円・妻400万円)
800万円 500万円
働き方 片働き 共働き 片働き 片働き
世帯課税所得金額 587.2万円 477.7万円 416.6万円 202.5万円
現行税制による
所得税率
20% 10%・5% 20% 5%
現行税制による
所得税額
74.7万円 29.4万円 40.6万円 10.1万円
N分N乗方式による
所得税率
5% 5% 5% 5%
N分N乗方式による
所得税額
29.2万円 24万円 20.8万円 10.0万円
現行税制とN分N乗方式による所得税額の差 △45.5万円 △5.4万円 △19.8万円 △0.1万円

※筆者作成
 
図表3を見ると、所得が多い片働きの世帯においてはN分N乗方式による所得税減額の効果が大きいですが、所得が少なくなるにつれて効果がなくなることが分かります。
 
世帯年収1000万円で現行税制との差は△45万5000円ですが、世帯年収500万円ではほとんど差がありません。これは、世帯年収が少なくなれば所得税率が最低税率の5%になってしまい、世帯員数で割る効果がなくなってしまうからです。
 
また、同じ世帯年収1000万円での片働き世帯と共働き世帯の例を比較すると、片働き世帯の現行税制による所得税率が20%であるのに対し、共働き世帯では夫10%、妻5%なので、N分N乗方式により最低税率の5%になったとしても、共働き世帯の効果は小さいということになります。
 

まとめ

N分N乗方式は、子どもを増やすことにより節税が図れますが、世帯年収や働き方によって効果に差が出てしまうので、広い範囲で効果を生むことができないというデメリットがあります。
 
少子化対策については、今後、国会でどんな論戦が繰り広げられるのかが注目されます。
 
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

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