企業が得た利益から適正な配分を従業員に行うことを期待して導入されたのが、いわゆる賃上げ促進税制です。以下でその背景と概要を説明します。

執筆者:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)
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CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士(資産運用)
DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
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企業は成長一辺倒から社会的責任を果たす公器へとシフト
高度成長期には、企業は生産力・国際競争力をつけて世界と戦える体力を養い、輸出を軸にして日本に富を蓄積することが最重要課題でした。
労働者の賃上げ要求には企業の内部留保を損なわない程度に応えて、むしろ設備投資などに資金を振り向けることが企業の使命と考えられていたのです。しかし日本経済の市場占有率が拡大したので、労働者・従業員の取り分も相応に増え、誰もがハッピーという時代でもありました。
ところが経済が安定成長期に移行し、高齢化社会が到来した今、状況は一変しました。アメリカのように個人消費が経済成長をけん引する消費社会が出現し、個人の生活力を引き上げることが経済の重要な基盤と考えられるようになったのです。
消費税が導入されて、消費の振興が税収を直接支える構造もでき、企業は社会的責任を強く意識するとともに、バランスの取れた社会還元を目指すようになりました。
賃上げ促進税制では企業の従業員への還元をサポート
政府は賃金の引き上げを積極的に行うよう主な経済団体に要請するなど、働く人への還元を強く求めるようになりました。また新たな雇用機会の創出にも意欲的に取り組んでいます。
賃上げ促進税制とは、それらへの対応で増加した企業の負担の一部を、法人税の特別控除という形で支援する仕組みです。もっといえば、一定の条件を満たした場合の賃上げ分の一部は、国が負担しようという制度なのです。
法人税の控除率は、中堅企業を含む大企業向けと、中小企業向けで差がありますが、基本的な枠組みには違いはありません。大企業などでは継続的に雇用されている従業員の給与等支給額が前年度比4%以上増加したときは、増加額の25%が税額控除されます。
さらに教育訓練費が前年度比20%以上増加すれば、同じく5%が税額控除されますので、合計で30%が税金から還元されることになります。これは2022年度から適用され、従来の合計で20%から10%のアップとなります。
中小企業の場合も基本的に同じ枠組みとなっており、雇用者全体の給与等支給額が前年度比で2.5%以上増加したときは、同様に30%の税額が控除され、教育訓練費が前年度比10%以上増加すれば、10%の税額控除が上乗せされます。
つまり合計で最大40%の税額控除が認められることになり、従来の合計25%から大幅にアップします。
従業員の生活へのインパクトは?
このように政府・企業は現役世代の従業員への還元を念頭に置いており、働く者としては期待が増すところですが、実態はどうでしょうか。
企業の給与規定は、人事制度の骨格の一部でもあるので容易には変えられませんし、バランスを失した従業員への配分の拡大には、中長期的な弊害が生じる可能性もあります。そもそも法人税を納付していない場合は還元される税金もありません。
従業員の処遇については働き方改革が同時に進行する中で、諸手当の見直しや退職金制度の再構築など課題は山積みです。そのような大きな枠組みの見直しの中で、従業員の労働への対価はどうあるべきか、しっかりと経営政策の中で位置づけられるべきでしょう。
しかし、比較的短期的な業績への貢献は賞与で還元するという方向性は強まっているように見られます。賞与も、当然この税制の給与等支給額に含まれます。また経済社会のデータ化・デジタル化が進む中で、従業員教育の必要性が高まっています。
働く者としては自分を磨くことに価値を見いだし、ボーナスのアップに多少の期待を持つのが得策かもしれません。
賃上げ促進税制は経済・社会構造の変化を映しだす鏡
法人税の特別控除の見直しで、いわゆる賃上げ促進税制が強化されました。日本経済・社会の構造が大きく変わる中で、働く人をサポートしようとする国の政策の一環であり、利益が上がっている企業にもメリットがあります。
ただし一人ひとりの給与がいきなり増えることは考えにくく、個人としては企業内教育制度を利用してスキルを磨き、ボーナスアップに望みをつなぐのがよいでしょう。
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
監修:新井智美
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士(資産運用)
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