更新日: 2019.08.20 控除

親の扶養に入ったほうがいい?その際の注意点を解説

執筆者 : 福島えみ子

親の扶養に入ったほうがいい?その際の注意点を解説
「親を扶養に入れたほうがいいですか?」意外とよくされるこの質問。

特に、親と話す機会のある年末年始に続いて、確定申告のあるこのシーズンは「親を扶養に入れたら、税金も減ってよいのでは? 親の健康保険の負担も減るだろうし」と思い立つことが多いようです。親の立場からの、「子どもの扶養に入ったほうがいいですか?」とのご質問ももちろんあります。

親を扶養に入れたほうが本当によいのかどうか、そして気をつけておきたいポイントをまとめてみました。
福島えみ子

執筆者:福島えみ子(ふくしま えみこ)

CFP(R)認定者

1級ファイナンシャル・プランニング技能士
マネーディアセオリー株式会社 代表取締役
リュクスセオリーFPサロン 代表
大学卒業後、都市銀行に入行。複数の銀行、法律事務所勤務中に、人生の悩みは結局のところお金と密接に関係することを痛感、人生をより幸せで豊かにするお手伝いがしたいとファイナンシャルプランナーに。FP会社にて勤務後、独立。これまで500件以上の個人相談を担当すると共に、セミナー、執筆と幅広く活動。相続・資産運用・住宅相談・リタイヤメントプラン等を得意とし、個人相談にも力を入れる一方で、セミナーや企業研修、執筆を通じてわかりやすくお金の知識を発信することに注力している。

http://mdtheory.co.jp/

親を扶養に入れると2つのメリット

親を扶養に入れると、子どもの側では税金が安くなり、親の側では国民健康保険等の公的医療保険の保険料が不要となる2つのメリットがあります。
 
ただし、「扶養」とひとくちにいっても、税金と公的医療保険とでは、その扶養の要件や範囲は異なります。
 
まず、税金の扶養に入る要件は2つです。
1.親の年間の合計所得が38万以下であること
2.親と子が生計を一つにしていること

 
38万円以下というのは“収入”ではなく“所得”です。38万円以下を満たすためには、例えば親の収入が公的年金だけの場合、65歳未満なら年金額が年108万円以下、65歳以上では158万円以下であれば、扶養の所得要件をクリアします。
ちなみに、遺族年金、障害年金はこの額に含まれません。
 
また 2.の要件ですが、同居せずとも常に生活費や療養費等の送金が行われている場合には“生計を一つにしている”とされます。
 

どれくらい税金が安くなる?

扶養に入れることで税金がどれくらい安くなるのかは、親の年齢及び同居か否かによっても異なり、それぞれの所得控除額は下記のとおりです。
 


 
そして、同じ控除額でも子どもの所得にかかる税率によって、税金の軽減効果も変わってきます。例えば、控除が48万円の場合、所得税率10%の人なら4.8万円、20%の人なら9.6万円が所得税だけで軽減となり、同時に住民税も軽減となります。
 
とはいえ、子どもの側で、医療費控除、iDeCoやふるさと納税等の各種所得控除をすでに精いっぱい使っていたり、住宅ローン控除があって、そもそもの支払税金がさほど多くない場合は、思ったよりも税金の軽減効果が見込めないことがあるため注意が必要です。
 

扶養といっても、公的医療保険と税金とは別

次に、公的医療保険の扶養の場合はどうでしょうか?
 
公的医療保険の扶養の場合は、まず、子ども側が会社等に勤めており「健康保険」(以下「健保」)に加入していることが大前提です。
 
自営業者等が加入する「国民健康保険」(以下「国保」)には、そもそも扶養の概念がないからです。子どもが健保の加入者であれば、親はその扶養に入ることで、自分の国保の保険料を払わずにすみ、この点、親の家計にはメリットとなります。
 

健康保険の扶養の要件は?

では、その健保の扶養に入るための要件はというと、税金の扶養の条件よりも少々ハードルが高く、基本的に下記が要件となります。
 
親の年収(60歳以上の場合)年間180万未満
親の年収(60歳未満)年間130万円未満

 
さらに、子どもの収入で“実際に生計を維持されていること”が必要です。それに加え、同居かどうかによっても要件が異なり、同居なら扶養される人の年収が扶養する人の年収の2分の1未満、別居なら扶養する家族から援助を受けている金額よりも収入が低いことが必要です。
 
つまり、別居なら親の収入を上回る仕送りをしていなければならないので、単に親の収入基準が低いだけでは扶養に入れられません。
 
これは協会けんぽの要件ですが、健康保険組合ごとに異なる要件を設けている場合もあります。
 
例えば、家族の年収が72万円未満なら毎月6万円以上を仕送りしていなければならないなどです。これらは、加入の健康保険組合しだいのため、まずは事前の確認が必須です。
 

扶養に入れる際に注意しておきたいこと

ここまで見てくると親を扶養に入れるには一定のハードルがあるものの、メリットしかないように思えますが、本当にそうでしょうか? いくつか知っておきたい注意点もあります。
 
まずは、親が75歳以上になると、後期高齢者医療制度に移行するため、収入や仕送りいかんにかかわらず、健保の扶養には入れられなくなるため注意が必要です。また、健保の扶養に入っても介護保険はまた別です。親が65歳以上であれば、親自身の年金から介護保険が引かれます。
 
そして、特に注意しておきたいのが高額療養費制度です。医療費が多額になったときでも一定の自己負担ですむ制度ですが、もし扶養に入っていなければ、親のみの所得を基準にした低い自己負担限度額が適用されて負担額がもっと少なくてすんだ、という場合もありえます。
 
所得によって自己負担の限度額が異なるこの制度は、“扶養している人の所得”が限度額の判定基準になるからです。
 
ただし、世帯で合算して高額療養費を適用できる世帯合算の仕組みもあるため、どちらが得かは、扶養する人とされる人の収入や状況を見極めて判断する必要があるでしょう。
 
同様に、高額介護合算療養費、高額介護サービス、特定入所者介護サービス費などの、介護や介護施設を利用する際の負担が軽減される制度も、所得によって自己負担限度額が判定されるため、負担がアップすることがないか検討しておきたいところです。
 

そのほかにも考えておきたいこと

このほか、個人のメリット・デメリット以外にも意識しておきたいこともあります。
 
高齢になるとどうしても医療費がかさみがちです。にもかかわらず、親を扶養に入れることで子どもが負担する健保の保険料は増えるわけではありません。そうすると、近年財政が苦しいところが増えつつある健康保険組合などの保険者側では、保険料の料率を上げざるを得ず、結局は子どもの負担増になったり、最悪の場合破綻の可能性も皆無ではありません。
 
一方、親が国保の保険料を払わずにすめば、それだけ国保全体の保険料収入が減り、国保の財政にも影響しかねません。
 
日本のどこで病院にかかっても自己負担が基本的に最大3割ですむという国民皆保険制度を持続性あるものに皆でしていく、そういった視点でも見ておくことが、引いては子どもと親双方の将来にプラスとなるかもしれません。
 
とはいえ、親を扶養に入れることで、苦しかった家計に光明がさすケースもあることでしょう。
 
視野を広く持ちつつ、個々の家庭の事情にあわせてメリット・デメリットをじっくりと家族で話し合うことで、「親を扶養に入れたほうがいいのかどうか?」のベストな答えが出るのではないでしょうか。
 
Text:福島 えみ子(ふくしま えみこ)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者・マネーディアセオリー株式会社 代表取締役
 

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