更新日: 2019.08.02 控除
給与所得控除は、「サラリーマン」と「自営業」どちらが優遇されているの?
サラリーマンはスーツ代、勉強費用、仕事関連で必要な交際費も認められていないという議論です。果たして、それは本当なのでしょうか? ちょっと確認してみましょう。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
早稲田大学卒業後、大手メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超える。その後、保険代理店に勤め、ファイナンシャル・プランナーの資格を取得。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表、駒沢女子大学特別招聘講師。CFP資格認定者。証券外務員第一種。FPとして種々の相談業務を行うとともに、いくつかのセミナー、講演を行う。
趣味は、映画鑑賞、サッカー、旅行。映画鑑賞のジャンルは何でもありで、最近はアクションもの、推理ものに熱中している。
給与所得控除って何?
もう確定申告も終わりましたね。確定申告をされた方は確定申告のフォームを埋められたと思います。一番上の「収入金額等」にある給与の欄に2018年の年収を入れます。
国税庁HPでの作成の場合、そうすると次の欄「所得金額」の給与の欄に数字が自動的に入ります。その数字は「収入金額等」の欄のものと比べ、かなり低くなっています。
そして、それをベースにその下の「所得から差し引かれる金額」の欄で社会保険料控除、生命保険料控除、基礎控除等の所得控除の金額が差し引かれ「課税される所得金額」が求められます。
収入 - 給与所得控除 = 総所得金額
「収入金額等」 - 給与所得控除 = 「所得金額」
総所得金額 - 所得控除 = 課税所得
「所得金額」-「所得から差し引かれる金額」=「課税される所得金額」
(下の段は、「確定申告書」の表記を使用した場合)
給与所得控除とは、所得控除以前に給与収入から引き去られる金額で、総所得金額を求めるために使われます。所得控除が、「個人的な事情を加味して税負担を調整するもの」であるのに対し、給与所得控除は、「給与所得者に対し一律に認められる必要経費」なのです。
給与所得控除の金額は?
給与所得者には、大きな給与所得控除が認められています。以下の表を見てください。年収300万円から1000万円の給与所得者に対し、108万円から220万円の給与所得控除が認められています。比率にして、36%から22%に当たります。
すなわち、大ざっぱに言えば、20%から40%の経費が自動的に認められているのです。自営業者が経費の一つひとつに領収証を添付して申告しなければいけないのに比べて、手間が全くかからないのでかなり有利です。
これだけあれば、スーツ代も、勉強代も、仕事をする上で必要な交際費も出てくるということになります。
配偶者控除・配偶者特別控除の算定にも給与所得控除が関係する
皆さん、「150万円の壁」という言葉をお聞きになったことがありますよね。これらは、主婦の方の給与収入(パート収入)がその金額を超えたら、配偶者控除や配偶者特別控除が受けられなくなったり、減額されたりする金額を指しています。
配偶者控除や配偶者特別控除(以下「配偶者(特別)控除」とします)が満額(38万円)から徐々に減っていく起点が給与収入150万円となり、「150万円の壁」といわれています。
また、平成30年からは、働き手の「合計所得金額」が1000万円を超えると、配偶者(特別)控除が受けられなくなり、「合計所得金額」が900万円を超えても配偶者(特別)控除は満額の38万円から減額されることになりました。
「合計所得金額」は次のように算出されます。
収入 - 給与所得控除 = 総所得金額
総所得金額 + 株式等の譲渡所得・配当所得(譲渡損失の繰り越し控除前) = 「合計所得金額」
※給与所得以外に株式関連所得しかない方なら上記の認識で十分です。
働き手の「合計所得金額」が1000万円を超える場合は、「150万円の壁」を意識しても意味がないということになりました。なぜならば、その場合、配偶者の収入がゼロであったとしても配偶者(特別)控除は受けられないからです。
「合計所得金額」は、配偶者(特別)控除だけでなく、その他家族の扶養控除の判定に使われるので、しっかり覚えておきましょう。ちなみに「合計所得金額」を算出した後に引かれる「所得控除」はいくら積み上げても、上記の判定には影響しません。
まとめ
上記で説明した通り、給与所得控除は、サラリーマンの必要経費であるだけでなく、各種控除が受けられるか否かの判定に考慮される要素になっています。そして給与所得控除はサラリーマン独特のものです。
少なくとも、必要経費に関して、サラリーマンが、税務上、自営業者に比べて不利な扱いを受けているのではないということは分かっていただけたと思います。
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー