更新日: 2020.01.24 その他年金

年金制度改正の動き ~政府の狙いは? 年金はどうなるのか?~

年金制度改正の動き ~政府の狙いは? 年金はどうなるのか?~
最近、政府の年金制度改正の動きがマスコミで報じられています。すでに頓挫しましたが、在職老齢年金の給付調整の基準額を引き上げの動きがありました。
 
一方、短時間労働者の社会保険加入を増やすために社会保険強制加入の企業規模を引き下げようとする動きがあります。それ以外にも、年金保険料の拠出期間の延長と受給開始時期の繰り上げが検討されています。
 
これらの動きはには、少子高齢化の状況に対応して厚生年金の被保険者数を増やし、年金保険料を確保しようという政府の思惑が入り交じっているように感じられます。これらについて解説してみたいと思います。
 
浦上登

執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)

サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
 
早稲田大学卒業後、大手メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超える。その後、保険代理店に勤め、ファイナンシャル・プランナーの資格を取得。
 
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表、駒沢女子大学特別招聘講師。CFP資格認定者。証券外務員第一種。FPとして種々の相談業務を行うとともに、いくつかのセミナー、講演を行う。
 
趣味は、映画鑑賞、サッカー、旅行。映画鑑賞のジャンルは何でもありで、最近はアクションもの、推理ものに熱中している。

https://briansummer.wixsite.com/summerarrow

年金制度の現状

現在の年金は、賦課方式で世代間扶養ですから、現役世代がその収入で老齢世代に給付される年金を支える仕組みになっています。
 
現在の日本における問題は、少子高齢化により年金を支える現役世代が徐々に減少し、年金を支える資金が先細りになっていく一方で、支えられる立場の老齢世代が増加して年金給付額が増加している状況にあると言えます。
 
このアンバランスを解消するためには、厚生年金の被保険者数を拡大して年金保険料の増収を図り、年金給付額を抑えるために年金の受給開始年齢を引き上げる必要があります。
 

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勤労年齢の延長と年金の繰り下げ支給の促進

その狙いに関連して検討されているのが、保険料拠出期間の延長と年金の繰り下げ支給の促進です。具体的には、次の方策が検討されています。

1.勤労年齢の延長

・国民年金の被保険者の保険料拠出期限を60歳から65歳に延長して、保険料拠出期間を40年から45年にする
・厚生年金の被保険者の年齢制限を70歳から75歳にする

2.年金繰り下げ受給の促進

・年金の繰り下げ支給の上限年齢を70歳から75歳まで延長する
 
すなわち、勤労年齢の延長による保険料の徴収範囲の拡大と年金受給年齢の後ろ倒しの動きがあります。
 

在職老齢年金の給付調整の基準額の引き上げ

上記の動きの一環として、高齢者の就業意欲の促進を図るために検討されたのが、60歳以上の在職老齢年金の給付調整の基準額の引き上げです。
 
在職老齢年金の給付調整の基準額の引き上げと言ってもよく分からないと思いますが、従来は月額賃金換算で60歳から64歳の人は28万円、65歳以上の人は47万円の基準額が設定され、それぞれの基準額を超えると、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止される仕組みになっていました。
 
すなわち、60歳を超えた人は働いて一定額以上の給与を受け取ると、老齢厚生年金がカットされてしまうので、労働意欲を減退させていたという問題がありました。
 
この改正には、基準額を上げることによって高齢者の勤労意欲を増加させ、60歳以上の高齢者の就業を一般的にするという意図があったのですが、高所得者優遇の批判を浴びて頓挫してしまいました。
 

社会保険強制加入の対象企業の拡大

現在検討されているのが、厚生年金の被保険者を増加させるため、短時間労働者に対する社会保険の適用拡大です。現在は、フルタイムの労働者に加え、次の条件を全て満たした短時間労働者の社会保険への加入が義務付けられています。
 
(1) 従業員501人以上の企業に勤務している
(2) 週の所定労働時間が20時間以上
(3) 勤務期間1年以上またはその見込みがある
(4) 月額賃金が8.8万円以上
(5) 学生以外

 
このうち、(1)の企業規模を従業員501人以上の会社から従業員50人超の会社へ変更することが検討されています。
 
この(1)の企業規模を撤廃し、全ての企業とした場合、厚生年金の被保険者は125万人増加して4565万人になるというのが厚生労働省の試算です。
 
企業規模を従業員501人以上から50人超に引き上げた場合は、末尾の厚生労働省レポートには明示されていませんが、65万人が増加するとの新聞報道がなされています。125万人増加までは、いかなくとも、その半分以上の増加が見込まれることになります。これによる、事業主負担は1590億円になるとのことです。
 
厚生年金の被保険者数
フルタイム労働者  4400万人
短時間労働者     40万人(現状)
短期労働者増加分 125万人(現状の企業規模従業員501人以上を撤廃した場合の増加数)
計        4565万人
 
この施策は年金保険料増加という面では有効ですが、一方で中小企業に厚生年金保険料・健康保険料の負担を強いるという点で問題あり、今後どう推移するか分からなくなっています。
 

まとめ

厚生年金制度改正の動きについて解説しました。今現在の動きがどう決着するかはさておき、今後は勤労年齢の延長、年金の繰り下げ支給の促進、厚生年金の被保険者の拡大という方向に進む可能性が高いのではないでしょうか。今後も年金制度改正の動きに注目していきましょう。
 
[参考] 「2019(令和元)年財政検証結果のポイント」 厚生労働省 第9回社会保障審議会 年金部会資料 2019年8月27日
 
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー


 

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