年金の定期健診「年金財政検証」前回と何が違う?注目すべき点とは
配信日: 2019.09.13
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
前提条件が楽観的過ぎる!?
2019年、令和初めての財政検証は、前回と比較しつつ、「前回同様、一定の年金額が確保できているのだから、公的年金の安心はゆるがないので、安心してほしい」という政府の思惑が感じられるのは私だけでしょうか。今回、前回との比較として挙げられている前提条件を見てみましょう。
・出生率は向上:1.35(2060年)→1.44(2065年)
・平均寿命は伸長:男84.19 女90.93(2060年)→男84.95 女91.35(2065年)
・高齢化率低下:40.4%(2065年)→38.4%(2065年)
・労働参加は進展:就業率 58.4%(2030年)→60.9%(2040年)
・経済前提は控えめに設定(長期の前提)
このような前提条件のうち、例えば出生率が1.44という条件は楽観的すぎるかもしれません。以下、内閣府ホームページより一部抜粋の上、筆者修正
諸外国(フランス、スウェーデン、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア)の合計特殊出生率の推移をみると、1960年代までは、すべての国で2.0以上ありましたが、その後、1970(昭和45)年から1980(昭和55)年頃にかけて、全体としては低下傾向となっています。
一方、出生率が回復する国も出てきています。特に、フランスやスウェーデンでは、回復傾向となり、直近ではフランスが1.92(2016(平成28)年)、スウェーデンが1.85(2016年)となっているのです。
これらの国は、経済的支援と併せ、保育や育児休業制度といった「両立支援」の施策が進めてきたからこそ、出生率の回復に貢献したのだと思われます。
ここまで日本では、幼児教育の無償化、高等教育の給付型の支援など、子育て世帯への支援が決まっていますが、それが出生率の回復になるかがわかるまでには、まだ時間がかかるでしょう。
ただ、幼児教育の無償化には所得制限はありませんが、高等教育の給付には制限があります。やはり、奨学金を受け取りながら高等教育に進学すると、その後、社会に出て、奨学金を返済しながらの子育ては経済的に厳しいと言わざるをえません。
そんな中、子どもを多く産むためには、さらなる支援が必要とされるでしょう。
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新たに付け加えられたオプションで年金は健全?
前回と異なるのは、オプション試算の内容です。オプションのAとしては、被用者保険のさらなる拡大。オプションBとしては、保険料拠出期間の延長と受給開始時期の選択となります。まずオプションAである被用者保険のさらなる拡大ですが、3つのパターンが仮定されています。
(1)被用者保険の適用対象となる現行の企業規模要件を廃止した場合
(2)被用者保険の適用対象となる現行の賃金要件、企業規模要件を廃止した場合
(3)一定の賃金収入(月5.8万円以上)があるすべての費用者へ適用拡大
被用者保険の加入者を増やすには、高齢者や女性の活躍が欠かせないでしょうが、女性ではまだ「扶養の範囲内で働きたい」「あまり長時間働きたくない」という要望も根強いものですし、子どもが小さいと、柔軟な働き方ができるよう企業側が変わらなければ、「保険に加入して正社員としてバリバリ働きたい」という女性は増えないでしょう。
次にオプションBですが、
(1)基礎年金の拠出期間延長(20歳から65歳まで)
(2)在職老齢年金の見直し(65歳以上の在職老齢年金の仕組を緩和・廃止)
(3)厚生年金の加入年齢の上限の引き上げ(上限を70歳から75歳)
(4)就労延長と受給開始時期の選択肢の拡大(70歳から75歳まで受給開始可能期間の年齢上限を延長)
(5)就労延長と受給開始時期の選択肢の拡大(受給開始時期の繰り下げを選択すると給付水準がどれだけ上昇するか)
の5つがあります。
このいずれのオプションも理論上の仮定ですが、今回「経済成長と労働参加があれば」年金の一定額の安心は担保されると言っているわけですから、やみくもに「公的年金は安心できない」「保険料は払っても無駄」と極端に考える必要がないことがわかるでしょう。
今回、公開された財政年金は、いわば年金の健康診断ですが、今後この結果を元に年金は改正されるでしょう。年金だけでは暮らせないということから、年金への不信が募る気持ちはわかります。
ただ、公的年金を老後資金の柱から外すということはできません。今回のデータから、受給開始時期の選択という提案もされましたので、今後、老後の安心のためには、「長く働いて被用者保険に加入する」もしくは「受給開始年齢の繰り下げ」など、個人ができる指針も示されています。
今後の年金改正を見守りつつ、老後の安心のために「自分でもできる対策」を考えておきたいものです。
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。