更新日: 2019.08.06 その他年金

人生100年時代に備えるための年金繰り下げ

人生100年時代に備えるための年金繰り下げ
年金の受け取り額を増やせる制度として「繰り下げ」が注目されています。人生100年時代と言われるなか、年金額を少しでも多く受け取りたいと思うのは誰でも同じ。
 
しかし、早く死んでしまったら損になるからと、躊躇する人が多いようです。判断のポイントは本当にそこでしょうか?
 
蟹山淳子

執筆者:蟹山淳子(かにやま・じゅんこ)

CFP(R)認定者

宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー
蟹山FPオフィス代表
大学卒業後、銀行勤務を経て専業主婦となり、二世帯住宅で夫の両親と同居、2人の子どもを育てる。1997年夫と死別、シングルマザーとなる。以後、自身の資産管理、義父の認知症介護、相続など、自分でプランを立てながら対応。2004年CFP取得。2011年慶應義塾大学経済学部(通信過程)卒業。2015年、日本FP協会「くらしとお金のFP相談室」相談員。2016年日本FP協会、広報センタースタッフ。子どもの受験は幼稚園から大学まですべて経験。3回の介護と3回の相続を経験。その他、宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー等の資格も保有。

おさえておきたい「繰り下げ」の基本

「繰り下げ」とは、年金をもらい始める時期を遅くする制度です。メリットとして、繰り下げた期間に応じて、受け取り額を増やすことができます。
 
65歳以前に受け取る特別支給の厚生年金を繰り下げることはできません。繰り下げの対象となるのは、65歳以降に受け取る老齢基礎年金と老齢厚生年金です。両方でも、どちらか片方だけ繰り下げることもできます。
 
繰り下げの期間は1か月単位で選択でき、70歳まで、最高5年間繰り下げることができます。受給開始を1か月遅らせるごとに受け取り額の0.7%が増額されるので、5年間繰り下げると42%増えます。
 
つまり、年200万円の老齢年金を受け取れる人が5年間繰り下げて70歳から年金を受給開始すると年284万円となり、月額で7万円多く受け取れることになります。
 
ただし、5年間繰り下げるには、70歳まで年金を受け取らなくても生活していけるだけ、資金の余裕が必要です。つまり、繰り下げ期間によって違うものの、相応の蓄えがないと選択することはできない、とも言えます。
 
ちなみに、「繰り下げ」と反対の「繰り上げ」の制度もあります。65歳から受け取る年金を最高5年間繰り上げて、60歳から受け取ることができます。ただし、受給開始を1か月早めるごとに0.5%減額されます。5年間繰り上げれば30%減り、その金額が一生続きます。
 

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「繰り下げ」はトクか損か考えてみる

もし、年金を5年間繰り下げて、貰える年金額が1.42倍になっても、受け取り始めてすぐに死んでしまったら、結局少ししかもらえないので損、とも考えられます。
 
例えば、65歳から年額200万円の年金をもらえる人が、5年間繰り下げて70歳から284万円の年金を受け取り始め、75歳で死んでしまったら、受け取り総額は1420万円になります。「65歳から受け取っていれば2000万円受け取れていたのに損をした」と考えてしまいますね。
 
しかし、65歳から年額200万円の年金を貰える人が5年間繰り下げて90歳まで生きれば、貰える年金は20年間で総額5680万円、繰り下げていなければ総額5000万円ですから、繰り下げておいた方がずっとおトクということになります。
 
いろいろ考えた結果、自分が何歳まで生きるかなんて誰にも分らないので、損をしないように繰り下げないでおこうという結論に達する人が多いようです。
 

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「長生き」もリスクの一つ

ただ、長生きを前提として繰り下げを選択したのに、思ったより自分の人生が短かったとしても、老後資金が足りなくなって困る可能性は低いでしょう。
 
一方、思ったよりずっと長生きしてしまった場合には、予想以上の老後資金が必要となり、蓄えが枯渇してしまうことも考えられます。そのとき、終身で受け取れる年金を毎月いくら受け取れるかは大きな問題です。
 
大事なのは、長生きしても安心して暮らしていける老後資金プランを考えること。どちらの受け取り方をしていたら、総額でいくらおトクだったと考えることに、あまり大きな意味はないのではないでしょうか。
 

まとめ

年金の「繰り下げ」をするかどうかは、年金以外の資産も含めたキャッシュフローを検討したうえで、決断しなければなりません。
 
大切なのは、何歳まで生きるとしても安心して生活できる老後資金プランを考えることです。100歳まで長生きしたときの対策として、年金の繰り下げを検討してはいかがでしょうか。
 
ただし、より現実的なプランを考えるには税や社会保険料の負担も考慮に入れなければなりません。繰り下げで実際いくら受給額が増えるかは、その人によって違うことに留意が必要です。
 
※2019/08/06 タイトルを修正させていただきました
 
執筆者:蟹山淳子
CFP(R)認定者
 

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