遺族年金「5年で打ち切り」の改悪案が成立!「年収600万円」の夫は保険料をいくら“払い損”になる? 従来との受給額をシミュレーション

配信日: 2025.06.19

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遺族年金「5年で打ち切り」の改悪案が成立!「年収600万円」の夫は保険料をいくら“払い損”になる? 従来との受給額をシミュレーション
遺族年金は、一家の家計を支えていた人が亡くなった際、配偶者などに支給され、その後の生活の糧となるものです。しかし、この遺族年金に関して「改悪で支給が5年で打ち切り」という話題がSNSで拡散しました。
 
実際に、この見直しを含めた年金関連法案は国会に提出され、6月13日に成立しました。そのため、遺族年金が減ることを心配する人も多いでしょう。
 
本記事では、年収600万円の夫が、20年間会社で働いて亡くなった場合、妻が受給できる遺族年金は、従来と比べてどうなるのか試算します。さらに見直しの時期や留意点なども紹介しますので、参考にしてください。
桂ひろし

遺族年金の何が見直されるのか

遺族年金とは、年金に加入していた人が亡くなったときに、その人が生計を維持していた遺族に支給される年金です。また、遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があり、受給内容や要件などに違いがあります。
 
このうち、今回の見直し対象は、厚生年金に加入している人が受け取れる「遺族厚生年金」です。受給額は加入期間や報酬で計算する報酬比例部分の4分の3で、年齢によっては無期限で受給できる特徴があります。
 

今回の見直しのポイントは

今回の見直しのポイントは、大きく分けると「年齢による給付期間の変更」と「男女間格差解消」の2つです。図表1のとおり、これまでは30歳以上で夫を亡くした妻は、遺族厚生年金を無期限で受給可能でした。
 
しかし、見直し後は、残された妻に子どもがいない場合、この年齢が60歳以上に引き上げられ、60歳未満の場合は5年間しか支給されません。
 
図表1

図表1

※いずれも子どものいない場合(18歳になった年度末までの子ども、もしくは障害がある場合は20歳未満)
厚生労働省 遺族厚生年金の見直しについて
 
また、これまでは妻と死別した夫は、55歳以上しか給付の対象にならないなど、妻の要件とは差がありましたが、この点は見直しにより男女共通化されています。
 

年収600万円の夫が亡くなった場合、妻の遺族厚生年金受給額はどう変わる

それでは、年収600万円の夫に先立たれた妻に関して、制度見直しによって受給額にどれぐらい差が出るのか、試算してみます。前提として、亡くなった夫は22歳から働き、20年間厚生年金保険料を支払い、給付を受ける妻は、同い年で子どもはいないと仮定します。
 
まず、報酬比例部分を「平均標準報酬額×5.481÷1000×加入月数」の計算式で試算してみましょう。
 
平均標準報酬額は年収600万円のため月50万円、加入月数は20年で240ヶ月とすれば、報酬比例部分は「50万円×5.481÷1000×240ヶ月=約65万7000円」と想定可能です。遺族厚生年金はその4分の3であるため、約65万7000円×4分の3=約49万2000円となります。
 
さらに、65歳までは中高齢寡婦加算として年62万3800万円の給付があるため、受給年額は約111万5800円です。そのため、受給総額は42歳から65歳までの23年間で23年×約111万5800円=約2566万3400円におよびます。
 
一方、見直し後は、給付額は従来の1.3倍になりますが、給付期間は5年のみで、中高齢寡婦加算も最終的には廃止されます。そのため、受給総額は約49万2000円×5年×1.3=約319万8000円のみです。
 
65歳以降の影響は妻の老齢厚生年金額でも変わり、見直し後の死亡分割による増額もあるため試算を控えますが、65歳までに限定しても、2000万円以上受給額に差が出るかもしれません。
 
また、夫が負担した厚生年金保険料総額は、平均標準報酬額50万円で月4万5750円、20年で4万5750円×240月=1098万円と想定できます。つまり、見直し完了後は、支払った保険料の3分の1程度しか受給できないかもしれません。
 

例外的な措置や、見直し完了時期には注意が必要

制度の見直しで遺族厚生年金の受給総額が大きく減り、悲観的に捉える人も多いでしょう。ただし、この制度の施行は2028年4月で、例外的な措置がある上、段階的に見直しが行われ、見直し完了はさらに25年後となることには注意が必要です。
 
実は、収入が十分ではないなど配慮が必要な人には、5年目以降も最長で65歳まで給付が継続されます。具体的には、単身の場合で収入が月10万円以下の人は、全額の継続受給が可能です。
 
また、制度変更直後の2028年度末時点では、有期給付の対象となる人は子どものいない40歳未満の女性のみです。そのため、当初の有期給付対象者はかなり少ないと想定されます。
 

まとめ

遺族厚生年金の見直しを含む年金制度改革の関連法案は、6月13日に成立しました。
 
これにより、夫を亡くした子どものいない妻の場合、将来的には、受給額が従来よりもかなり少なくなる可能性があります。また、今回の試算から見ても、支払った厚生年金保険料に比べ、かなり少ない金額しか受給できない遺族も多くなるでしょう。
 
ただし、収入が低い遺族への配慮措置がある上、見直し完了は施行から25年後です。さらに、この見直しは、夫が働く前提の現行制度から、女性の就業、共働き世帯の増加などを踏まえたものでもあります。
 
まずは見直しの内容を把握し、自身の状況などに照らして、どんな影響があるのか考えてみてはいかがでしょうか。
 

出典

日本年金機構 は行 報酬比例部分
厚生労働省 遺族厚生年金の見直しについて
日本年金機構 令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和7年度版)
 
執筆者 : 松尾知真
FP2級

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