年収800万円の夫を亡くし「遺族年金」を受け取る姉。「あまりもらっていないよ」とのことだけど、高収入でも年金額は少ないのでしょうか? 受給額をシミュレーション
配信日: 2025.06.15

一般的に収入が多ければ支給額も増えるため、身内など収入を知っているような間柄であれば、「きっと遺族年金もたくさんもらえて心配ないだろう」と想像することもあるのではないでしょうか。
しかし、亡くなった夫が高収入だった場合でも、実際の遺族年金受給額は、意外に少ないことも多いようです。本記事では、すでに子どもが成人し、年収800万円だった夫に55歳で先立たれた妻が、どれくらい遺族年金を受給できるのか試算しますので、参考にしてください。
遺族年金とは、どのような年金なのか
遺族年金とは、国民年金や厚生年金に加入していた人が亡くなった際、その人に生計を維持されていた遺族が受給可能な年金です。また、遺族年金には図表1のとおり「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2つがあり、支給される遺族の優先順位や受給要件に大きな違いがあります。
図表1
※1 「子のある配偶者」が遺族年金を受け取っている間は、「子」に遺族年金は至急されません。
※2 30歳未満の子のない妻は、5年間の有期給付となります。一定の条件を満たす妻には中高齢の寡婦加算があります。
日本年金機構 遺族年金ガイド
まず、遺族基礎年金は定額で、妻が1956年4月2日以降生まれであれば、令和7年度の年金額は「83万1700円+子の加算額」です。
子の加算額は1人目および2人目の子の加算額が各23万9300円、3人目以降は各7万9800円になります。ただし、18歳到達年度の末日までの子どもか、その子どものいる配偶者が受給対象者となり、それ以外の人は受給できない点に注意が必要です。
次に、会社員のように厚生年金に加入している人が亡くなった場合は「遺族厚生年金」を受け取れます。受給額は、亡くなった人の厚生年金加入期間や報酬で計算される「報酬比例部分」の4分の3となり、遺族が妻である場合は、一定の要件のもと「中高齢寡婦加算」も受給可能です。
ただし、自営業者のように、国民年金にしか加入していない場合、遺族厚生年金は受け取れません。
年収800万円の夫が亡くなった妻が受け取る遺族年金は?
年収800万円だった夫が55歳で亡くなると、子どもが独立している妻は、実際にどれくらいの遺族年金を受給できるのか試算してみます。まず、遺族基礎年金に関しては、子どもがすでに独立しているため、受給できません。
次に、遺族厚生年金の積算基礎となる、夫の報酬比例部分を算出してみましょう。前提として、年収800万円で、22歳から亡くなった55歳までの33年間会社で働いたと仮定します。
報酬比例部分の計算式は時期によって変わりますが、シンプルに2003年4月以降の「平均標準報酬額×5.481÷1000×加入月数」を用います。すると、平均標準報酬額は年収800万円÷12=約66万6000円、加入月数は33年×12ヶ月=396ヶ月となるため、報酬比例部分の金額は「約66万6000円×5.481÷1000×392ヶ月=約143万円」です。
遺族厚生年金はこの報酬比例部分の4分の3となるため、これだけなら金額は約107万円です。ただし、夫を亡くした妻が40歳から65歳未満で子どもが独立している場合、「中高齢寡婦加算」により年額62万3800円が加算されます。そのため、遺族厚生年金受給額は約170万円となりますが、それでも月15万円におよびません。
つまり、亡くなる前の夫の年収と比べると、約5分の1程度です。そのため、受給者である遺族が「あまりもらっていない」と言いたくなるのも無理はないかもしれません。
遺族厚生年金は見直される予定
実は遺族厚生年金には見直しの動きがあり、実際に検討が進められています。現在の制度では、30歳以上の妻は遺族厚生年金を終身受け取れますが、これを段階的に有期給付にしていく方針です。
また、夫が遺族厚生年金を受け取る場合、55歳以上に限定されるなど、受給要件の男女格差についても、中高齢寡婦加算の廃止も含めて、是正する方向で検討がなされています。
ただし、制度変更は遺族の生活に大きな影響があるため、60歳以上の高齢期や、子どものいる配偶者が対象になるものについては、制度が維持される方針です。制度の適用も今すぐではなく、2028年度から段階的に実施されるという報道もあります。いずれにしても、万一の際は生活に直結するため、改正の行方について関心を持っておくことも大切です。
まとめ
会社員である夫のように、厚生年金にも加入している人が亡くなった場合、その配偶者は、遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給できる可能性があります。ただし、子どもが独立していると遺族基礎年金は受給できず、夫の生前と比べると、一気に収入が減ることは避けられません。
遺族となった人から遺族年金の受給額を聞くと、意外に少ないことに驚くかもしれません。遺族厚生年金は、制度の改正も予定されています。万一の場合に備え、どのような改正になるのか、注視してみてはいかがでしょうか。
出典
日本年金機構 遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)
日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
執筆者:松尾知真
FP2級