年金の支給額が同じ「月20万円」でも「住む場所」によって「手取り額」が変わる?これって本当でしょうか?
配信日: 2025.06.09

本記事では、手取り額に違いが生じる理由を解説します。

CFP(日本FP協会認定会員)
1級FP技能士(資産設計提案業務)
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未来が見えるね研究所 代表
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人生100年時代、これまでの「学校で出て社会人になり家庭や家を持って定年そして老後」という単線的な考え方がなくなっていき、これからは多様な選択肢がある中で自分のやりたい人生を生涯通じてどう実現させていくかがますます大事になってきます。
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口座に振り込まれる年金は手取り額
老齢年金は、偶数月に2ヶ月分がまとめて振り込まれます。このとき振り込まれる金額は、年金額から税金や社会保険料が天引きされた「手取り額」となります。そのため、年金定期便などで受け取る年金額を確認していた人などは、実際に受け取った金額を見たときに、「思っていたよりも少ない」と感じることもあるようです。
年金額から天引きされるもの
年金額からは、大きく分けると税金と社会保険料が天引きされます。それぞれ次のようなものが天引きされます。
■税金
・所得税
・個人住民税
■社会保険料
・国民健康保険料(75歳未満)
・後期高齢者保険料(75歳以上)
・介護保険料
住む場所によって手取り額に違いを生じさせるもの
年金額が同じでも手取り額に差が生じるのは、天引きされる際に、住む場所によって天引き額に差が生じる可能性があるためです。
差が生じるのは、住んでいる場所の自治体ごとに金額が決まる個人住民税と社会保険料(国民健康保険料、後期高齢者保険料、介護保険料)です。なお、所得税は国税であるため、住んでいる場所によって税額に違いが生じることはありません。
個人住民税の違い
住民税は原則として、税率や算出方法に自治体ごとの差はなく、所得や扶養などが同じ条件であれば、住んでいる場所による大きな違いはそれほど生じません。
個人住民税は均等割、所得割、森林環境税の合計となり、各標準税率(年額)は図表1のようになっています。
図表1
均等割 | 市町村民税 | 3000円 |
道府県民税 | 1000円 | |
所得割 | 市町村民税 | 6%※ |
道府県民税 | 4%※ | |
森林環境税 | 国税 | 1000円 |
※指定都市の場合、市町村民税8%、道府県民税2%
出典:総務省「個人住民税」より筆者作成
ただし標準税率といっても、国税である森林環境税以外は、自治体によって税率が異なる場合があります。例えば神奈川県横浜市の場合、均等割および所得割は図表2のようになっています。
図表2
横浜市の税率(令和6年度)
均等割 | 市町村民税 | 3900円 |
道府県民税 | 1300円 | |
所得割 | 市町村民税 | 8%※ |
道府県民税 | 2.025%※ |
※横浜市は指定都市に該当
出典:横浜市「個人の市民税・県民税について」より筆者作成
社会保険料の違い
住んでいる場所によって手取りの年金額に差が生じる場合、社会保険料の違いによる影響が大きいかもしれません。社会保険料は、自治体ごとに基準額や保険料率などが異なります。
例えば、国民健康保険料は自治体ごとに保険料水準に地域差があるといわれており、厚生労働省が平成29年に行った「市町村国民健康保険における保険料の地域差分析」によれば、図表3のような結果が報告されています。
図表3
出典 厚生労働省「平成29年度 市町村国民健康保険における 保険料の地域差分析」
標準化指数とは、平均所得者の保険料水準を示す指標のことです。このときの地域差を確認すると、最も保険料(年額)の高い地域は北海道天塩町で19万870円、最も低い地域は東京都御蔵島村で5万6234円となっています。その差は13万4636円となり、月に換算すると1万円以上の差があります。
年金収入が月20万円の場合の国民健康保険料の違い
国民健康保険料は、以下の保険料の合算となります。
・医療分保険料
・後期高齢者支援分保険料
・介護分保険料(40歳以上65歳未満の人が対象)
それぞれの保険料を算出するときに使われるのが、所得割、均等割、平等割の3つで、保険料はそれらを合算した額となります。ただし、平等割を採用しているのは一部の自治体のみです。
図表4
所得割 | 収入に応じて算出する金額。高収入であればあるほど高額になる。 |
均等割 | 世帯あたりの加入者の人数に応じて算出される。 |
平等割 | 国民健康保険に加入する全世帯が一定額を等しく負担する。 |
筆者作成
ここで横浜市と大阪市を例にして、収入が年金収入月20万円のみの65歳単身者の場合に、国民健康保険料にどのくらいの差が生じるのかを試算してみます。
横浜市と大阪市の自治体ホームページからは、国民健康保険料を試算することができる試算表(Excelファイル)をダウンロードすることができます。その試算表による試算結果は、図表5のようになりました。
図表5
自治体 | 国民健康保険料 (年額) |
国民健康保険料 (月額) |
---|---|---|
横浜市 | 15万170円 | 1万2515円 |
大阪市 | 19万6977円 | 1万6414円 |
※各自治体の試算表より筆者作成
出典
横浜市「令和7年度保険料の料率等について(保険料簡易試算表)」
大阪市「保険料の決め方(令和7年度年間保険料の試算シート)」
保険料計算において「平等割」は横浜市にはありませんが、大阪市にはあります。その差も保険料の違いに表れているようです。
まとめ
年金の手取り額は、住む場所(自治体)による住民税や社会保険料の違いによって差が生じることがあります。各自治体のホームページでは、保険料などの概算額や試算表などを確認することができますので、引っ越しなどを検討している人は確認してみるとよいでしょう。
出典
総務省 個人住民税
横浜市 個人の市民税・県民税について
厚生労働省 平成29年度 市町村国民健康保険における保険料の地域差分析
横浜市 令和7年度保険料の料率等について(保険料簡易試算表)
大阪市 保険料の決め方(令和7年度年間保険料の試算シート)
執筆者:小山英斗
CFP(日本FP協会認定会員)