更新日: 2020.04.06 その他年金
公的年金の「繰り下げ」、受給額が増えるメリットだけではない。4つの注意点
そんな「長生きリスク」ともいわれるような不確定さや不安への対策として、公的年金の「繰り下げ受給」の話題を、以前よりも多く見たり聞いたりする気がします。
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
公的年金の「繰り下げ受給」制度とは?
公的年金の繰り下げ受給制度ですが、その大まかな内容は、次のとおりです。
(あ)原則として65歳から受給する次の2つが対象。
老齢基礎年金(基礎部分の国民年金)
老齢厚生年金(報酬比例部分の厚生年金)
※生年月日によっては65歳以前から経過的に受給できる「特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)」は、繰り下げの対象にはならない。
(い)66歳から1ヶ月単位で、70歳まで繰り下げができる。
(う)繰り下げ1ヶ月当たり0.7%で、最大42%(60ヶ月=5年)まで増額。
(え)増額率は一生変わらない。
上限はありますが、この低金利時代に年8.4%(月0.7%×12ヶ月)で運用できるような仕組みです。
<試算>
・仮に老齢基礎年金満額(2018年度)の年額77万9300円を65歳から5年間繰り下げると、70歳からは年額110万6600円余(42%増加)となり約32.7万円/年が生涯増額されます。
・70歳まで5年間受給しなかった総額約390万円は上記の増額分により約12年(約82歳時点)で取り返すことができ、その後はおトクがずっと続く計算です。
日本人の平均余命は、65歳時点で【男性19.57年、女性24.43年】、70歳時点では【男性15.73年、女性20.03年】(厚生労働省「平成29年簡易生命表の概況」2018年7月20日公表 による)ですので、仮に5年間フルに繰り下げても、一定の合理性があるようにも思えます。
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メリット以外にも注意しておきたい点とは?
しかし、メリットばかりとは限りません。次のような点にも注意しておくべきでしょう。
(1)繰り下げ期間中に入金はない
・繰り下げによって支給される金額は増えるものの、繰り下げ期間中の生活費などの必要資金は、別に手当しなければなりません。
・企業年金、私的年金、資産運用、貯蓄取り崩し、そして何らかの形で働くなど、その間のおカネを確保できるアテがないと、繰り下げは現実的ではなくなります。
(2)繰り下げ期間中に「加給年金」は支給されない
・加給年金は、一定の条件を満たした場合に65歳到達時点(原則)で扶養している配偶者(65歳未満)または子(原則18歳以下)がいるときに加算される“家族手当”のようなものです。
・昭和18年4月2日以降生まれの場合、配偶者分で年額38万9800円(特別加算額16万5500円を含む)が加算支給されます(配偶者が65歳になるまでなので、年上の妻の場合は支給されません)。
・ただし、これは老齢厚生年金に加算されるものなので、老齢厚生年金の受給を繰り下げしてしまうと支給されません。妻が5歳以上年下の場合、不支給総額は約195万円にもなります。
(3)増えた年金額は丸々手取りの増額とはならない
・年金にも税金がかかります。公的年金等の控除額はありますが、所得税(及び復興特別所得税)や住民税が課税され国民健康保険料(後期高齢者医療制度支援金を含む)や介護保険料の負担もあります。
・年金額が増えればその分だけこれらの課税や負担が増えますので、増額した年金額が丸々手取りの増額となるわけではありません。
(4)老齢基礎年金と老齢厚生年金で異なる選択ができる。夫婦で異なる選択をすることも可能
・例えば【老齢厚生年金は65歳から受給して加給年金も受給し、老齢基礎年金だけ繰り下げする】ことで(2)の問題は対処でき(1)の必要資金問題も一部は手当できることになります。
・妻の年金が老齢基礎年金だけとしても夫婦合算では3つの公的年金があり、それぞれについて【繰り下げをする/しない】、【繰り下げをする場合、いつまで繰り下げるのか】の選択肢があるのですから、いろいろな対応のバリエーションが検討できるのです。
まとめ
以上のように、公的年金の繰り下げをするかどうかは、【本人と妻の年齢差がいくつあるのか】【公的年金不支給期間中の必要資金を確保する手だてがあるのかどうか】などの変数によって、とても個別性の強い問題だといえます。
(年金ごとに)繰り下げをする/しない、繰り下げをする場合、いつまで繰り下げるのか? などの判断については、個別のデータをベースに、年金事務所や専門家などに充分に事前相談や確認をするなどして、慎重に決めるべきでしょう。
出典:厚生労働省 平成 29 年簡易生命表の概況
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士