更新日: 2023.03.23 その他年金

夫の死後、妻は「遺族年金」を受け取れる? 夫が「自営業」の場合と「会社員」の場合で解説

夫の死後、妻は「遺族年金」を受け取れる? 夫が「自営業」の場合と「会社員」の場合で解説
夫婦のどちらかが亡くなったとき、要件を満たせば残された配偶者には遺族年金が支給されます。その遺族年金、被保険者が自営業か会社員かによって、年金制度や受け取れる金額が異なることはご存じですか。
 
本記事では、夫が自営業の場合と会社員の場合に分け、妻が受給できる遺族年金について解説します。

執筆者:橋本華加()

夫が自営業の場合

夫が自営業だった場合の遺族給付には、「遺族基礎年金」と「寡婦年金」、「死亡一時金」があります。それぞれ、見ていきましょう。
 

遺族基礎年金

「遺族基礎年金」は、死亡した人が以下のいずれかを満たしている場合に遺族に支給されます。

・国民保険の被保険者であるときに死亡
・国民保険の被保険者かつ60歳以上65歳未満の人で、日本に住んでいた人が死亡
・老齢基礎年金の受給権者であった人が死亡
・老齢基礎年金の受給資格を満たしている人が死亡

遺族基礎年金の受給対象者は、死亡した人に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」です。この場合の「子」とは、18歳になる年度の3月31日を経過していない子、または障害年金の1級または2級の状態にある20歳未満の子を指します。
 
つまり、上記に該当する子がいれば妻は遺族基礎年金を受け取れますが、子がいない場合は遺族基礎年金は受け取れないのです。
 
遺族基礎年金の年金額は、2022年4月から以下のとおりになっています。

・子のある配偶者が受け取る場合は、77万7800円+子の加算額
・子が受け取る場合は、77万7800円+2人目以降の子の加算額

なお、1人目と2人目の子の加算額はそれぞれ22万3800円、3人目以降の子の加算額は7万4600円です。
 
以上、遺族基礎年金を受け取れるのは、一定年齢以下の子のある配偶者に限られていることを確認しました。「うちは子どもがいないから、受け取れないの?」と思った人もいるかもしれませんが、「寡婦年金」と「死亡一時金」は受け取れる可能性があります。次から見ていきましょう。
 

寡婦年金

「寡婦年金」とは、生計を維持していた夫が亡くなった場合、妻が60歳から65歳になるまでの間支給される年金です。受給要件は以下のとおりです。

・死亡した日の前日において夫が国民年金の第1号被保険者だった
・夫が保険料を納めた期間と保険料の納付を免除された期間が10年以上ある
・妻と死亡した夫との婚姻関係が10年以上継続している(事実上の婚姻関係も含む)
・夫が老齢基礎年金や障害基礎年金を受け取っていない
・妻が老齢基礎年金の繰上げ受給をしていない

支給額は、夫の第1号被保険者期間で計算した老齢基礎年金の4分の3の額になります。
 

死亡一時金

「死亡一時金」は、亡くなった人に生計を維持されていた遺族が受け取れる一時金です。配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順に、優先順位の高い人に支給されます。受給要件は以下のとおりです。

・亡くなった人が第1号被保険者として保険料を納付した期間が36ヶ月以上ある
・老齢基礎年金や障害基礎年金を受け取らずに亡くなっている
・遺族が遺族基礎年金の受給要件を満たしていない

死亡一時金は、保険料を納付した月数に応じて12万円から32万円になります。また、付加保険料を36ヶ月以上納めている場合は8500円が加算されます。死亡一時金を受け取る権利は、死亡した日の翌日から2年間有効です。
 
なお、寡婦年金と死亡一時金はいずれか一方しか受け取れず、選択することになります。
 

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夫が会社員の場合

夫が会社員だった場合には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」、「中高齢寡婦加算」、「経過的寡婦加算」が支給されます。遺族基礎年金は先述したとおりなので、遺族厚生年金から説明します。
 

遺族厚生年金

「遺族厚生年金」は、亡くなった人が以下のいずれかの要件を満たしている場合に遺族に支給されます。

・亡くなったときに厚生年金保険の被保険者だった
・厚生年金保険の被保険者だった期間に病気やけがの初診を受け、初診日から5年以内に亡くなった
・1級または2級の障害厚生年金を受け取っているときに亡くなった
・老齢厚生年金の受給権者が亡くなった
・老齢厚生年金の受給資格を満たしている人が亡くなった

遺族厚生年金の受給対象者は、図表1のように優先順位の最も高い人が受け取れます。
 
【図表1】


 
日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
 
この場合の子および孫は、18歳になる年度の3月31日を経過していない子・孫、もしくは障害年金の障害等級が1級または2級の状態にある20歳未満の子・孫を指します。また、夫や父母、祖父母の年齢は死亡当時に55歳以上である人に限ります。
 
夫や父母、祖父母の受給開始は60歳以降になりますが、遺族基礎年金を受給できる夫に限り、55歳から60歳の間でも遺族厚生年金を受給できます。また、妻が30歳未満で子がいない場合の受給は5年間のみです。
 
遺族厚生年金の受給額は、亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の金額です。報酬比例部分は、年金の加入期間や過去の報酬などによって計算されます。なお、厚生年金の加入期間が300ヶ月(25年)未満の場合は300ヶ月とみなして計算します。
 

中高齢寡婦加算

残された妻が40歳から65歳になるまでの間に受け取れる遺族厚生年金に、年額58万3400円加算されるのが「中高齢寡婦加算」です。妻が以下のいずれかに該当している場合に限ります。また、亡くなった夫の厚生年金被保険者期間は20年以上が必要です。

・夫が亡くなったとき、40歳以上65歳未満で、生計を共にしている子がいない(※1)
 
・遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていたが、子の年齢が受給資格に該当しなくなったため遺族基礎年金を受給できなくなった

(※1)この場合の子は、18歳到達年度の3月31日を経過していない、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子を指します。
 

経過的寡婦加算

「経過的寡婦加算」とは、中高齢寡婦加算の打ち切りによって年金が減る分を補うための制度です。遺族厚生年金を受給している妻が65歳になり自身の老齢基礎年金を受けるようになったとき、65歳までの中高齢寡婦加算の代わりとして支給されます(1956年4月1日以前に生まれた妻に限ります)。
 

まとめ


 
夫が亡くなった場合に受給できる遺族年金について、自営業の場合と会社員の場合とに分けて説明してきました。
 
遺族をサポートするための制度ですが、受給要件や受給対象者などそれぞれ異なるため複雑に感じた人もいるのではないでしょうか。万が一のときのために、自身の場合はどのような遺族給付が該当するのか調べておくとよいでしょう。
 

出典

日本年金機構 遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)
日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
日本年金機構 か行 経過的寡婦加算
日本年金機構 寡婦年金
日本年金機構 死亡一時金
 
執筆者:田邉史
二級ファイナンシャルプランニング技能士

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