年金だけで支払える?(1)老後の医療費はどれくらいかかる?
配信日: 2021.05.21
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。
広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
まずは老後に受け取れる公的年金の額を確認
日本年金機構によれば、令和2年度における公的年金の月額は国民年金が満額で約6万5000円、つまり夫婦2人合わせても13万円程度です。
対して厚生年金は、収入に比例して変化します。ここでは分かりやすくするため、平均的な収入(賞与含む月額換算43.9万円)で40年間就業した夫と専業主婦の妻で仮定します。この場合は日本年金機構の試算によると、夫婦合わせて年金額は月額約22万円(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金満額)となっています。
国民年金は約13万円、厚生年金は約22万円、これを老後の基本の収入金額として話を進めていきます。
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1人当たりの平均的な医療費の額は?
厚生労働省が推計した1人当たりの生涯医療費は約2700万円であり、そのうち65歳以降にかかる医療費が約1580万円と、人生でかかる医療費全体の実に58%ほどが老後に必要となるのです(平成30年度のデータによる)。
また、日本人の平均寿命はおおよそ84歳程度です。65歳から84歳までにかかる医療費は約1098万円と推計されています。つまり、老後の年金生活から平均寿命を迎えるまでの間、1人当たり1000万円以上の医療費が必要となることが分かります。
老後の医療費は年金だけで払えるか
結論から述べると、老後の医療費を年金だけで払うこと自体は可能です。しかし、それは生活費を貯蓄や副収入などから捻出できる場合に限ります。生活費から医療費まで全てを公的年金の収入だけで賄うことは困難です。
この結論を基に、夫婦2人の医療費について国民年金の場合と厚生年金の場合とで比較して見ていきます。
国民年金の場合
国民年金を夫婦が満額で受け取った場合は、月額で約13万円、1年間で約156万円です。65歳から84歳までの19年間で受け取れる年金の総額は、約2964万円となります。
その間の医療費を夫婦2人分で約2196万円(1人当たり約1098万円)とした場合、医療費だけであればなんとか年金のみで払っていくことができそうです。
しかし、老後に夫婦2人が生活するには1ヶ月に22万円程度が最低限必要といわれています(公益財団法人 生命保険文化センターの令和元年度「生活保障に関する調査」による)。そう考えると、国民年金のみでは生活費も含めた全てを賄うことはできなさそうです。
厚生年金の場合
続いて、厚生年金について見ていきましょう。厚生年金は平均的な収入の夫と専業主婦の妻という構成の家庭においては、月額22万円程の金額となることは先ほど確認しました。
これは夫婦2人が生活していくのに最低限必要な費用と同程度であり、大きなけがや病気がなく、生活していくだけであればなんとかなりそうです。
しかし、老後はけがや病気をしやすく、いつ突発的に多額の医療費が必要となるか分かりません。そう考えると厚生年金に加入していても、その年金だけで医療費まで支払っていくのは難しそうです。
公的年金だけで医療費まで賄うのは難しい
老後にかかる医療費を公的年金のみで賄うというのは非常に困難です。平均寿命まで生きると仮定し、ある程度安心して老後を過ごすのであれば、現役世代のうちから生活費とは別に保険や貯蓄などで医療費分について準備をしておかなければなりません。
さらに、年齢を重ねるごとに介護が必要となることもあります。次回「年金だけで支払える?(2)~老後の介護費はどれくらいかかる?」についても一読いただき、老後と年金について考えてみてください。
出典
日本年金機構 令和2年4月分からの年金額等について
厚生労働省 生涯医療費(平成30年度)
公益財団法人 生命保険文化センター 日本人の平均寿命はどれくらい?
公益財団法人 生命保険文化センター 令和元年度「生活保障に関する調査」(令和元年12月発行)
執筆者:柘植輝
行政書士