更新日: 2021.05.17 その他年金
年金繰下げの損得はどう判断したらよいか その5 まとめ
その基準として、損益分岐点の考え方があります。損益分岐点の年齢とは、通常どおり65歳から割り増しなしの年金を受け取った場合と繰下げ受給をして割り増しの年金を受け取った場合を比較して、累計の年金額が同一になる年齢をいいます。
損益分岐点の年齢より長生きをすれば、もらえる年金は通常の場合より多くなるので繰下げ受給をした方が得という考え方です。
損益分岐点の年齢と日本人の平均寿命を比較して、平均寿命より損益分岐点の年齢が低ければ得、高ければ損という考え方です。最後にこの考え方は正しいのかについて検討してみましょう。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
早稲田大学卒業後、大手メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超える。その後、保険代理店に勤め、ファイナンシャル・プランナーの資格を取得。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表、駒沢女子大学特別招聘講師。CFP資格認定者。証券外務員第一種。FPとして種々の相談業務を行うとともに、いくつかのセミナー、講演を行う。
趣味は、映画鑑賞、サッカー、旅行。映画鑑賞のジャンルは何でもありで、最近はアクションもの、推理ものに熱中している。
年金繰下げの損得を平均寿命と関連付ける意味はあるか?
インターネットや新聞記事で行われている、年金繰下げの損得を日本人の平均寿命と関連付けた議論は次のとおりです。
日本人の平均寿命は男性で81.41歳、女性で87.45歳(2019年時点のもの)、一方、65歳から70歳まで年金を繰り下げた場合の損益分岐点の年齢は81.9歳です。この考え方によれば、男性の場合は損得無し、女性の場合は繰り下げた方が得ということになります。
この考え方は、今、この記事を読んでいる皆さま全てに当てはまるものなのでしょうか?
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マクロの議論とミクロの議論を区別する必要性
マクロの議論とは、日本人の平均寿命を基準に年金繰下げが有利か否か検討しようとするものです。これに対しミクロの議論は、今記事を読まれている皆さまそれぞれの寿命がいくつかということを基準に年金の繰り下げが有利か不利かを判断しようとするものです。
年金の予算を管理する政府にとっては、マクロの議論が有効です。国民が年金繰下げをした方が年金に関する出費が多くなるか否かについては、国民の平均寿命をベースに判断することができます。
もし、日本人の女性全員が70歳まで年金繰下げをしたら、その場合の損益分岐点の年齢は81.9歳なので、日本人の女性の平均寿命87.45歳と比較すると 日本政府は87.45歳から81.9歳の間の約5.5年間割り増しの年金を支払うことになるので、損をすることになります。
これが、予算管理をする政府の側から見たマクロの議論で、この方法は正しいということができます。
ところが、皆さま個人それぞれが損得を判断する場合には、平均寿命ではなく、自分自身の寿命を使う必要があります。
しかし、自分自身の寿命は誰にも分かりません。今、とても元気な方でも不幸にして明日亡くなってしまうこともありますし、重病で入院している方でも100歳を超えて長生きすることもあります。
すなわち、個人というミクロで見た場合、判断基準として平均寿命が使えないだけでなく、それに代わる指標もないのです。
ではどうすればよいか、自分の寿命は分からないのだから、個人の損得を考えるなら、もらえるものはなるべく早くもらっておくというのが合理的ということになります。すなわち、ミクロの観点からは年金繰下げはすべきではないという結論になります。
自分は何歳まで生きるか分からないが、現在老後資金は足りているので、長生きをした場合の資金を年金で確保したいから繰り下げをするという判断はあると思います。ただ、繰り下げた方が確実に得であるとはいえないということです。
自分の寿命が分からない以上、「長生きをしたときのために」とか、「早く死んでしまうかもしれないから」ということは、客観的に見て確実ではないので、どうしても賭け(ギャンブル)の要素が入ってしまいます。
FPは顧客の方々の金銭上の損得に関する助言をする職業なので、FPのアドバイスとしては「人間の寿命は分からないのだから、もらえるものは先にもらっておいた方が損をする確率が小さい」ということになります。
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー