更新日: 2020.05.02 その他年金

75歳からの繰下げ受給で年金84%増!? 本当にお得なの?

執筆者 : 吉野裕一

75歳からの繰下げ受給で年金84%増!? 本当にお得なの?
これまで70歳まで繰下げ受給ができていた年金制度。2022年4月からは、75歳までと受給開始年齢が拡大されました。繰り下げることで、最大84%も支給額が増額されるといいます。
 
人生100年時代といわれていますが、本当に84%はお得なのでしょうか。現在の統計データを見ながら考えてみたいと思います。
 
吉野裕一

執筆者:吉野裕一(よしの ゆういち)

夢実現プランナー

2級ファイナンシャルプランニング技能士/2級DCプランナー/住宅ローンアドバイザーなどの資格を保有し、相談される方が安心して過ごせるプランニングを行うための総括的な提案を行う
各種セミナーやコラムなど多数の実績があり、定評を受けている

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繰下げ受給の新制度

老齢年金の受給開始年齢は、現在65歳まで段階的に引き上げられています。
 
これまで65歳から70歳までの間で、1ヶ月単位で繰下げ受給ができていましたが、今回の改正では70歳までの期間が75歳までと拡大されました。
 
繰下げ受給をした場合、1ヶ月毎に0.7%ずつ受給額が増額されます。仮に、5年間繰り下げて70歳から受給開始する場合、増額率は、0.7×12×5=42%となります。
 
今後10年間繰り下げて75歳から受給する場合は、0.7×12×10=84%の増額となるという計算です。
 
令和2年の平均的な月収43.9万円(賞与含む)で40年間就業した場合を考えてみましょう。夫婦の年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金)の給付水準は、22万724円となっています。
 
これを70歳から受給する場合、加算額は22万724×42%≒9万2704円となり、合計では1ヶ月31万3428円が受給できることになります。
 
75歳まで受給開始を繰り下げると、22万724×84%≒18万5408円が加算され、合計で1ヶ月40万6132円が受給できることになります。
 

繰下げ受給前に亡くなった場合は?

繰下げ受給しようと思っても、「受給前に亡くなってしまった場合、年金を受け取れないのでは?」と思っている方もいるでしょう。
 
しかし、そんな場合でも、未払い年金を受け取ることのできる遺族が、それまでの未支給年金を一時金として受け取ることができます。
 
このようなケースでは、本人が65歳から亡くなるまでの間に受け取れるはずだった年金受給額を、遺族が一時金で受け取ります。ただ、この額は通常で受給できる額での計算となります。
 

繰下げ受給と平均余命で考えてみる

では、75歳から繰下げ受給を開始したときと、65歳から受給した場合では、どの時点でお得になってくるか確認してみたいと思います。毎年受給額が変わりますが、今回は目安として令和2年の受給額で計算しています。
 
65歳から満額受給した場合、令和2年の受給額では月額22万724円となります。厚生労働省が公表している65歳の平均余命の19年8ヶ月で考えると、生涯に渡って5209万864円を受け取ることになります。
 
計算式は、22万724円×(19×12+8)=5209万864円となります。
 
75歳まで受給開始を繰下げして、月額40万6132円を受け取るとします。75歳の平均余命は12年3ヶ月で、生涯では、5970万1404円を受け取れるという計算です。
 
計算式は、40万6132×(12×12+3)=5970万1404円です。
 
65歳から受給したケースでは、75歳からより全体の受給額が少なくなっていることが分かります。
 
では、65歳から受給して、75歳の平均余命と同じ87歳3ヶ月まで生存した場合を考えてみましょう。
22万724×(12×22+3)=5893万3308円を受け取ることができ、やはり、75歳から繰下げ受給をした方が得になると分かります。
 
逆に、75歳から繰下げ受給をし、65歳の平均余命まで生存した場合、40万6132×(12×9+8)=4711万1312円となり、65歳から受け取った場合より、500万円くらい少なくなってしまうことが分かります。
 
分岐点を考えてみると86歳11ヶ月です。受給額は、65歳から受け取った場合5805万412円、75歳から繰下げ受給をした場合5807万6876円となるからです。
 
ただ、厚生労働省が公表している平成30年簡易生命表で、男性の寿命中位数(出生数の半数が亡くなる年齢)が84.23歳とある点に注意が必要です。84.23歳からの生存率が5割を下回っていることになるからです。
 

まとめ

今後、平均寿命や平均余命も延びる可能性はあります。そのときの健康状態や生活費などを考えた上で、繰下げ受給をするのか否かを検討する必要があるでしょう。
 
[出典]
厚生労働省「令和2年度の年金額改定についてお知らせします」
厚生労働省「平成30年簡易生命表 2 寿命中位数等生命表上の生存状況」
 
執筆者:吉野裕一
夢実現プランナー


 

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