更新日: 2019.12.04 その他年金

老後資金2000万円問題。年金は本当に100年破綻しないのか?

老後資金2000万円問題。年金は本当に100年破綻しないのか?
老後資金2000万円問題が国会で審議されたとき、安倍晋三首相は「年金100年安心」と答弁しました。本当に年金は100年破綻しないのでしょうか? その答弁の根拠となったのが、マクロ経済スライドです。その仕組みを簡単に解説したいと思います。
 
浦上登

執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)

サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
 
早稲田大学卒業後、大手メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超える。その後、保険代理店に勤め、ファイナンシャル・プランナーの資格を取得。
 
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表、駒沢女子大学特別招聘講師。CFP資格認定者。証券外務員第一種。FPとして種々の相談業務を行うとともに、いくつかのセミナー、講演を行う。
 
趣味は、映画鑑賞、サッカー、旅行。映画鑑賞のジャンルは何でもありで、最近はアクションもの、推理ものに熱中している。

https://briansummer.wixsite.com/summerarrow

マクロ経済スライドとは?

マクロ経済スライドとは、厚生労働省のHPによると、「『社会全体の公的年金制度を支える力(現役世代の人数)の変化』と『平均余命の伸びに伴う給付費の増加』というマクロでみた給付と負担の変動に応じて、給付水準を自動的に調整する仕組み」と説明されています。
 
こう言われてもよく分からないかもしれませんが、現在の年金は賦課方式で世代間扶養ですから、お金を稼いでいる現役世代が、すでに引退した老齢世代に給付される年金を支える仕組みになっています。
 
現在の日本における問題は、少子高齢化により年金を支える現役世代が徐々に減少し、年金を支える資金が先細りになっていく一方で、支えられる立場の老齢世代が増加して年金給付額が増加しているのです。このアンバランスを解消しようとする仕組みが、マクロ経済スライドです。
 

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物価や賃金が上昇したときは?

本来、年金給付額は物価や賃金の上昇に伴って上がっていかなければなりません。ところがマクロ経済スライドの仕組みは、物価や賃金が上昇した場合でも、その上昇率の全てを年金の給付額に反映せず、一部を差し引いて、将来の年金給付額の原資とするものです。
 
式で表すと次のようになります。
 
年金給付額=前年の年金給付額×(物価または賃金の上昇率-マクロ経済スライドによる調整率)
 
マクロ経済スライドによる調整率=「公的年金全体の被保険者の減少率の実績」+「平均余命の伸びを勘案した一定率」
 
ですから、マクロ経済スライドは、物価・賃金の上昇率から、年金保険料を支払う現役世代の減少率と平均寿命の伸びに相当する比率を引くという仕組みということになります。
 

物価や賃金が下落したときは?

物価や賃金が下落したときは、実際の賃金の下落率に従い、年金給付額も減少します。この場合は、調整率を引くことまではしません。
 

まとめ

簡単に言えば、マクロ経済スライドは、物価または賃金の上昇分を全て年金の上昇に反映せず、それにより獲得した原資を使って、年金制度の延命を図るものです。具体的には100年後に年金給付費1年分の積立金を持つことができるように設計されています。ですから、「年金は100年安心」ということになります。
 
ただし、物価や賃金の上昇に従って、年金給付額は上昇せず、実質的に目減りすることになります。その減少率を何とか抑えるためには、現役世代の人口や労働参加人口の増加と経済成長率の上昇が必要です。
 
そう考えれば、現在政府の行っている年金に関する施策の理由がみえてきます。定年延長は、年金保険料の増収を意図したもので、最近報道されているパート厚生年金を従業員501人から50人超の企業へ拡大しようという動きも、それにより、厚生年金保険の被保険者を増やし、年金保険料の増収を図ろうというものです。
 
しかし、悪いことばかりではなく、経済成長による賃金の上昇や被保険者数の増加が実現すれば、マクロ経済スライドの調整期間が短縮され、将来的に年金給付額が増えることもあるというシナリオも2019年度の厚生労働省作成の「2019(令和元)年財政検証結果のポイント」に明記されています。
 
厚生労働省 いっしょに検証!公的年金 「マクロ経済スライドってなに?」
日本年金機構 マクロ経済スライド
厚生労働省「2019(令和元)年財政検証結果のポイント」
 
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー


 

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