更新日: 2019.09.06 その他年金

年金の繰り下げ、うっかり見逃しがちな4つの注意点

年金の繰り下げ、うっかり見逃しがちな4つの注意点
人生100年時代に備える対策として、年金の繰り下げを検討する人が増えています。しかし、繰り下げには知っておかないと損をするかもしれないデメリットもあります。繰り下げの決断をする前に、自分のケースはどうなのか、チェックしておきましょう。
 
蟹山淳子

執筆者:蟹山淳子(かにやま・じゅんこ)

CFP(R)認定者

宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー
蟹山FPオフィス代表
大学卒業後、銀行勤務を経て専業主婦となり、二世帯住宅で夫の両親と同居、2人の子どもを育てる。1997年夫と死別、シングルマザーとなる。以後、自身の資産管理、義父の認知症介護、相続など、自分でプランを立てながら対応。2004年CFP取得。2011年慶應義塾大学経済学部(通信過程)卒業。2015年、日本FP協会「くらしとお金のFP相談室」相談員。2016年日本FP協会、広報センタースタッフ。子どもの受験は幼稚園から大学まですべて経験。3回の介護と3回の相続を経験。その他、宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー等の資格も保有。

年金の「繰り下げ」とは

「繰り下げ」とは、年金をもらい始める時期を遅くする制度です。
 
対象となるのは65歳以降に受け取る老齢基礎年金と老齢厚生年金で、繰り下げた期間に応じて、受取額を増やすことができます(65歳より前から年金を受け取れる人は、65歳まではそのまま受け取り、65歳以降の年金を繰り下げることになります)。
 
年金の受給開始は、70歳まで最高5年間、1ヶ月単位で繰り下げることができます。受給開始を1ヶ月遅らせるごとに受給額は0.7%増額されるので、5年間繰り下げると42%増えます。
 
つまり、年200万円の年金を受け取れる人が5年間繰り下げて70歳から年金を受給開始すれば、受給額は年284万円となります。月7万円多く受け取れますから、長生きした場合には大変おトクな制度です。
 

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繰り下げの注意点1 ~繰り下げ期間は加給年金を受け取れない

加給年金とは年金の配偶者手当のような制度で、厚生年金に20年以上加入した夫が65歳になったとき、年下の妻がいれば、妻が65歳になるまで毎年約39万円が厚生年金に上乗せされます。
 
ところが、厚生年金を繰り下げている期間は加給年金を受け取れません。ですから、年下の妻がいる人は要注意です。
 
例えば、5歳年下の妻がいる人が、65歳から年金を受け取り始めれば、70歳までの5年間に合計約195万円の加給年金が加算されますが、70歳まで繰り下げてしまうと、この約195万円を受け取ることができません。
 
ただ、1歳年下の妻であれば受け取れないのは約39万円ですから、妻との年齢差によって失う金額は違ってきます。繰り下げによっていくら年金が増えるのか、いくら加給年金を受け取れなくなるのかを計算して検討しましょう。
 
ちなみに、繰り下げをしながら加給年金を受け取りたい場合は、厚生年金を65歳から受取り、基礎年金だけを繰り下げれば、繰り下げ効果は小さくなるものの、加給年金を受け取りながら、受給額を増やすこともできます。
 

繰り下げの注意点2 ~年金額が増えれば、税金や社会保険料も増える

年金を5年繰り下げれば、年金額は42%増えますが、これはあくまで「額面」の話。増額した金額も税や社会保険料の対象となりますから、「手取り」の増加は42%より少ないことが多いのです。
 
税金や社会保険料がいくら変わるかは、その人の年金額や住んでいる自治体によって違いますが、42%増えると思っていたのに、実際に多く受け取れたのは35%程度というケースもあるようです。
 

繰り下げの注意点3 ~遺族年金は増えない

年金受給者の夫が亡くなって妻が遺族厚生年金を受け取るとき、遺族年金の計算の基となるのは65歳で受け取り始める場合の年金額であって、繰り下げで増額された年金ではありません。
 
夫がいなくなった後の妻の生活の安定も考えて、年金繰り下げを検討する人も多いのですが、残念ながら遺族年金は増えません。
 
なお、夫が繰り下げ中に亡くなった場合には、65歳から受け取るはずの年金額で計算された待機期間中の年金を遺族が受け取ることができます。そのうえで妻は、夫の65歳時点の年金額で計算された遺族厚生年金を受け取ることができます。
 

繰り下げの注意点4 ~在職中で支給停止となる部分は繰り下げの対象とならない

65歳以降もしっかり働いて収入があり、支給停止となる年金額がある場合、繰り下げられるのは支給停止とならない部分だけです。
 
支給停止となるくらいなら、繰り下げて年金額を増やしたいと考える人は多いと思いますが、よく考えてみれば、支給停止になるはずの年金額まで増額の対象となったら不公平。誤解しやすいポイントなので気をつけましょう。
 

まとめ

ここまで4つの注意点を挙げました。年金を繰り下げても思ったほど受給額を増やせないケースもあります。
 
年下の妻がいるか、妻と何歳違うのか、受給額が増えたら税金や社会保険料がどのくらい変わるかなど、個人によって条件が違うので一概にはいえませんが、まずは自分の年金に興味を持ち、少しでも有利に受け取れる方法を検討してみてはいかがでしょうか?
 
執筆者:蟹山淳子
CFP(R)認定者


 

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