定年後に再雇用されたら、給与が「半分」になりました…… これは妥当なのでしょうか?

配信日: 2025.06.10

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定年後に再雇用されたら、給与が「半分」になりました…… これは妥当なのでしょうか?
「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の改正により、2025年4月から65歳までの雇用が完全義務化されました。これまでは65歳までの雇用確保が経過措置として努力義務とされていましたが、その期間が終了し、完全義務化されることとなりました。
 
なお、これを受け事業主に対しては、70歳までの高齢者に対する就業機会の確保が努力義務とされています。
 
本記事では、定年後の再雇用により給与が減額された場合、その妥当性について確認していきます。
高橋庸夫

ファイナンシャル・プランナー

住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。

高年齢労働者への雇用確保措置

今回、義務化された雇用確保措置は、事業主に以下のいずれかの措置を講じることを求めています。
 

(1)定年を引き上げ
(2)定年の廃止
(3)継続雇用制度の導入(希望する労働者を定年後も雇用する)

 
最もよくあるケースとしては、「(3)継続雇用制度の導入」により、定年後に「再雇用」する事例が考えられます。「再雇用」とは定年後に同じ会社で働き続けることですが、一般的には定年により一度退職して、再度同じ会社と雇用契約を結ぶ制度です。
 
退職することで、これまでの給与水準や役職、仕事の内容、雇用形態などが一度リセットされるため、再契約により給与が大幅に減少したり、正社員から嘱託社員などに雇用形態が変わったりすることもあり得ます。
 
また、継続雇用制度として「勤務延長制度」を採用する会社もあります。再雇用との違いは、一般的には「定年に到達した後も現状の雇用契約を延長し、同じ処遇のまま勤務を延長する」という点です。そのため、再雇用と比べると給与が大幅減となるリスクは少ない場合が多いといわれています。
 

再雇用後に給与が半分になったことの妥当性は?

さて、再雇用後にある労働者の給与が半分になった場合、それは妥当な判断なのでしょうか。結論をいえば、このような場合には「妥当性はあると判断される可能性が高い」とされています。
 
例えば、「定年後の給与は退職時に〇%以上とする」など、法律上の明確な基準はありません。そして、これまでの最高裁の判例などから見ると、給与を減額することは、合理的な理由や配慮が認められれば、適法と判断される可能性が高いとされています。
 
前述のとおり、再雇用時に契約で正社員から嘱託社員に変わったり、役職がなくなったり、部署や仕事内容が変わったりするケースが多いことも理由となります。
 
また、定年前の働き方は無期の長期雇用を前提としているのに対して、定年後の働き方が基本的には有期雇用を前提としていることや、一定の要件を満たすことで年金の老齢給付を受けられることなども理由となります。
 
その一方で、再雇用の前後において業務内容や責任、処遇などがほぼ変わらないため、給与の大幅な減額が違法と判断された裁判例などもあります。原則として、雇用形態にかかわらず、同じ業務内容であれば、同額の賃金を労働者に支払う、いわゆる「同一賃金同一労働」のルールが、「パートタイム・有期雇用労働法」に規定されているからです。
 

給与減額を補う雇用保険の給付金制度

再雇用後の給与の大幅減を補うための制度としては、以下の3つの雇用保険による給付金制度があります。
 
(1)高年齢雇用継続基本給付金
60歳時点の賃金と比較して75%未満に賃金が低下した方で、受給資格を満たす場合に支給される給付金です。基本手当(失業手当)を受給していない方が対象です。
 
(2)高年齢再就職給付金
基本手当を受給した方が、60歳以降に再就職した場合に支払われる給付金です。 就職の前日における基本手当の支給残日数が、100日以上残っていることが受給条件になります。
 
(3)再就職給付金
「ハローワーク就職促進給付金」とも呼ばれ、早期の再就職を促すための制度です。基本手当の受給資格を満たしている人が、受給資格の決定を受けた後に早期に再就職先が決まった場合にもらえる給付金です。
 
再雇用の際の給与減を直接的に補う制度は、「(1)高年齢雇用継続基本給付金」とでしょう。給付の金額は、65歳までの期間で、60歳以降に低下した賃金の最大15%が支給され、賃金の低下率に応じて段階的に支給率が変わる仕組みとなっています。制度の詳細については、ハローワークで確認しましょう。
 

まとめ

再雇用時に給与が減額されたことにどうしても納得いかない場合には、会社と今一度直接交渉することが必要になります。さらに、それでも解決しない場合には、裁判所による「労働審判」や「訴訟」が必要となる場合もあります。現状において、一個人がこのような方法で違法性を主張することは、少々困難なハードルであるといわざるを得ません。
 
また、同じ会社で働き続けることへのこだわりを捨て、心機一転「再就職」することも解決策の一つかもしれません。定年後の再就職にも「年齢による職種選択肢の少なさ」や「処遇の違い」などさまざまなハードルがあることも否めません。
 
しかし、前述の「高年齢再就職給付金」や「再就職給付金」などの支援策もあります。人生100年といわれる時代において、自分自身に適した仕事への取り組みを、定年後にもそれぞれが考えることが重要といえるでしょう。
 

出典

厚生労働省 Q&A~高年齢雇用継続給付~
厚生労働省 ハローワーク インターネットサービス 雇用継続給付
 
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー

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