更新日: 2019.01.10 介護
認知症の高齢者が大量に商品を購入!契約を無効とできるのか?(意思能力編)
意思能力とは、自分が何をしているか、その自分の行為が結果としてどうなるのかということを認識できる能力のことをいいます。
そして、この能力を有していない人の状態を意思無能力といい、例えば、幼児、認知症の方、知的障害・精神障害の方、泥酔者などが該当します。
これまでも意思無能力者の法律行為は無効であることは、判例上においても学術上でもほとんど異論なく認められていますが、今回の改正で民法に明文化されることで、よりいっそうのお墨付きを得たこととなります。
Text:高橋庸夫(たかはし つねお)
ファイナンシャル・プランナー
住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
認知症の高齢者による契約トラブルの増加
実際にあった判例(東京地裁、平成25年4月26日)を見てみましょう。
70歳代の女性が、2006年から2010年7月の約4年半の間に、デパートの婦人服店で総額約1100万円分(婦人服など260点)を購入しました。
その後、病院の診断で、女性が5年前からアルツハイマー型認知症を発症していたことが判明。女性の弟が婦人服店の担当者に、女性に対して商品を売らないように要請しました。
しかし、婦人服店担当者らは女性への販売を続行。その翌月も、女性は約8万円のジャケットを購入しました。
2011年、ついに女性の成年後見人に選任された女性の弟が、デパートに対して商品代金の返還を求めて提訴。
その結果、遅くとも2009年8月頃から女性は意思無能力状態であり、2009年8月から2010年7月までの売買契約は無効になると認められました。また、裁判所はデパートに対して合計約240万円の返還を命じました。
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高齢化の進展、代金返還請求が増える!?
このような事例は、金額の大小、期間の長短は別として、既に日常的に多くの場面で起きているのかもしれません。
今回民法に明文化される意義は、高齢化社会の急速な進展の中で判断能力が低下した高齢者等が自ら締結した売買契約の無効を主張して、代金の返還等を求めやすくすることで、不当に不利益を被ることを防ぐことにあります。この点については、誰しもが異論を唱えるものではありません。
その反面、少し注意を要する点としては、売る側(企業や事業者)から見ると、公に認知されることで代金の返還請求が増えることも予想され、突然、過去の売買の無効を主張されるケースに見舞われるかもしれません。
また、幼児などについては、外見上ほぼ間違いなく判断がつきますが、認知症の方は、外見上の見た目だけでは判断できない場合も多いのではないかと思います。実際、普段はきれいに着飾って、デパートにお買い物にお出かけになられる紳士、淑女の中にも認知症の方は存在します。
また、意思能力制度は、事前に家庭裁判所の審判を得ていなくても利用できる制度です。ただし、意思無能力を理由に売買契約が無効であると主張するためには、その売買契約の時点での医師の診断書等がなければ、その立証は難しいといえるでしょう。
類似の制度である成年後見制度については、事前に家庭裁判所の審判を得なければなりません。
我が国においては、今後高齢者の割合が高まっていくことで、高齢者が関係するトラブルの事例はさらに多くなっていくことが予想されます。
今後、高齢者ご本人はもちろん、企業や事業者の方々にも、予見されるトラブルに対してしっかりとした対処ができる準備と心構えが必要となる時代となるのかもしれません。
Text:高橋 庸夫(たかはし つねお)
ファイナンシャル・プランナー,住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士