【疑問】リバースモーゲージは老後のライフプランを変えるのか
配信日: 2019.01.20 更新日: 2020.04.06
同機構の発表によると、2018年7月~9月の3ヶ月間の利用実績は8億円で、4月~6月を合わせた2018年度上半期の累積は16.5億円に達しています。
2016年度の利用実績は通期でわずか1.5億円でしたが、2017年度は8.5億円と5.6倍になり、さらに今年度は半年間で、すでに昨年度1年間の2倍近くまで延びました。
「リ・バース60」は毎年著しい増加を続けていると言えます。(※1~※3)
1981年にリバースモーゲージが登場して以来40年近くが経過しますが、日本では広く普及しているとは言えませんでした。その中で、「リ・バース60」はどうして急激に増加しているのでしょうか。今回は「リ・バース60」成長の理由を解説し、リバースモーゲージがシニアライフにもたらす効果について考えます。
執筆者:橋本秋人(はしもと あきと)
FP、不動産コンサルタント
早稲田大学商学部卒業後、大手住宅メーカーに入社。30年以上顧客の相続対策や不動産活用を担当。
現在はFP、不動産コンサルタントとして相談、実行支援、講師、執筆等を行っている。平成30年度日本FP協会広報センタースタッフ、メダリストクラブFP技能士受験講座講師、NPO法人ら・し・さ理事、埼玉県定期借地借家権推進機構理事
リバースモーゲージとは
リバースモーゲージとは、高齢者が自宅を担保にして融資を受け、亡くなった後にその自宅を処分し、融資を一括返済する融資制度です。高齢者は、自宅に住み続けることができ、融資資金を元に、老後の生活資金や住宅のリフォーム費用などに充てることができます。
住宅金融支援機構や民間の金融機関が扱う融資と、地域の社会福祉協議会が窓口になって扱う公的な融資があります。
長寿化が著しい日本では、高齢者の老後資金の確保が喫緊の課題です。一方で65歳以上の高齢者世帯の持ち家率は約80%と高いため、リバースモーゲージの活用による資金の確保は有効な手段と言えます。(※4)
日本でリバースモーゲージは広がらなかった
欧米と違い、日本ではまだリバースモーゲージは一般に普及しているとは言えません。
その理由としては以下のことが考えられます。
(1)死亡後に自宅を手放すことに対して、自宅を相続したい相続人が反対する。
(2)日本では、築年数が経過した建物の価値を低く見るため、融資額が低く抑えられてしまう。
(3)民間金融機関では、利用可能地域が大都市圏の市街地に限定される場合が多い。
(4)金融機関にもよるが、融資金の使途が限られる場合も多い。
また、元々リバースモーゲージには、金利上昇リスク、価格下落リスク、長生きリスクがあるとされており、融資側、利用者側ともに、利用に対して慎重になっていたということも言えるでしょう。
「リ・バース60」は利用用途が幅広い
最近、空き家の問題が顕在化しています。
実家の相続でトラブルになるケースがある一方で、実家に相続人が誰も住まないケースも増えており、このようなケースでは結果的に空き家のまま放置されることになります。そのような空き家の数は全国で800万戸を超えています。※5
「高齢者の老後の生活費が確保でき、死亡後は自宅を処分するため、空き家として残さなくてよい」という、リバースモーゲージの特徴に合致するニーズが増えてきたのではないでしょうか。
このような状況の中で、「リ・バース60」が大きく伸びているのには、以下の理由が考えられます。
(1)全国どこでも利用できる
住宅金融支援機構によると、今年7~9月では、北は北海道から南は熊本県まで利用実績があり、3大都市圏以外の多くの地域でも利用されています。
(2)融資金の使途が幅広い
資金使途としては、戸建新築が最も多く43%、次いで新築マンション購入が27%、さらに中古マンション購入7%、中古戸建購入1%と、高齢者が住宅の新築や住み替えに利用するケースがなんと78%に達しています。※1
これは、手元資金は老後の生活費として確保しながら、「リ・バース60」による資金をこれから快適で便利な住まいで過ごすために利用し、充実したシニアライフを送ろうというニーズが大きいと考えられます。また、住宅ローンの借り換えに利用するケースも6%あります。「リ・バース60」に借り換えることにより住宅ローンの支出を軽減でき、老後の生活費にゆとりができます。
このように、高齢者でも新たな住宅取得を可能にする「リ・バース60」は、高齢者が快適に老後を過ごすための大きな武器となります。
(3)取扱い金融機関・紹介者が増加
「リ・バース60」の取扱い金融機関は2018年5月現在で80機関を超えています。
筆者が住宅金融支援機構の担当者から聞いた話によると、利用者が「リ・バース60」を知ったきっかけは、金融機関やハウスメーカー、不動産会社の紹介が多いということです。このような第三者の媒介により、利用者が広がることが期待されます。
住宅金融支援機構以外の金融機関も、商品の内容を変えながら、利用者のニーズをつかもうとしています。民間金融機関のリバースモーゲージでは、東京スター銀行が先行し実績を上げていますが、今後は他の金融機関も追随し、競争も激化するでしょう。
今後、自宅の価値を「利用」する手段として、リバースモーゲージに注目しましょう。
出典:
※1 住宅金融支援機構2018年11月27日プレスリリース
※2 住宅金融支援機構2018年8月28日プレスリリース
※3 住宅金融支援機構2018年5月18日プレスリリース
※4 総務省平成25年「住宅・土地統計調査」
※5 総務省平成25年「住宅・土地統計調査」
執筆者:橋本秋人(はしもと あきと)
FP、不動産コンサルタント