貯蓄は3000万円か?5000万円か?いや、年金だけで老後を過ごす方法とは?
配信日: 2018.03.26 更新日: 2019.01.11
しかも、今の時代、人生100年。長生きに備えるため、いったいいくら準備しておけばよいのだろうか。3000万円か? 5000万円か? 不安になるのも当然です。
とはいえ、現役時代は子供の教育費や住宅ローンの返済で、老後資金の準備は後回しになりがちです。老後資金として数千万円用意するのは決して簡単なことではありません。
ですから、少ない貯蓄で、できるだけもらえる年金の範囲内で生活できるのが理想です。しかし、そんなことは可能でしょうか。検証してみたいと思います。
Text:前田菜緒(まえだ なお)
FPオフィス And Asset 代表
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者
確定拠出年金相談ねっと認定FP、2019年FP協会広報スタッフ
保険代理店勤務を経て独立。資産運用と保険に強いファイナンシャル・プランナーとして、子育て世代向けに相談やセミナーを行っている。全国どこからでも受講可能なオンラインセミナーを毎月開催。自宅で学べる手軽さと講座内容のわかりやすさが好評。子どもが寝てからでも参加できるよう、セミナーや相談は夜も行っている。
老後の収入と支出はいくら
2016年総務省家計調査によると、夫65歳、妻60歳以上の夫婦のみ無職世帯の1世帯あたりの支出は約27万円です。
一方、もらえる年金は2016年厚生労働白書によると、標準的な年金受給世帯の場合、約22万円です。
この「標準的な年金受給世帯」とは、夫が40年間平均収入約510万円で会社員として働き、妻がその期間すべて専業主婦である家庭です。しかし、今どき妻が一度も就職せず、専業主婦である家庭が標準的だというのは少々疑問です。
そこで、妻は高卒後、平均年収約250万円で10年間会社勤めし、その後、専業主婦という設定に変更します。すると、世帯あたりの年金受給額は1カ月あたり約23.4 万円になります。
年金を繰り下げて支出と同額にする
支出が27万円、収入が23.4 万円ですので、これでは毎月赤字が発生します。そこで考えたいのが、年金の繰り下げです。原則、年金の受給開始年齢は65歳です。
しかし、年金制度には65歳より早くもらう「繰上げ支給」、65歳より遅くもらう「繰下げ支給」という制度があります。
繰上げ支給を選択すると、年金額が1カ月あたり0.5%減額されます。1年あたり6%の減額ですね。一方、繰下げ支給を選択すると、年金額が1カ月あたり0.7%増額されます。
1年あたり8.4%の増額です。これらの増減率は一生変わることはありません。
ここで利用したいのが、繰下げ支給です。支出が27万円ですので、23.4 万円の年金を、繰り下げすることにより27万円まで増やして受給するのです。
では、どれだけの期間を繰り下げればよいでしょうか。まず前提条件として、繰り下げ期間は月単位で決められますが、ここではわかりやくするために年単位で考えます。
また、夫婦の年齢差も年金受給額に影響することがありますが、この点も、わかりやすくするために夫婦は同級生で2人そろって繰下げ支給するものとします。
では、計算してみます。27万円 ÷ 23.4 万円=1.15です。よって、年金が15%以上増えればよいということになります。 繰下げ支給を選択すれば1年あたり年金は8.4%増額になりますので、2年繰り下げれば16.8%の増額です。
つまり、年金を15%以上増やすには2年繰り下げ、67歳からもらえばよいという計算になります。この場合、もらえる年金額は23.4万円× 116.8%= 27.3万円です。支出は27万円ですので、年金だけで支出をカバーできそうです。
67歳までの生活費をどうするか
年金を67歳からもらうとすれば、それまでの生活費をどう準備すればよいでしょうか。まず、64歳までは働きます。そして、65歳で現役引退だとすると、67歳までの2年間は無職無収入です。
1カ月当たりの支出が約27万円ですので、2年間の支出トータルは27万円×24カ月=648万円です。つまり、老後資金として用意すべき金額は648万円ということです。
いかがでしょうか。648万円なら貯蓄できそうでしょうか。数千万円の老後資金の準備が必要と考えていたのであれば、かなりハードルが下がったと思います。
しかし、これはあくまで計算上の数字。しかも、60歳から64歳は給与の範囲内で生活できているという前提です。再雇用等で働くとしても60歳以降はぐっと給与が減少するのが一般的です。給与の範囲内で生活するのは現実的には厳しいかもしれません。
また、病気になると医療費がかかることはもちろん、働くことはできません。よって、実際の必要額はもう少し増えると思いますので、この点については、iDeCoやつみたてNISAを利用して、効率よく積み立てていきたいですね。
また、このケースは夫婦が同級生という前提です。夫が65歳時点で妻が65歳未満の場合等のケースでは、年金の家族手当(加給年金)が上乗せして支給されます。
しかし、繰下げ支給をすると繰り下げ期間中はこの加給年金は支給されませんし、繰り下げしたからといって加給年金額は増えません。この点は、注意が必要です。
何年繰り下げればよいかは、その家庭によって異なりますし、無職無収入期間がある限り貯蓄は必要です。
しかし、年金だけでは生活できないと漠然とした不安を感じることはありません。公的年金は生きている限り、ずっともらえる年金です。繰下げ支給を上手に活用して、長生きして安心な楽しいセカンドライフを送りたいですね。
Text:前田 菜緒(まえだ なお)
1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP(R)認定者