更新日: 2019.01.11 その他

農村は今、再生可能エネルギーの発電地帯だ

執筆者 : 毛利菁子

農村は今、再生可能エネルギーの発電地帯だ
農林水産省は、農山漁村での再生可能エネルギーの積極活用を進めています。今まで捨てられていた第一次産業ならではの副産物を有効利用するバイオマス発電や、田畑にパネルを設置しての太陽光発電など、多彩な発電が行われています。その電力を地域内で使うだけでなく、売電して収入を得る事例が急速に増えています。

今、農山漁村は食べ物を産み出すだけでなく、再生可能な発電源として、私たちの暮らしに新たな恵みをもたらしています。

毛利菁子

Text:毛利菁子(もうり せいこ)

農業・食育ライター

宮城県の穀倉地帯で生まれ育った。
北海道から九州までの米作・畑作・野菜・果樹農家を訪問して、営農情報誌などに多数執筆。市場や小売り、研究の現場にも足を運び、農業の今を取材。主婦として生協に関わり、生協ごとの農産物の基準や産地にも詳しい。大人の食育、大学生の食育に関する執筆も多数。

お荷物だった家畜の糞や剪定枝がバイオマス発電の燃料に

今、農山漁村の再生可能エネルギー発電に熱い視線が注がれており、農水省でも全国各地の様々な事例をHPなどで紹介しています。自分では作ることができない食とエネルギーを購入している消費者としても、興味深いところです。
 
農山漁村では常に、生産による副産物の処理という問題が発生します。米を収穫すれば必ず、籾殻やワラが出ます。果樹の生産なら剪定枝、畜産には家畜の糞尿がつきものです。近年、これまでお荷物だった副産物を使ったバイオマス発電が各地で行われています。
 
岩手県軽米町の十文字チキンカンパニーは、年間5000万羽の鶏の飼育から鶏肉加工販売まで行っている東北最大の農業法人です。1日400トンも発生する鶏糞を燃やして発生させた蒸気でタービンを回し、年間約4800万kwhを発電しています。標準的な家庭の年間使用量に換算すると、1万3300世帯分に相当します。残った灰は肥料原料として売却し、無駄のない資源循環を行っています。
 
果樹農家にも頭の痛い問題があります。毎年大量に発生する剪定枝や幹、根の処分です。千葉県市川市といえば、ナシの大産地です。現在は住宅密集地となり、かつてのように畑で焼くこともできず、一般廃棄物として農家がお金を払って処分していました。そこでJAいちかわは、管内で出る剪定枝などを木質バイオマス発電の燃料として市原グリーン電力株式会社(千葉県市原市)に持ち込んでいます。
 
化石燃料を使う火力発電は二酸化炭素排出量が多いのですが、バイオマス発電ならばカーボンニュートラル(燃やすときに二酸化炭素は発生するものの、木の生長過程で二酸化炭素を吸収しているので±0になる)です。農家にとっては経費削減になり、良いことづくめです。
 

田畑の上に太陽光パネル。作物と電気を同時に“収穫”

田畑の作物の生育には光が必要ですが、太陽光パネル設置による遮光率が30%程度ならどんな作物も育つといわれています。最近は、農地に必要量の日射が届くように短冊状の太陽光パネルを一定間隔で設置し、営農しながら発電事業を行う「ソーラーシェアリング」が各地で行われています。パネルを高い位置に設置するので、パネル下に農業機械も入ります。
 
若干の不便が生じることは否めませんが、売電収入による経営の安定はそれを補って余りあります。千葉県内では既に米やブルーベリー、大豆、サツマイモ、トウモロコシ、落花生などの栽培が行われ、成果を上げています。
 
「30%程度の遮光率は問題なし」とはいえ、本当にパネルによる日陰の影響はないのか、気になりませんか。作物は夏場、地球温暖化による強過ぎる日射しと高温によるダメージが低減することで、逆に味や品質が上がることもあります。作業者にとっても、陽射しが抑えられて作業が楽になる、散水の回数や量も少なくなる、などのメリットがあります。パネルは可動式で、季節や天候によって角度を変えることもできます。
 
農地は、農業以外の用途に使うことはできません。しかし、農地の多くは陽当たりが良く、太陽光発電にはもってこいの場所です。そこで農水省は、パネルの設置による減収を、地域の平均的な作物ごとの反収と比較して20%以下に抑えることなどを条件に、ソーラーシェアリングを推進しているのです。作物と電気を同時に“収穫”できるソーラーシェアリングは今後、農家の有望な増収の手段になってゆくはずです。
 

用水路の水は発電してから農地で利用。“二度おいしい”小水力発電

田畑を潤す農業用水を使った小水力発電も、各地にできはじめています。山形県長井市の野川小水力発電所は、野川土地改良区(農業者が農用地や農業用水の維持管理をするために設立した公共組合)が運営・管理する発電所です。水の力でタービン(水車)を回して発電します。年間発電量は108万kwhと、標準的な家庭300世帯が1年間に使用する電力量に匹敵します。
 
これを売電することで、農業水利施設の維持管理費を捻出して、農家の負担を軽減しています。発電に使用した水は、再び用水路に戻って農地に引き込まれ、田畑を潤します。同じ水が、農家に二重の恵みを与えているのです。農地に張り巡らされているかんがい用水路の上部や、農業用ため池の上に太陽光パネルを設置して売電している事例もあります。
 
農業水利施設は農村の共有財産です。本来の機能を損なうことなく、発電資源としてその地域の農家に恵みを与えているのです。
 

農村で作った再生可能電力を、一般家庭が使える時代に

2016年4月から、家庭も電力会社を選べるようになりました。私は、農村で作る再生エネルギー電力の占める割合が大きい新電力会社に切り換えました。農村の電力を仕入れている会社は他にもありましたが、決定打になったのは故郷の隣町で太陽光発電した電気を仕入れていることでした。
 
ここは過疎の町だったうえに、東京電力福島第一原発事故による放射能汚染で、農業は非常に深刻な打撃を受けました。現在も続く被害から立ち直る手助けがほんの少しでもできたら、と考えたからです。
 
電力会社を選ぶということは、結果的に発電方法や発電場所も選ぶことになるのだなと感じています。新電力会社への切り替えを考えていらっしゃる方は、料金体系も大切ですが、どこから、どんな電力を仕入れているのかにも目を向けていただけたらと思います。
 
農山漁村での“電源開発”は今、急速に進んでいます。山村では間伐材による木質バイオマス発電、漁村では風力発電や太陽光発電、農村では籾殻のガス化発電など、資源や発電方法はたくさんあります。日本の第一次産業や農山漁村の未来はそう明るくありませんが、再生可能エネルギー発電が打開してくれるかもしれません。そうであって欲しいと願います。
 
Text:毛利 菁子(もうり せいこ)
宮城県の穀倉地帯で生まれ育った農業・食育ライター。