更新日: 2019.01.10 その他

土地神話、崩壊!! 売れない土地、所有者不明の土地が急増

土地神話、崩壊!! 売れない土地、所有者不明の土地が急増
2度目の東京オリンピックを控え、都心などでは地価の上昇が続き、ミニバブルを思わせる状態が起こっています。

しかし人口減少社会が現実化しつつある日本全体で見ると、こうした傾向はごく一部で、多くの地域では地価の下落が恒常的に続いています。
こうした傾向は2020年の東京オリンピックを契機に一層顕著に進むと思われ、「土地を持っていれば安心!」という土地神話は崩壊を迎えようとしています。
黒木達也

Text:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

郊外の生産緑地が宅地へ

これまでは大都市圏の近郊で、「生産緑地」の指定を受けると、建築物がつくれない代わりに、固定資産税が農地並みに減額され、相続税の納税も猶予される特典もありました。農業が続けやすい環境づくりが目的でしたが、実際は、耕作放棄地か雑木林が多くなっています。大都市の周辺に存在し、東京都で約3300ha、神奈川県で約1400ha、大阪府で約2000haあります。東京23区内では世田谷、杉並、練馬などに多くみられます。
 
農地利用ではなくても、住宅が建っていないため、周辺住民にとっては、自然に触れる休息地になっているといえます。
これが指定されてから30年経過する2022年以降、指定が解除されます。すると市区町村への買い取りの申し出が出来るようになり、その多くが宅地化される可能性が出てきます。
 
こうした事態が一度に起こると、土地の供給量が増加し、地価にも反映され、大幅な地価の下落が予見されるからです。一方で将来人口の減少が確実ななか、需要がないにもかかわらず土地の供給量が増えてしまいます。土地余り現象が起こるいわゆる「2022年問題」です。
 

一等地だけは値上がりしているが

宅地供給の増加は、行政なども再指定など制度面での検討を加えることで、一斉に宅地化が進むとは考えにくいですが、地価の下落につながることは間違いありません。
さらに怖いのは、現在は値上がりしている都心の土地やマンションの価格が、いつ下落しはじめるか、という問題です。
 
現在は、2020年のオリンピック景気の後押しもあり、例えば銀座の土地の評価額は上がり続け最高水準にあります。オリンピック需要を見込み、鉄道や道路の整備が進み、東京湾岸地域や都心の一等地千代田区にある高級マンションは、驚くほど高い価格で取引されています。しかし、これもすべてが実需ではなく、外国人が投機目的で購入している物件も数多くあり、オリンピックが終わることで、需給の潮目が変わり一度売りが優勢になれば、急激な価格下落も予想されています。
 
購入価格よりも大幅に安い価格で売る不動産の投げ売りが始まるかもしれません。そうした事態になれば、近隣の地価も引きずられて下落することは確実です。
 

所有者不明の土地が増える

本来ならば考えにくいことですが、日本国内で所有者不明の土地が増え続けています。とくに地方では、荒れ放題の耕作放棄地や、いまにも倒壊しそうな廃墟がかなり目立ちます。ただ都市部でも例外ではなくなりつつあります。全国の多くの土地が、こうした所有者が特定できない状態にあります。最近の民間の研究会がまとめた資料によれば、日本の土地の約20%、即ち九州全体の面積に匹敵する広さの土地が所有者不明です。今後さらに増えると予想されます。
 
全国の自治体では、老朽化した危険な空き家を取り壊したくても、所有者が特定できず困惑しているケースが非常に多くみられます。自治体の費用で解体するケースも出てきました。これらの多くが相続時に、相続人が放棄してしまったか、相続をしたとしても登記をしていないために起こります。その土地や家屋は利用価値がなく、売却したくたても売却出来ないため、敢えて登記をしない人が増えています。
 
結果として負債を抱えることにもなるという事情もあり、それなりに納得できます。
 
大都市と地方とでは、地方がこの傾向が非常に強くなっています。先祖代々所有していた山林などが、その典型例です。荒廃し治水機能も落ちているので、大雨などで自然災害を助長することにもなります。
 
人口減少社会の影響をもろに受け、このまま放置できない状態になりつつあります。大都市でさえ、クルマの進入できない狭隘な道路に面した宅地、傾斜地や形状が極めて悪い宅地、高台にあり買い物などでの日常行動に苦労する宅地などは、所有者不明の土地が急速に増える傾向にあります。
 

相続放棄や登記不履行が発生

利用価値のほとんどない土地のため、実際に相続に直面したとき、相続税を支払いさらに登記をすることは全くメリットがない、と考えても不思議ではありまません。利用価値の少ない土地にもかかわらず、相続税の評価額が思ったより高い、登記をしようとすると費用も結構かかる、この状態では、所有者不明の土地はますます増えてしまいます。
 
現在の相続税、固定資産税、登記手数料が「現実に即していない」と判断する人が増えれば、この傾向はさらに強まると思われます。長年放置してきた行政サイドでの対応が、必要になっていることは間違いありません。各種法改正も必要になります。
 
相続放棄がなされ所有者不明の土地は、圧倒的に地方で多くみられます。耕作放棄地となった農地と、個人が所有してきた山林が最も多く代表例です。地方での事態は深刻ですが、この所有者不明の土地は、今後大都市でも急増する可能性があります。郊外の土地付きの住宅より、都心の集合住宅に住もうとする若いファミリー層は、このところ増えています。
 
人口減少が続きますので、都心の土地も現在よりも確実に入手しやすくなるからです。親や祖父母が購入した郊外の土地は、駅から遠い、急な坂が多い、といった悪条件があると嫌われる傾向にあります。仮に相続したとしても、敢えて登記することはせずに、所有者不明の土地となる可能性もあります。今後の課題は大きいといえます。
 
Text:黒木 達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト。大手新聞社出版局勤務を経て現職

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