更新日: 2020.05.25 その他

韓国では、クレジットカードを使うと節税できる

韓国では、クレジットカードを使うと節税できる
韓国はクレジットカード社会です。一般的に4~5枚のクレジットカードを持ち、100円程度の支払いでもクレジットカードを使います。現金を持ち歩かない人も多いくらいです。
なぜ、ここまでクレジットカードが普及したのでしょうか?注目すべきは年末調整の「クレジットカード控除」です。

本稿では、韓国の給与所得にまつわる話をいくつか紹介したいと思います。
黄泰成

執筆者:黄泰成(こう たいせい)

公認会計士(日本)

スターシア・グループ代表
慶応義塾大学経済学部卒業後、大手監査法人へ入社し、アトランタや韓国での駐在を経験。
2007年、日本に韓国ビジネス専門のコンサルティング会社(株式会社スターシア)を、
韓国に株式会社スターシア・コンサルティング(現)を韓国初の日本資本の会計事務所として設立。2017年にグループ会社として、韓国に税務法人スターシアを設立。
「日本の会計士として日系企業の期待を充分に汲取り、その期待を超え続けるサービスを提供する」という考えのもと、日系企業による韓国ビジネスの成功をサポートしている。

年末調整が2回ある?

毎月給与明細を見るたびに、多額の源泉税や社会保険料が天引きされていて、ため息をつく人も多いことでしょう。
韓国でも日本の制度を参考にしているせいか、ほぼ似たような給与体制になっています。
毎月の給与から天引きされるのは、所得税(住民税)と社会保険料というのは日本と同じですが、若干異なる部分もあります。
 
まずは、税金の話。毎月の給料から所得税が源泉徴収される仕組みは日本と同じです。
異なるのは、主に3点。第1に、日本の住民税に相当する地方税は、所得税の10%と定義されていることから、日本のように1月1日にどこに住民票があったか、という議論は発生しません。新入社員であっても最初の月から住民税は源泉徴収されます。

第2に、年末調整は12月ではなく、翌年2月に行われます。

第3に、日本では医療費控除を受けるためには確定申告が必要ですが、韓国では年末調整で行います。
そのため、年末調整にかかる会社(もしくは会計事務所)の事務負担は大きくなります。
 
次に、社会保険の話。韓国では、社会保険のことを一般的に「四大保険」といいます。
国民年金、健康保険、雇用保険、産業災害保険の4つです。これは日本とほぼ変わりがありません。

特徴的なのは、社会保険についても年末調整がある点です。日本では、毎年標準報酬が決まって、それに基づいて保険料を支払っておしまいですが、韓国では、翌年4月に前年度の年収に対して保険料を再度計算して調整を行います。

この四大保険のうち、日本と同じように見えて全く異なるのが国民年金です。日本では給与所得者の場合、「厚生年金」に加入することになります。この厚生年金は、国民年金部分(1階)と厚生年金部分(2階)とから構成されています。
 
さらに、大企業では独自の「厚生年金基金(3階)」にも加入しているところが多いと思います。これに対して、韓国は「国民年金」だけなので、日本が3階建てなのに対して、1階建てにすぎません。

そのため、老後保障という側面からは、貧弱な制度となっており、貧困老人の問題は日本以上に深刻になっていく(なっている)ものと考えられます。
 
一方、この足りない部分を保管するという趣旨かどうかは分かりませんが、韓国では退職金制度が法律によって義務化されています。具体的には、最低でも勤続1年に対して約1ヶ月分の給料に相当する金額の退職金を支払う義務があります。

つまり、12年働いたら年収相当の退職金が最低でも保証される仕組みです。老後の政府保証が少ない分、民間に負担を強制的に移管しているようにも感じます。(立法趣旨は違うのでしょうが)

クレジットカードを使えば使うほど税金が安くなる

さて、冒頭でも書いたように、韓国人はとにかくなんでもクレジットカードで支払いをします。
どうしてここまで急速に普及したのでしょうか?
 
そもそも、韓国は現金社会でした。クレジットカードが普及し始めたのは、1998年のIMF危機以降なので、20年に満たない期間でここまで普及しました。
一般的に韓国人は日本人に比べて消費意欲が旺盛なため、手許に現金がなくても買い物のできるクレジットカードが普及する素地はあったのかもしれません。

しかし、政府主導でクレジットカードの普及活動を行ったことは無視できるものではありません。キーワードは脱税防止です。
 
居酒屋やナイトクラブをイメージしてみてください。現金で支払えば、お店は売上に計上しないことで簡単に脱税できてしまうことが想像出来ると思います。ここでいう脱税は、所得税(もしくは法人税)だけでなく、付加価値税(日本の消費税)も含まれます。

カードで支払うとお代が高くなる飲み屋がありますが、これはカード手数料の上乗せではなく、付加価値税の上乗せです。(つまり、現金で払うと売上計上しないということなのでしょう)
 
このような脱税を防止し、政府が把握できないお金の流れをなくそうとして生まれた政策が、クレジットカードの普及です。普及させるためには、それなりのメリットを与えないといけないことから、クレジットカードを使えば、その分、所得控除をして所得税を減らしてあげる、という制度ができました。

毎年、年末になるとクレジットカード会社から、過去1年分の使用額の通知が郵送されます。それを年末調整時に証票として利用することになります。

現金支払でも節税効果が!

このようなクレジットカード控除のおかげで、爆発的にクレジットカードが普及しました。
一方で、控除額には限度があることから、限度まで使った人は結局現金支払に戻るため、脱税防止効果が限定されるという指摘がされました。

私が聞いた話では、自動車をクレジットカードで買って、他の買い物は現金という人までいます。
また、クレジットカードの使いすぎで信用不良者となりカードを持てなくなった人も多く発生しました。当然ながら、そのような人はクレジットカード控除のメリットを受けることができません。
 
このような問題点を解決するためか、クレジットカード控除導入数年後に、あらたに「現金領収証控除」という制度が生まれました。

これは、現金支払であっても「現金領収証」という領収証を入手すれば、それに応じて所得控除が受けられるという制度です。買い物した時に自分の住民登録番号(マイナンバー)をレジ係に伝えると、現金領収証を発行してもらえます。韓国のお店で現金で支払った時にお店の人が「現金領収証必要ですか?」と聞いてくるのは、このためです。
 
このように説明すると、「過去1年間に現金で買い物したレシートを全部保管していないといけないの?面倒だ」と思う人もいるかもしれません。ところが、これを解決する恐ろしいカラクリがあるのです。

全国民を監視している国税庁

先ほど、住民登録番号をお店の人に伝えれば、レジから現金領収証が発行されると書きました。現金領収証の外見はクレジットカードの利用控えと同じものです。このレジですが、実はオンラインで国税庁のデータベースとつながっています。

そこで、国税庁のウェブサイトに入り、自分の住民登録番号を入力すると、過去1年間の買い物履歴を全部見ることができ、この履歴をプリントアウトすることで、現金領収証控除を受けるための証拠書類となるわけです。
 
つまり、国税庁はお店だけでなく、全国民の消費活動をデータベース化しており、何かしら怪しげな行動をしている人がいれば、すぐに税務調査に入ることのできる体制を整えているのです。
  
Text:黄 泰成(こう たいせい)
公認会計士(日本)、スターシア・グループ代表

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