更新日: 2020.04.26 その他
もしも会社が倒産したときのために……未払賃金立替払制度を知っていますか?
もし勤務先が倒産して給与が支払われなかった場合でも、「未払賃金立替払制度」を利用して補償を受けることができます。どんな制度で、どのように利用できるのか、仕組みを見てみましょう。
執筆者:松木優子(まつき ゆうこ)
2級ファイナンシャル・プランニング技能士。フリーライター。
来店型保険ショップ元コンサルタント。首都圏郊外の地域密着店や、都市部の富裕層が多い店舗で、年間約150組のお客様のコンサルタントを担当。
そもそも未払賃金立替払制度とは?
企業が倒産した際に、賃金が支払われないまま退職せざるを得なくなった従業員に対して、未払賃金の一部を国が企業に代わり立て替えて支払う制度です。
最寄りの労働基準監督署か、独立行政法人労働者健康安全機構に相談できます。立て替え払いの請求は、企業の倒産から2年以内であれば手続きができます。
なお、「立替払」と表記されていますが、企業が立替払金を国に返済できないからといって代わりに従業員が返還を要求される、ということはないのでご安心ください。
労働者健康安全機構によると、1976年の制度の創設以降、2019年3月までに約124万人に対して総額約5198億円の立替払金が支払われています。2018年度は、2万3554人に対して96億円が支払われました。
未払賃金立替払制度を利用するには条件がある
この制度を利用するには、次の条件を満たしている必要があります。
1.立て替え払いを受けられる人
・勤務先の企業が労災保険の適用事業所で、1年以上事業を行っていた。
・倒産に伴い、賃金が支払われないまま退職した。
・企業の破産手続開始等の申立日、もしくは倒産の認定申請日の6ヶ月前の日から2年目の日に退職した。
※独立行政法人労働者健康安全機構の資料を基に筆者が作成
企業に雇用されていたパートやアルバイトの方も立て替え払いの対象になります。ただし、企業の代表権を持つ会社役員や、家族経営で雇われていた同居の親族などは対象外となります。
2.立て替え払いの対象になる未払賃金と上限額
立て替え払いの対象になるのは、退職日の6ヶ月前の日から、労働者健康安全機構に対する立替払請求の日の前日までの間に支払期日がある「定期賃金」と「退職手当」です。
なお、賞与など臨時に支払われる賃金や年末調整の税金の還付金、給与から差し引かれている社宅料などは対象外になります。
※独立行政法人労働者健康安全機構の資料を基に筆者が作成
支払われる金額は、未払賃金総額の80%となります。ただし、退職日の年齢によって上限額が設けられています。また、未払賃金が2万円未満の場合は立て替え払いを受けられません。
※独立行政法人労働者健康安全機構の資料を基に筆者が作成
未払賃金立替払制度を利用する際の手順は?
倒産した勤務先が「法律上の倒産」と「事実上の倒産」によって、請求する場合の手続きが異なります。
1.法律上の倒産の場合
・まずは裁判所や破産管財人等(倒産の区分による)に立て替え払いの請求の申請をして、未払賃金総額などを記載した「証明書」を交付してもらいます。
・そして未払賃金の「立替払請求書」と「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に必要事項を記入して、証明書と共に労働者健康安全機構に郵送します。
・書類に問題がなければ「支払通知書」が届き、立て替え払い額や振り込み日を確認できます。
・請求書の受け付けから通常30日以内に、指定の口座へ立て替え金が振り込まれます。
2.事実上の倒産の場合
・倒産がまだ法的に認められていないので、退職後6ヶ月以内に労働基準監督署に事実上の倒産を認めてもらう申請をします。なお、他の従業員がすでに申請をし、認定を受けていれば、この手続きは不要です。
・倒産の「認定通知書」が交付されたら、立て替え払い請求に必要な項目について、労働基準監督署に確認の申請をします。
・「確認通知書」をもらったら、未払賃金の「立替払請求書」と「退職所得の受給に関する申告書」に必要事項を記入して、確認通知書と共に労働者健康安全機構に郵送します。
・書類に問題がなければ「支払通知書」が届き、立て替え払い額や振り込み日を確認できます。
・請求書の受け付けから通常30日以内に、指定の口座へ立て替え金が振り込まれます。
手続きの前に用意しておきたい書類や税金について
手続きの際には、賃金未払期間中の出勤状況や、過去の支払い状況に関する資料の提出を要求されることが多いので、次の資料を用意しておくと手続きがスムーズにできるでしょう。
・タイムカードや出勤簿、労働時間のメモなど
・過去の給与明細や、給与入金が記載された通帳のコピー
・就業規則や契約書
また、支払われた立て替え金は定期賃金分、退職手当分のどちらも原則「退職所得」として所得税の対象になります。退職所得は「退職所得控除」が適用されるので、申告することで実質的に非課税になるケースが多いです。
このような制度があるので、万が一給与が支払われないまま退職せざるを得なくなった場合でも諦めず、そして焦らずに対応しましょう。
出典
厚生労働省 未払賃金立替払制度の概要と実績
独立行政法人労働者健康安全機構 未払賃金の立替払事業
独立行政法人労働者健康安全機構 未払賃金の立替払事業
Ⅰ 未払賃金の立替払制度の概要
Ⅴ 未払賃金立替払に関するQ&A
執筆者:松木優子
2級ファイナンシャル・プランニング技能士。フリーライター。