更新日: 2020.04.18 その他

40年前に購入した別荘地は処分できる?知っておきたい注意点

40年前に購入した別荘地は処分できる?知っておきたい注意点
Sさんは70歳。夫はすでに亡くなり、独身のひとり娘と同居しています。自身の亡き後を考え、財産の整理を始めましたが、土地の権利書を前にして悩んでいました。
 
『夢の一等別荘地を、手ごろな価格で』
 
そんなキャッチコピーが付いたチラシに惹かれ、40年前に自身の貯金と父の遺産を投じて1000万円で購入した別荘地。
 
結局、仕事や子育て、夫の介護に追われ、建物を建設することなく放置した土地は、時価が10分の1まで下落。そんな土地のことを娘に話すと、「何でそんなものにお金を使ったの?」と責められそうで、話すことができていません。 
 
「できれば、娘に内緒で処分してしまいたい」そう考えたものの、はたしてどう処分して良いものか、見当もつきません。本記事では、こうした別荘地の処分方法と注意点を解説します。
 
酒井 乙

執筆者:酒井 乙(さかい きのと)

AFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。  
 
長期に渡り離婚問題に苦しんだ経験から、財産に関する問題は、感情に惑わされず冷静な判断が必要なことを実感。  
 
人生の転機にある方へのサービス開発、提供を行うため、Z FinancialandAssociatesを設立。 
 

不動産会社を通じて売却

不動産を処分するに当たり、まず考えるのが不動産会社での査定です。しかしその前に、まずは自分の別荘地が「売れそうか」どうか、自分自身で調べてみましょう。
 
国土交通省が運営する「土地総合情報システム」(※1)を使えば、最大過去5年分の取引事例を、自身のパソコンやスマートフォンから簡単に入手できます。 自身の土地と似たような条件の土地が周辺で取引されていれば、不動産会社を通じて売却できるかもしれません。 
 
その上で、ネット上の不動産一括査定サービスに登録したり、地場の不動産会社に直接電話で確認してみたりしましょう。
 
そうすることで、「需要が薄い」土地の見積もりを長期間待ち続けたり、適正な価格が分からず、業者の言い値で売却してしまうことを少しでも防ぐことができるでしょう。

「空き家バンク」を利用

「空き家バンク」とは、国や自治体が、「空き家」や「空き地」を利用したい人に情報提供する制度です。特に過疎化が進む地方自治体では、移住や定住を促進して地域活性化を図るために、導入例が増えています(※2)。
 
一般の不動産会社では取り扱わないような物件も掲載されますので、別荘用の土地の売却に利用するのも良いでしょう。 
 
ただし、空き家バンクでの「土地のみ」の取り扱い状況は、平成29年度の調査(※3)では、住居付きに比べて低く(図1)、空き家バンクで扱う空き家や空き地物件の成約状況も高いとはいえないことが課題となっており(図2)、制度はまだ発展途上といえそうです。
 


土地を「寄付」する

売却が難しい場合は、タダでも良いから誰か引き取ってほしいと考えるかもしれません。寄付先としては、その土地が属する自治体や、保有地周辺のオーナーなどが考えられます。
 
まず自治体については、寄付の制度がないか問い合わせをしてみましょう。ただし、公共目的にかなった土地利用が可能と思われる土地でない限り、土地の寄付を受け入れている所は少ないようです。
 
周辺のオーナーに対しては、直接自身で引き取りを打診してみましょう。ただし、寄付が成立した場合、受贈者側に贈与税が発生する可能性があるので注意してください。

相続人に相続放棄してもらう

売却も寄付もできない、となった場合どうすれば良いのでしょう。
 
最後の手段として、「相続する本人に伝えるのは仕方ないにしても、相続放棄してもらえば、迷惑はかからないのではないか」と誤解される方がいらっしゃるかもしれません。
 
しかし、民法上の相続放棄では、相続放棄をすると最初から相続人ではないものとして扱われます(※4)。つまり、土地だけでなく、その他の財産(例えば現預金など)もすべて相続できなくなってしまいます。 
 
また、仮に相続放棄をしても、他の誰かがその土地の管理義務を引き継ぐまでは、固定資産税の支払い義務などが引き続き残ることにも注意が必要です(※5)。

【予定】国による寄付制度を利用する

Sさんは、前述の方法をすべて試してみましたが、残念ながらどれもうまく行かず、今もひとり娘には別荘地のことを話せずにいます。
 
国土交通省が空き地所有者に対して行った調査(※6)によれば、6割弱の回答者が、所有する空き家を「相続させたいとは思わない」と回答しており(図3)、引き取り手のない不動産がますます増加する可能性を示唆しています。 
 


 
こうした状況等への対処として、政府は引き取り手のない不動産を国へ寄付したり、生前贈与できたりする制度づくりに取り組んでいます(※7)。しかし、「一定の資産価値がある」などの要件を付ける予定で、不要な土地すべてが対象ではないことに注意が必要です。
 
別荘の購入は生活に潤いをもたらすかもしれません。しかし、次世代まで影響を及ぼすことから、今後購入を考えている方は慎重な検討を行ってください。
 
(出典および注釈)
(※1)国土交通省「土地総合情報システム」
(※2)一般財団土地総合研究所「空き家バンクの目的・現状・課題 P.2」 同レポートによると、「空き家バンク」を「既に設置済み」と回答した市区町村は、平成27年度の39%から平成29年度には56%に増加している。
(※3)日本政策投資銀行グループ 株式会社価値総合研究所「平成29年度 空き家バンクに関する調査 P.7及びP.23」
(※4)「民法939条」相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
(※5)「民法940条第1項」相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
(※6)国土交通省「所有者不明土地問題に係るアンケート調査結果(抜粋) P.10」
(※7)財務省理財局「引き取り手のない不動産への対応について」
 
執筆者:酒井 乙
AFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。


 

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