土地「公示価格」が5年連続上昇 実勢価格とは乖離へ

配信日: 2020.04.02

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土地「公示価格」が5年連続上昇 実勢価格とは乖離へ
国が公表する地価を表す代表的指標として「公示価格」「路線価」「基準地価」があります。2020年3月に、その1つの「公示価格」が公表されました。
 
前年末時点までの実際の土地取引の価格などを参考に、全国約2万6000地点の2020年1月1日時点の価格として公表しています。
 
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

取引実態を基礎に公示価格を算定

「公示価格」は、地点ごとに土地取引の実際を調査したものを、国土交通省が毎年公表しており、実際の土地取引の指標になります。さらに不動産鑑定の基礎数字や競売物件の価格決定、公共事業用地の取得価格の算定などに広く利用されています。
 
今回公表された公示価格では、全国平均で5年連続上昇しています。
 
公表された2020年の全国平均の数字を前年の数値と比較すると、住宅地で0.8%の微増、商業地で3.1%の上昇になっており、上昇幅も前年より若干高くなっています。3大都市圏では、住宅地で1.1%、商業地で5.4%上昇しており、どちらも全国平均を上回っています。
 
別の指標である「路線価」は、国税庁が相続税・贈与税の評価などに使用するもので、毎年7月ころに公表し、翌年の納税時に課税額の基礎になります。実勢価格が下落した場合に批判が出るため、公示価格の8割程度の金額に抑えられています。
 
また「基準地価」は、各都道府県が土地売買の目安にするため7月時点で調査したものを、国土交通省が集約して9月ころ公表します。地域の地価動向に関係するほか、固定資産税などの課税にも利用されます。

都市部とインバウンド効果地域で上昇

首都圏の平均の公示価格は、商業地は5.2%上昇で7年連続、住宅地は1.4%上昇で7年連続となっています。東京都の商業地は7.2%の上昇で昨年を上回り、台東区・荒川区などでの上昇が目立ちます。
 
東京都の住宅地は2.8%の上昇で、上昇幅は昨年よりも縮小しており、地域によるバラツキもあります。
 
ちなみに全国の1平方メートル当たりの最高価格地点は、商業地が東京・中央区銀座4-5の5770万円、住宅地が東京・港区赤坂1-14の472万円です。神奈川、千葉、埼玉の首都圏3県でも、住宅地で0.3~0.8%、商業地で2.7~3.4%上昇しています。
 
関西圏では、大阪市の商業地が6.9%の値上がりで、上昇幅も昨年を上回っています。とくに道頓堀近辺など、外国人観光客の増加が大きく地価値上がりに貢献しています。
 
京都市でも祇園のある東山区を中心に11.2%も上昇していますが、昨年よりは上昇幅は鈍化しています。関西圏の住宅地は、全体で0.4%の上昇という、かなり落ち着きを見せています。
 
名古屋圏では、商業地は4.1%と7年連続して上昇しており、リニア新幹線期待の名古屋駅周辺の開発効果といえます。住宅地は愛知県全体で1.1%、昨年並みの上昇となっています。
 
地方の中核都市では、札幌、仙台、岡山、広島の4市の商業地の上昇率は11%を超え、3大都市圏を大きく上回っています。それ以外の地方都市でも、マイナスから微増に転じた地域がかなりあります。
 
また沖縄県では、商業地で9.5%、住宅地で13.1%の上昇となっており、外国人観光客の増加による影響が顕著です。
 
大都市圏の商業地では、大規模開発の効果やインバウンド効果により、5%以上の上昇が目立ちますが、住宅地は上昇幅も小さく、また地域によっては下落している地点も見られます。社会情勢も刻々と変化しており、今後厳しい局面が訪れそうです。

公示価格のさらなる上昇は難しい

この公示価格の数値を、懐疑的にさせる環境変化が続いています。最大の心配は、新型コロナウイルスの世界的な大流行です。人やモノの移動が大きく制限され、経済活動も大きく影響を受けます。
 
株価も大きく値下がりしています。オリンピックの開催も延期が決まりました。しかし調査時点では、こうした変化はまったく考慮されていません。そのため今後は、土地取引の実勢価格は下落傾向になり、公示価格との乖離が進みそうです。
 
すでに取引が済み開発が始まった地域は、そのまま開発は進むと思われますが、新規の土地取引、宅地開発は、縮小傾向が強まりそうです。
 
インバウンド効果を見込んで投資した設備も、人の移動制限の影響を受け死活問題になりかねません。事業が展開できないからといって、土地を売却しようにも、購入価格で売れる保証は考えられません。地域によっては、投げ売りに近い価格で取引されることも予想されます。
 
経済の基調が変化せず、人の移動も自由に行える状況であれば、今回の公示価格は意味があります。しかし環境が変化すると、栄華を極めた過去の数値だけが残ることになりかねません。
 
株価を例にすれば、日経平均が1月には2万4000円ほどだったものが、3月には1万7000円を切るほど下がるのと同様な事態になります。公示価格とは無関係に、実勢価格はかなり下がる可能性があります。

土地の実勢価格は下落傾向へ

公示価格自体が実態取引の後追いのため、すでに昨年時点で住宅地の取引価格は、一部では下落傾向にありました。今回公表された数値では、価格が微増の地点が多かったといえますが、実際は微減の地点も多く、河川の氾濫、崖崩れの危険がある地域では、大きく下落していました。
 
今後、住宅地の実勢価格は1年またはそれ以上、上昇の余地は限られており、下落基調が続くと思われます。
 
高値で最近土地を購入し、マンション建設を進めたデベロッパーは、今後販売にあたっては、思い通りの価格で売れるか不透明になるかもしれません。
 
都心回帰の動きの中で、都心部のマンションは高額でも非常に人気がありましたが、この人気にもブレーキがかかりそうです。今後は、7月に国税庁が公表する「路線価」や、9月に国土交通省が公表する「基準地価」の数値がどうなるかも注目されます。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト


 

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