更新日: 2019.11.27 その他

自然災害時の税制上の救済措置とは?活用する方法を解説

執筆者 : 星田直太

自然災害時の税制上の救済措置とは?活用する方法を解説
この秋に極めて強い勢力を持つ台風15号と19号等が襲来し、大きな災害をもたらしたことは記憶に新しいところです。まずは、これらの台風によって被害に遭われた方々に対しまして、謹んでお見舞いを申し上げます。
 
本稿では、台風等の自然災害によって被害に遭った場合の税務上の救済措置である、「所得税法上の雑損控除」と「災害減免法による所得税額の軽減免除」について解説をします。
 
災害によって損害を受けた場合は、所得税法上の雑損控除か災害減免法のいずれか有利な方法を選択し適用を受けることができますが、それぞれ相違点がありますので、注意が必要です。
 
対象となる方は、令和元年度の確定申告で手続きすることを忘れないようにしてください。なお、本稿は令和元年10月1日現在の税制にもとづいていますのでご留意ください。
星田直太

執筆者:星田直太(ほしだ なおた)

税理士、ファイナンシャル・プランナー(CFP(R))

一般企業勤務を経て、30代から税務会計の世界に入り、税理士とCFPの資格を取得。

税理士法人勤務時には法人税務顧問、ベンチャー支援、事業再生、相続・事業承継といった多様な業務に従事。公的機関での勤務も経験した後、2014年に独立。現在は西新宿に税理士事務所を開業している。

中小企業向けの講演多数。他の専門家とも多く提携しており、ワンストップでお客様のお悩みに対応できる体制を構築している。

雑損控除

(1)雑損控除とは
災害等によって損害を受けた場合に、所得控除を受けることができる仕組みです。
 
所得控除とは、基礎控除や配偶者控除、社会保険料控除のように、「所得金額から差し引かれる金額」をいいますので、この所得控除を受けることで課税所得が減少し、所得税と復興特別所得税の額を減少させることができます。また、住民税にも同様の制度があります。
 
雑損控除の対象となる損害の発生原因は、「災害、盗難、横領」ですが、ここでは災害だけに着目しましょう。そして、対象資産については、「生活に通常必要な資産」とされています。
 
「生活に通常必要な資産」に該当しないものの例としては、主に以下のようなものが挙げられます。
 
<生活に通常必要な資産に該当しないものの例>
・事業用の資産
・別荘
・1個または1組の価額が30万円を超えるような貴金属、絵画、書画、骨董品など
 
そして、資産の所有者についても要件が定められています。納税者本人だけではなく、その年の総所得金額等が38万円以下である同一生計の配偶者やその他の親族の所有である場合も、この雑損控除の対象とされています。適用もれがないように注意してください。
 
(2)雑損控除の金額
以下のAまたはBの、いずれか「多い」金額とされます。
 
A 差引損失額※ ― 総所得金額等 × 10%
※差引損失額=損害金額+災害関連支出の金額-保険金等によって補てんされる金額
 
B 災害関連支出の金額 - 5万円
 
「災害関連支出」とは、災害に関連して支出した、やむを得ない費用のことで、例えば災害により滅失した住宅の取り壊しや原状回復、家財の除去に要した費用等をいいます。
 
そして、この災害関連支出のうち、災害によって生じた土砂等を除去するための支出や住宅・家財の原状回復支出等の一定支出については、原則として「災害のやんだ日の翌日から1年以内に支出したもの」が対象となります。
 
(3)損失額の把握
住宅や家財などについて受けた損失額は、損失を受けた時の直前における時価によって計算をしますが、損害金額を計算することはなかなか難しいものです。
 
国税庁では「雑損控除における「損失額の合理的な計算方法」を公開(※1)していますので、参考にしてみてください。
 
例えば、住宅については以下のように計算されます。
 
住宅の損失額 = (住宅の取得価額 - 減価償却相当額)× 被害割合
 
被害割合は、全壊の場合は100%、半壊の場合は50%、一部破壊の場合は5%といったように、被害状況によって定められています。
 
(4)雑損控除の繰越し
雑損失について、その年の所得から控除しきれなかった金額があるときは、翌年以降3年間にわたって繰り越すことができます。
 
なお、青色申告をしていない納税者(白色申告者)についても、この繰越控除の適用があります。

災害減免法

(1)災害減免法による所得税額の軽減免除とは
災害減免法の対象は、災害によって時価の2分の1以上の被害を受けた住宅や家財(ただし、保険金等によって補てんされる部分を除きます)です。損害の程度について「時価の2分の1以上」という要件がありますので、注意が必要です。
 
さらに、災害にあった年の所得金額の合計額が1000万円以下であって、その災害について雑損控除の適用を受けないことが求められます。つまり、同一の災害によって生じた損失について、災害減免法と雑損控除の併用はできません。
 
(2)災害減免法によって減免される所得税額
減免される所得税額は、所得金額の合計額によって、以下のように定められています。
 

 
なお、災害減免法には、雑損失のような繰越控除の規定はありません。
 
(3)損害額の把握
災害減免法において、住宅や家財について生じた損害金額がその住宅や家財の時価の2分の1以上であるかどうかは、被災した時点での時価により算定することになります。
 
この算定について、一定の場合においては雑損控除による損失額の合理的な計算方法にすることもできるとされています。

確定申告の添付書類

国税庁ホームページでは、「災害により住宅や家財に被害を受けた場合の損失額の計算書等」を公開(※2)しています。該当サイトをご確認ください。

おわりに

気候変動の影響によって、自然災害が大型化しているという点が指摘されています。従って、今回の台風に限らず、今後も大きな自然災害に遭遇する機会のあることが想定されます。
 
災害による被害が大きくならないように備えることが最も大切なことですが、もし被災してしまった場合には、救済措置等を知ってこれを活用することが通常の生活を取り戻す一助となるかもしれません。
 
もしお困りのことがあれば、お近くの専門家や公的支援機関、自治体に相談をしてみることをお勧めします。
 
出典
(※1)国税庁「災害により被害を受けられた方へ(雑損控除における「損失額の合理的な計算方法」)
(※2)国税庁「(参考)災害により住宅や家財に被害を受けた場合の損失額の計算書等」
 
執筆者:星田直太
税理士、ファイナンシャル・プランナー(CFP(R))

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