15年近く母の介護をしておりますが、兄は遠方に住んでいて何も関与していません。それでも相続は兄妹で“半々”と言われました…。介護してきた分は何も考慮されないのでしょうか?
配信日: 2025.08.07

今回は、母親の介護をする子どもやその他関係者などとの寄与分について学んでみましょう。

ファイナンシャルプランナー CFP
家電メーカーに37年間勤務後、MBA・CFPファイナンシャルプランナー・福祉住環境コーディネーター等の資格を取得。大阪府立職業訓練校で非常勤講師(2018/3まで)、2014年ウエダFPオフィスを設立し、事業継続中。NPO法人の事務局長として介護施設でのボランティア活動のコーディネートを担当。日本FP協会兵庫支部幹事として活動中。
寄与分についての民法
寄与分については民法で定められていますので、最初に民法の条文を見てみましょう。
民法第904条の2[寄与分]の条文は、通常、「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供や財産上の給付を行った者や、被相続人の療養看護よって被相続人に特別の寄与をした者があるときは、相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする」と解釈されています。(※1)。
したがって、家族のなかで親の介護に特別の寄与をした人は、法定の相続分に加算して寄与分の請求をすることができることになります。
特別寄与料について
寄与分は、「被相続人の財産の維持・増加に特別な貢献をした相続人に相続分を超えて相続させる」となっており、単に親などの世話をしていたという程度では認められないものです。
元々、寄与分の対象者は法定相続人に限られていました。
しかし、2019年の民法改正によって、新たな条文(1050条「特別の寄与」)が設けられ、特別寄与者が特別寄与料を請求できることになり、被相続人の法定相続人でない親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)も対象になることになりました(※2)。
寄与分が認められる要件
寄与分が認められるのは、単に親などの世話をしていたという程度でなく、「特別の寄与」とされており、具体的には以下のような要件が必要とされています。
・片手間ではなく、日常生活の相当部分を介護に割いていること
・長期間継続していたこと
・被相続人と相続人の関係(夫婦や親)から普通に行われる程度以上の行為であること
寄与分の算定方法についての考え方
寄与分の額の算定は、定まった基準があるわけではなく、個々の事情や同様の事例に基づくものと考えられています(調停例など)。そのうえで以下の2つの考え方があるとされています。
・介護のため、ヘルパー等の専門職の日当額から相応額を控除した額を基準に算定する
寄与分を請求する場合に必要なこと
寄与分について相続人の間で、円満に協議が調えばそれに越したことはありません。ただし、遺産分割協議が円満解決できない場合は、調停や審判ということもあり得ます。そのため、寄与分が認められる要件に合致するか確認することと、寄与分の額を算出するには、詳細の記録が不可欠となります。
したがって、将来そのようなことが予測される場合は、介護の始まった時点から可能な限り詳細な記録が必要です。また、家計の支出についても、対価と受け取られないような支出管理と領収書などの保管も大事になります。
終わりに
本記事の例のように、母親を15年間介護してきた場合は、寄与分が認められる可能性はありますが、寄与分が認められる要件に合致するかがポイントです。そのため、本格的な介護が始まる前に、家族間で介護の役割や費用負担を話し合ってお互いに確認することが大切です。
相続時のトラブルを避けるためには、このような事前の話し合いと記録が不可欠となります。円満な家族関係を維持することは大切ですが、時には弁護士などの専門家に相談することが必要な場合もあるかもしれません。
出典
(※1)デジタル庁 e-GOV 法令検索 民法 第904条の2【寄与分】
(※2)デジタル庁 e-GOV 法令検索 民法改正 1050条 特別寄与料の請求権の創設~
厚生労働省 第217回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料 【資料1】介護分野の最近の動向について
執筆者 : 植田英三郎
ファイナンシャルプランナー CFP