年金生活の母が「医療費が高くて不安」と言っています。収入が少ない高齢者は医療費を安くできる制度があるのでしょうか?
配信日: 2025.08.01

本記事では、一般的な年金生活者の女性(夫がすでに亡くなり一人暮らし)が、平均的な年金額(収入が少ない)を受給しているケースを想定し、医療費の負担や支援制度などを確認していきます。

ファイナンシャル・プランナー
住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
年齢による窓口での自己負担割合
公的医療保険には、主に3つの種類があります。
(1)被用者保険(健康保険など)
(2)国民健康保険(無職、自営業者など)
(3)後期高齢者医療制度(原則75歳以上で加入)
年金生活の母の場合、74歳までは国民健康保険、75歳以上で後期高齢者医療制度に加入していることが想定されます。
そして、医療費の窓口負担割合は、年齢や所得に応じておおむね以下のようになります。
(1) ~69歳 3割負担
(2)70歳~74歳 原則2割負担(現役並み所得者は3割負担)
(3)75歳~ 原則1割負担(現役並み所得者は3割、一定以上の所得者は2割負担)
今回の相談者の母親のように一人暮らしの後期高齢者の場合、「年金収入+その他の合計所得金額」が200万円以上であると、2割負担に該当する可能性があります。
高額療養費制度とは
高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額(入院時の食事負担や差額ベッド代等は含まない)が、ひと月で上限額を超えた場合の金額を支給する制度です。
今回の事例では、一般的な女性の年金生活者として、厚生労働省の「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」に掲載されている「平均年金月額」である、老齢基礎年金5万5777円、老齢厚生年金10万7200円を参考とし、年金額約195万円と仮定します。
この場合、高額療養費のひと月の上限額は、年収約370万円までの人(住民税非課税世帯を除く)であれば5万7600円/月となります。さらに、70歳以上の場合には外来だけの上限額として、1万8000円/月(14万4000円/年)が設定されています。
多数回該当とは
上限額を過去12ヶ月以内に3回(月)以上超えた場合、4回目以降は「多数回」に該当し、高額療養費の上限額が下がることになります。今回の事例では、上限額が5万7600円/月であったところ、多数回該当月は4万4400円/月に引き下げられます。
世帯合算とは
今回の相談者の母親のような、一人暮らしの場合には該当しないケースが多いですが、一人1回分の窓口負担では上限額を超えない場合でも、複数の受診や、同一世帯で同じ医療保険に加入している方の受診においては、自己負担額を合算することができます。世帯単位で上限額を超えていれば、高額療養費の対象とすることができます。
ただし、このときは同じ医療保険へ加入していることが合算の条件となります。例えば、健康保険に加入している会社員の医療費と後期高齢者医療制度に加入している母親の医療費は、同居している場合でも合算することができません。また、69歳以下の場合は、同じ月で1医療機関ごとに、2万1000円以上の自己負担の場合のみ合算することができます。
高額医療・高額介護合算療養費制度とは
高額医療・高額介護合算療養費制度とは、世帯内で同一医療保険の加入者について、毎年8月から1年間にかかった医療保険と介護保険の自己負担を合計して、基準額を超えた額を支給する制度です。高額療養費制度が月単位での負担軽減であるのに対して、この制度は年単位での負担を軽減できます。
医療費控除制度とは
医療費控除制度とは、納税者本人(または生計を一にする配偶者その他の親族)が1年間に10万円超の医療費を支払った場合に、所得税や住民税について一定金額の所得控除を受けることができる制度です。ただし、総所得金額等が200万円未満の場合は、10万円ではなく、総所得金額等×5%が基準となります。
また、医療費控除制度を適用する場合には確定申告が必要となります。
まとめ
本記事では、年金生活者である一人暮らしの母を想定し、医療負担を軽減する制度を記載しました。ここで紹介した制度を利用する場合には、原則として本人が加入している公的医療保険に、自ら申請する必要があります。高額療養費の申請から支給までには少なくとも3ヶ月程度かかるとされています。
また消滅時効は、診療を受けた月の翌月の初日から2年間となります。2年の範囲内であれば、過去にさかのぼっての申請も可能ですので、申請漏れのないように注意しましょう。
出典
内閣府大臣官房政府広報室 政府広報オンライン 後期高齢者医療制度 医療費の窓口負担割合はどれくらい?
厚生労働省 令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況
厚生労働省 高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)
国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
執筆者 : 高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー