奨学金を安心して利用するためにすべきこと(2)
配信日: 2019.04.05 更新日: 2019.06.14
2.7人に1人が奨学金を利用しなければ大学や短大に通えない現状には疑問を抱きますが、奨学金はこれから大学を目指す人にとって選択肢のひとつとなります。
前回につづき、安心して奨学金を利用するためにしなければならないことを解説していきたいと思います。
※この記事で日本学生支援機構の資料とは、「奨学金事業への理解を深めていただくために〔報道等を見て関心を持たれた皆様に向けたデータ・ファクト集〕」を指します。
執筆者:藤孝憲(とう たかのり)
CFP(R)認定者・VBAエキスパート(Excel)
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奨学金の延滞者数は減少傾向
日本学生支援機構の資料によると、3ヶ月以上の延滞者数は21年度をピークに減少し、返還者に占める割合は3.7%、15.7万人(平成29年度)となっています。また、平成28年度に新たに自己破産となった数は2009件です。
確かに全体から見れば件数は減少傾向ですが、奨学金の返済が負担になっている人が少なからずいるのも事実です。将来の状況次第では、皆さんも延滞者になる可能性があることに注意しなければなりません。
返済が厳しくなったときに利用するセーフティネットの充実
前回、月々の返済額を減らせる「減額返還制度」と、一定期間返済しなくてもよい「返還期限猶予制度」があることを紹介しました。
日本学生支援機構の資料では、セーフティネットの充実で「安心して返済できる」ことを強調していますが、セーフティネットを使わなければならない人が増えているとも言えます。
制度の利用件数は合わせて18万件ほどです。先ほど、延滞者は減少傾向であることを紹介しましたが、セーフティネットの利用者増加が原因のひとつかもしれません。つまり余裕を持って返済できる人が増えたのではなく、セーフティネットの利用で、数字上、延滞者が減っただけの可能性もあります。
ちなみに、減額返還制度は最長15年、返還期限猶予制度は通算10年が限度です。その分、当初の予定より返済期間が延びることも注意しなければなりません。
機関保証一本化で保証料の負担が増える
奨学金を利用する際、連帯保証人と保証人を1人ずつ立てる「人的保証」か、保証機関に保証してもらう「機関保証」を選択できます。
しかし、奨学生・保証人の自己破産の問題や2018年11月ごろに報じられた保証人に対する全額請求などもあり、保証料を支払う機関保証に一本化する動きがあります。
保証料は利率や貸与額によりますが、利率0.33%、貸与月額8万円でシミュレーションすると、総額20万円程度必要となります。保証料は毎月受け取る奨学金から差し引かれます。
これまで保証料の負担を回避するために人的保証を選ぶことができなくなりますと、返済の負担は増えることになります。
<奨学金 返済シミュレーション 貸与月額別返済額・返済回数>※
高校生にどこまで「借金」であることの認識があるか
さて、奨学金は金利が非常に低く、大学に行きたくても資金不足で行けない人にとっては、なくてはならない制度です。「借りるなら」、日本学生支援機構の奨学金は第一候補になるでしょう。
しかし、3ヶ月以上の延滞者や自己破産者が少なからずいること、ほとんどが返済しているにしても返済が負担になっていることを考えると、奨学金を利用する前に考えなければならないことがあるはずです。
例えば大学卒業後、20年間返済すると完済時の年齢は40歳台前半です。結婚し、子供も誕生している可能性があります。この時期は、教育資金の準備や住宅取得の検討を始める時期でもあり、奨学金の返済が負担になることもあります。「延滞していなければ問題ない」というわけではないのです。
入社後、数万円の返済が待っていることは分かっていても、実際の生活をイメージできなければ、返済については後回しになりがちです。
日本学生支援機構も高校に講師を派遣し、奨学金の理解に力を入れていますが、入社後の生活設計まで指導できているか疑問です。もし「余裕を持って返済できる金額」ではなく、「在学中に必要な金額」に重点を置いているならば、高校生側にたった説明とは言えません。
「大学で学びたい」という意識が強ければ、社会人で大学費用を貯めた後、大学に戻ることもできます。決して簡単な方法ではありませんが、高校生には複数の選択肢があることも知っていただきたいところです。
出典:日本学生支援機構「5.奨学金に関する情報提供」
※日本学生支援機構「奨学金貸与・返還シミュレーション」
執筆者:藤孝憲(とう たかのり)
CFP(R)認定者・VBAエキスパート(Excel)