更新日: 2019.06.28 その他
東日本大震災から8年。震災遺児の進学の夢をサポートする珍しい奨学金とは?
子どもたちの夢を支援するためには大学等に進学して学ぶ機会を与えることが大切です。そのためには経済的な支援と精神的なサポートが必要です。この2つを支援する珍しい奨学金がありますので紹介したいと思います。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/
大学・短大・専門学校に進学するのにいくら必要?
学費について確認しましょう。国立大学の入学料は282,000円、授業料535,800円の合計817,800円となっています。私立大学は進学する学部学科により学費が大きく異なりますが、国立大学にはそのような差は基本的にありません。
文部科学省「平成29年度私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)の調査結果について」によると、初年度納付金は以下の通りになっています。
・私立大学文科系学部
入学料:231,811円
授業料:781,003円
施設設備費:152,496円
合計:1,165,310円
・私立大学理科系学部
入学料:254,941円
授業料:1,101,854円
施設設備費:184,102円
合計:1,540,896円
・私立大学短期大学部、私立短期大学(全平均)
入学料:244,948円
授業料:699,876円
施設設備費:174,548円
合計:1,119,372円
次に私立専門学校の学費について見てみましょう。公益社団法人東京都専修学校各種学校協会「平成29年度学生・生徒納付金調査」によると、初年度納付金の総平均(昼)は次のようになっています。
入学金:18万円
授業料:69.1万円
実習費:12万円
設備費:20万円
その他:6.6万円
合計:125.7万円
なお、初年度納付金(平均)が最も高い学科は、理学療法・作業療法の168.7万円、最も安い学科は看護学科の97.5万円となっています。ただし、看護学科は最高額で153.4万円、最低額で46万円とバラツキが大きいです。
生活費はどのくらいかかる?
続いて、進学後の生活費も確認しておきましょう。自宅生と下宿生では、金額で大きな差が出るのは、主に収入面では小遣い・仕送り、支出面では食費と住居費です。
大学生協の資料によると、支出(食費、住居費、交通費、教養娯楽費、書籍費、勉学費、日常費、電話代、その他、貯金・繰越)の合計が、1か月あたり、自宅生では67,200円、下宿生では、126,100円と、下宿生が自宅生の約2倍となっています。
震災遺児の子どもたちは、保護者の支援が期待できないと思われますので、学費も生活費も自ら工面しなければならないでしょう。経済的にとても厳しい状況にあります。
震災遺児の子どもたちが利用できる奨学金の代表的なものに「あしなが育英会の奨学金」があります。
返済義務のある無利子貸与型と返済義務のない給付型が組み合わさった奨学金で、大学・短期大学奨学金(一般)は月額7万円(内貸与4万円・給付3万円)、大学・短期大学奨学金(特別)は月額8万円(内貸与5万円・給付3万円)、専修・各種学校奨学金は月額7万円(内貸与4万円・給付3万円)となっています。
また、私立学校へ入学する際の入学一時金制度や、高校奨学生対象の大学などへの進学仕度一時金の制度もあります。
公益財団法人みちのく未来基金
上記で見たように、子どもたちが何を目指すかにより進学費用は大きく異なります。また、進学先が国公立か私立かによっても大きく変わってきます。
それにもかかわらず、ほとんどの奨学金の貸与額や給付額は、子どもたちの進学先に関わらず基本的に選択できる金額は同じになっています。
これからご案内する、みちのく未来基金の奨学金は、「進学先や目指す職業や資格習得のために一人ひとり必要な学費を卒業までの全額支援する奨学金」である点で、日本でも珍しい奨学金となっています。
みちのく未来基金の奨学金を利用できるのは、(1)東日本大震災で両親またはいずれかの親を亡くしていること、(2)高校を卒業もしくは高等学校卒業程度認定試験に合格し、大学(短大・専門学校)への進学を希望する者であること(ただし、進学時点で20歳を超えていないこと)です。
入学金・授業料の全額(年間上限300万円)を卒業まで受けることができます。給付金は返済の必要がありません。
震災当時0歳児だった子どもが高校卒業後の進学先(大学・短大・専門学校)に入学し卒業するまで活動が継続されます(約25年間)。毎年の定員を設けていないのも特徴です。
ただし、施設設備費などの学費は原則対象外ですし、下宿する場合の生活費も対象外ですので、あしなが育英会や日本学生支援機構などの奨学金で別途手当てする必要があります。
震災遺児の子どもたちが高校卒業後の進学を断念するのは、経済的理由だけではありません、近くに大学や専門学校がない場合は、自宅を離れて、遠い町で一人暮らしをする必要があります。
基金によると、「寝たきりのおじいちゃんをおかあちゃん一人ではお風呂に入れられないから」「お父さんは妹や弟のお弁当を作れないから、私が地元に残ってお母さんの代わりをする」など、家族を思う気持ちが強い生徒ほど進学を諦めるといいます。
そこで基金は単に奨学金を給付するだけではなく、子どもたちに寄り添う精神的なサポートも学校の先生と協力して行っています。震災遺児の子どもたちをご存じでしたら、ぜひ、この奨学金を教えてあげてください。
参照
公益財団法人みちのく未来基金のホームページ
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー