高額療養費制度の「上限額引き上げ」は見送りに! 制度変更された場合「年収800万円」の人への影響はどれくらい? 影響を解説

配信日: 2025.06.05

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高額療養費制度の「上限額引き上げ」は見送りに! 制度変更された場合「年収800万円」の人への影響はどれくらい? 影響を解説
2025年の8月に予定されていた「高額療養費制度の上限額引き上げ」ですが、今回は見送られることが決まりました。ただし、将来的には段階的に引き上げられる見込みです。実際どれくらい負担が増えるのか、気になる人も多いでしょう。
 
本記事では、高額療養費制度の概要について解説します。

高額療養費制度の概要

高額療養費制度は、医療費の自己負担額が高額になった際、経済的負担を軽くしてくれる制度です。この制度は、1ヶ月単位で医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が、一定の上限額(自己負担限度額)を超えた場合に適用されます。
 
自己負担限度額は、所得区分によって異なります。現行制度における「70歳未満」の患者の場合の計算方法は図表1のとおりです。
 
なお、本記事での計算は、過去12ヶ月間に3回以上高額療養費の支給を受けた場合、4回目から自己負担限度額がさらに下がる「多数回該当」に関しては考慮していません。
 
図表1

年収区分 控除額
住民税非課税 3万5400円
年収約370万円未満 5万7600円
年収約370万円~約770万円 8万100円+1%
年収約770万円~約1160万円 16万7400円+1%
年収約1160万円~ 25万2600円+1%

厚生労働省 高額療養費制度を利用される皆さまへ より筆者作成
 
※「+1%」とは、定率窓口負担額を超える医療費に対して1%の自己負担を求めるものです。
 

予定されていた段階的な制度変更内容

高額療養費制度は段階的な制度変更が予定されており、2025年の8月から1回目の制度変更が行われる予定でした。しかし、3月に政府が方針転換しました。8月の引き上げを見送り、6月に入ってもその方針は変わっていません。
 
しかし、いずれ負担上限額引き上げが実行される可能性は残っています。ここからは当初予定されていた段階的な制度変更内容について、「70歳未満」患者を例として解説します。
 

2025年8月~2026年7月で予定されていた「定率引き上げ」

2025年8月~2026年7月に「定率引き上げ」が実施され、図表2のような自己負担額になる予定でした。
 
図表2

年収区分 控除額
住民税非課税 3万6300円
年収約370万円未満 6万600円
年収約370万円~約770万円 8万8200円+1%
年収約770万円~約1160万円 18万8400円+1%
年収約1160万円~ 29万400円+1%

財務省 令和7年度社会保障関係予算のポイント より筆者作成
 
※「+1%」とは、定率窓口負担額を超える医療費に対して1%の自己負担を求めるものです。
 

2026年8月~2027年7月では「さらに細分化」して限度額を引き上げる予定だった

2026年8月から2027年7月は、限度額を細分化したうえで変更される予定でした。当初予定通り引き上げされた場合、具体的な計算は図表3の通りです。
 
図表3

年収区分 控除額
住民税非課税 3万6300円
年収約200万円未満 6万600円
年収約200万円~約260万円 6万5100円
年収約260万円~約370万円 6万9900円
年収約370万円~約510万円 8万8200円+1%
年収約510万円~約650万円 10万800円+1%
年収約650万円~約770万円 11万3400円+1%
年収約770万円~約950万円 18万8400円+1%
年収約950万円~約1040万円 20万4300円+1%
年収約1040万円~約1160万円 22万200円+1%
年収約1160万円~約1410万円 29万400円+1%
年収約1410万円~約1650万円 32万5200円+1%
年収約1650万円~ 36万7200円+1%

財務省 令和7年度社会保障関係予算のポイント より筆者作成
※「+1%」とは、定率窓口負担額を超える医療費に対して1%の自己負担を求めるものです。
 

2027年8月以降には「さらに限度額引き上げ」予定だった

2027年8月以降には、前項の細分化区分は変えず、限度額をさらに引き上げる予定でした。当初予定通りのスケジュールであれば、図表4のようになる予定でした。
 
図表4

年収区分 控除額
住民税非課税 3万6300円
年収約200万円未満 6万600円
年収約200万円~約260万円 6万9900円
年収約260万円~約370万円 7万9200円
年収約370万円~約510万円 8万8200円+1%
年収約510万円~約650万円 11万3400円+1%
年収約650万円~約770万円 13万8600円+1%
年収約770万円~約950万円 18万8400円+1%
年収約950万円~約1040万円 22万500円+1%
年収約1040万円~約1160万円 25万2300円+1%
年収約1160万円~約1410万円 29万400円+1%
年収約1410万円~約1650万円 36万300円+1%
年収約1650万円~ 44万4300円+1%

財務省 令和7年度社会保障関係予算のポイント より筆者作成
※「+1%」とは、定率窓口負担額を超える医療費に対して1%の自己負担を求めるものです。
 

年収800万円の人の「上限額」はどうなる

ここからは年収800万円の人を例として、「上限額」がどのように変化するのか紹介します。
 
前項までの計算を参照した場合、年収800万円の人の高額療養費制度の「上限額」は、現行制度では「16万7400円+1%」ですが、段階的に上昇予定であり、2027年8月以降には「18万8400円+1%」となり、自己負担額が現行制度よりも負担が大きくなるため注意が必要です。
 

民間の医療保険に入るべきかどうか

少子高齢化が続くことを念頭に置いた場合、今後高額療養費制度が変わる可能性は残っています。自衛手段として民間の医療保険には入るべきなのでしょうか。
 
検討の際の判断材料の1つは、本記事で紹介した高額療養費制度における「自己負担上限額」です。自身の年収区分から自己負担上限額を確かめましょう。その自己負担が仮に「3ヶ月」続くとして、全て貯蓄から問題なく支払えるのであれば、医療保険に加入する緊急性は下がります。
 
一方、自己負担上限額「3ヶ月分」を払えるだけの余裕がないのであれば、医療保険に加入する意義はあるでしょう。
 
上記は1つの判断基準に過ぎませんが、高額療養費制度の今後の改悪を見越した上で、自分と家族が金銭的に安心して生活を送っていけるのか確かめたいところです。
 

まとめ

本記事では、何度も方針転換が行われている「高額療養費制度の上限額引き上げ」について解説しました。この機会に「民間の医療保険に入るべきか」を検討するのもいいでしょう。今後制度が変わったとしても、家族全員が安心して生活できるような状態にしておきたいですね。
 

出典

財務省 令和7年度社会保障関係予算のポイント
厚生労働省 高額療養費制度を利用される皆さまへ
 
執筆者:小林裕
FP1級技能士、宅地建物取引士、プライマリー・プライベートバンカー、事業承継・M&Aエキスパート

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